第2話 春の微睡みとゴリラヤクザ(2)
広い屋上を駆け回りながら霧島は清水の方をちらりと振り返る。
やはりそこに居るのは鬼の方がマシなのではと言う程恐ろしい表情のゴリラもとい清水。
「やっべ、振り返らなきゃよかった。凛ちゃん先生の顔めっちゃ怖え……」
「うわ、本当だ……」
「誰の顔がゴリラだってェ!?」
「「ゴリラの方がマシ」」
「んだとテメェ!」
火に油を注いだ2人は慌てて非常階段を使って屋上から逃げ出す。
それを逃さんとばかりに清水も追いかけ、校内はより一層騒がしくなっていた。
「あっ、おい!またやってるぞ」
「懲りないなぁ。アイツ今度は何したんだ?」
「あ、今日は桜木も居る」
廊下を全力疾走する3人を止める人は誰も居らず、むしろ楽しんでいる節まである生徒達。
皆一様に廊下の端に寄って彼らに道を開けていた。
当然である。誰もあんな弾丸にぶつかりたくはない。
「おーい、霧島ー!今日は何したんだー?」
端に寄っていた内のひとりが、そう声をかけると霧島は半ば怒鳴る形でその問いに答えた。
「知らねぇし!今日のは冤罪だわ!」
「しらばっくれてんじゃねえぞ、お前俺の数量限定いちご大福食っただろ!」
「食ってねぇって!つか大人気なさすぎだろ!」
「うるせぇ!」
何回油を注げば気が済むのか。清水の怒りは天井知らずで、より一層迫力の増した姿で2人を追いかけた。
「あっ、先生!丁度良いところに!」
清水の鬼の形相に気づいていないのか満面の笑みで彼にかけ寄る老齢の男に、清水は内心で毒づいた。
(このジジイ、話が長いんだよな)
しかし、ゴリラヤクザも教師という立場上、校長には強気に出れないようで普段の口の悪さはどこへやら、一転して丁寧な口調で校長を鋭く睨みつけた。
言葉遣いは隠せても、態度は隠せないのが清水凛太郎という男だった。
「校長、今は生徒指導で忙しいもので後に」
「先生の差し入れてくれた、いちご大福が美味しくて美味しくて!あれどこのお店のなんです?もしよければまた差し入れてくれると……」
「は……?」
苛立ちを隠せずに対応していた清水の口が止まる。その顔を見た周囲の生徒達は息を呑み恐怖のあまり震え上がった。
空気を読まない校長は清水の怒りを知ってか知らずか、更に言葉を続ける。
「相当いいお店のやつなんじゃないですか?」
「……ええ、あれはねェ数量限定でしてねェ……」
「ああ!なる程、そうだったんですね!いやあ、良い先生を持って私は幸せ者ですよ」
「ははは、そうですかァ」
乾いた笑いを発する清水の鋭い視線には気づかず、校長はそのまま廊下を歩いていく。
突然の出来事に唖然とする霧島に、清水はボソリと呟いた。
「……霧島ァ、面白い野球教えてやるよ」
「えっ、マジすか!」
先程の恐ろしい鬼ごっこなどなかったかのように清水の後ろをついていく霧島と、彼に引きずられていく桜木。
(絶対禄なことじゃないんだろうな……)と霧島を除く生徒達の思考は完全に一致していたのだった。
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