青春は箒と雑巾でできているらしい

ぴーたー

第1話 春の微睡みとゴリラヤクザ(1)

「ふわぁ……っふ」


遮るものが無い屋上は春の暖かな日差しと、柔らかに吹く風で眠気を誘う。


小さく聞こえる休み時間特有の喧騒をBGMに桜木奏太さくらぎかなたの新学期最初の昼休みは穏やかに始まった。




桐が咲高校に入学してから1年が経ち、奏太も高校生活に大分慣れてきていた。

ただ、慣れてくると訪れるのは同じ事の繰り返しでの退屈さ。

刺激を求めて少しばかり悪い事をしてみたくなるのもこの頃合いである。


奏太は幼馴染に誘われ(唆されとも言うが)立入禁止の屋上へとやってきたのだが肝心のその幼馴染が不在。既に奏太はひとりで15分程ひなたぼっこをしている。


前述した通り、春らしく眠気を誘う気候は絶えず奏太を睡魔として襲っており、奏太は同年代の男子と比べて小柄で華奢な体を抱えこんで今にも眠ってしまいそうだった。


奏太も幼馴染がやって来ていない以上、起きていなければと頭の端で考えたのだが、よくよく考えて、そもそも向こうが遅れているのだからと納得し本格的に寝に入ることを決めた。


(どうせ、また先生に捕まってるんだろうし)


理由がついた事により抗う必要のなくなった心地よい微睡み特有の感覚に奏太が身を委ねようとしたその時。



カンカンカンカンッ



鉄板の非常階段を駆け上がる音が聞こえ、慌てて奏太は身を起こしてそちらを見やった。


「奏太ー!助けてくれ!!」

「遅い、何して…………ちょっと、何てモノ連れてきてるの!?」


屋上にやってきたのは幼馴染である霧島勇人きりしまゆうと。慌てて奏太にかけ寄ると開口一番、彼に助けを求めた。


「オイコラ待てェクソガキィ!!!!」

「アレ何とかしてくれよ!?」

「無理、ゴリラヤクザだよアレ。捕まったら絶対海に沈められる」


何のことだといった風に返事をする奏太だったが、霧島の後方に鬼の形相をした社会科担当の教師、清水凛太郎しみずりんたろうを見つけた瞬間に脱兎の如く走り出していた。


「今日という今日は許さねぇからなァ!」

「ねえ、僕巻き込まれただけじゃない!?」

「そうとも言う!」

「そうとしか言わないんだよ馬鹿!」


こうして桜木奏太の穏やかな昼下りは、清水凛太郎ゴリラヤクザの襲来であっけなく終わりを迎えたのだった。


なんという不運体質。

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