第44話・ウクブレストの呪い
「お兄様ったら、リカルド様にご迷惑ばかりかけてっ!」
リカルドへ挨拶もまともにできないまま別れる事になり、ターニアは頰を膨らませていたが、馬車が動き出すと黙り込み、俯いてしまった。
馬車の中には、ディスタルとターニアの二人きり。
ふう、と息をついたディスタルは、無言で両手をターニアの前に出した。
「何ですか?」
「見ればわかるだろう」
「自業自得よ。もうしばらく付けていらっしゃったら?」
「ターニア……」
腕を伸ばして早く外せと促すと、ターニアはため息をついて小さく頷き、リカルドから受け取った鍵でディスタルの手枷を外してくれた。
ディスタルは手枷が外れた手首を撫でながら、ターニアに声をかける。
「ターニア、今、ウクブレストで何が起こっている」
「え?」
驚くターニアに、ディスタルは言った。
「魔力は少ないが、俺も一応はウクブレスト王家の人間だからな。異変にも気付く……。お前が知っている事を、全部話せ」
「お兄様っ……」
ターニアはぽろぽろと涙を零すと、立ち上がり向かいの席に座っているディスタルに抱きついた。
ディスタルはターニアの背中を優しく撫でながら、自分が知りたい事を確認していく。
「スザンヌは、戻ったか?」
ターニアは、首を横に振った。
スザンヌはウクブレストに戻っていないという。
そして彼女の家族は、フレルデントに攻め入ったウクブレスト軍が敗れ、スザンヌが戻らない事を知ると、いつの間にか姿を消してしまったらしい。
「ウクブレストで、何が起こった?」
「地下から……」
「地下?」
「地下から、瘴気が溢れ出てきて……今、お父様とお母様が、魔法でそれを広がらないように抑えていて……お父様は、これは誰かの呪いだろうって……」
「そうか……」
瘴気に気がついたのは、助け出されてだいぶ経った後――王や王妃、そしてターニアを助け出した、ステファンたちフレルデントの兵が去った後で、混乱を避けるために、この事は一部の者しか知らないらしい。
どおりでリカルドが何も言わなかったわけだ、とディスタルは苦笑した。
もしもリカルドがこの事を知っていたとしたら、何か手を打ったはずだろうから。
「お父様は、このままだと魔力が切れて、瘴気が外に流れ出て、国民がみんな呪われて死んでしまうかもしれないって……。だから、自分の中に呪いを閉じ込めて、呪いと共に消えるって言って……もう、私、どうしていいかわかんなくてっ……これも全部、お兄様の……お兄様のせいなんだからっ」
「あぁ、そうだな。悪かった……」
ターニアの言葉に、ディスタルは素直に頷いた。
「え?」
素直に自分の非を認めたディスタルに、ターニアは驚き、兄の顔を見つめた。
ディスタルはターニアの頭を優しく撫でながら、
「その役、俺が父上に代わって行おう」
と言う。
「お、お兄様? 何を、言って……」
「その瘴気の……呪いの原因は、おそらく、スザンヌだ。だから俺が、その呪いを引き受けよう。それが、俺にできる責任の取り方
であり、お前たちに対する謝罪だ……」
「お兄様? 一体、どうなさったのですか? 何かあったのですか?」
ターニアは今までとは正反対のディスタルの言動に混乱したが、ディスタルは楽しそうに笑いながら、彼女を抱きしめ、頭を撫でていた。
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