第34話・会見後の夜
ドラゴン――ハルカゼによってウクブレスト領から救出されたアリアたちは、フレルデント領の国境よりの村の近くに降り立った。
そこには帰した馬車や兵士、そしてアリアたちを心配していたサリーナとクリスが待機していた。
「アリア! 無事なの?」
「アリア姉様っ!」
ハルカゼから降りるとすぐに、サリーナとクリスが駆け寄って来た。
「アリア、大丈夫なの?」
「ドラゴンで戻って来るって事は、何かあったって事だよね? くそ、ディスタルめっ!」
心配する二人に、アリアは大丈夫だと答えた。
リカルドとステファン、そしてハルカゼにも怪我がないはずだと続けると、
「良かったっ……」
「アリア姉様っ!」
サリーナは泣きながらアリアの体を強く抱きしめた。
そしてサリーナごと、クリスが二人を抱きしめる。
サリーナもクリスも、ウクブレストとの会見に着いて行くと言ったアリアを、とても心配していたのだ。
「ただ、ハルカゼに乗る時に、少し手間取ってしまって、お義兄様に迷惑をかけてしまったわ。お義兄様、申し訳ありません」
アリアはステファンに視線を向けると謝ったが、ステファンは首を横に振った。
「いやいや、今回俺がした事なんて、ただ着いて行って脱出する時に、アリアをハルカゼに引き上げたくらいだ。こちらこそ、アリアのおかげで助かったよ。あんな完璧な防御結界を作れるなんて、驚いた。アリアはすごいな」
「完璧な防御結界? 姉様、すごいっ」
褒められ慣れていないアリアは、頰を染めて首を横に振った。
「ロザリンド様にいろいろと教えていただきましたから。全て、ロザリンド様のおかげです」
「アリアは、大ばば様の愛弟子だからね」
リカルドはそう言うと、まだサリーナとクリスに挟まれているアリアに手を伸ばし、引き寄せ抱きしめた。
「ディスタルたちが何かを企んでいるとハルカゼたちが探ってくれて、策を立ててはいったものの、本当に危なかった。アリアの活躍で全員無事だったけど、僕はもう危険な場所には君を連れて行きたくないな。何よりも、ディスタルの視線の先に、君を置きたくないんだ……」
「リカルド様……」
リカルドの体は震えていた。
その震えを止めたくて、アリアはリカルドの体を抱き返した。
彼と離れたくない、彼を守りたい一心で会見に同行すると言ったものの、分を弁えない行為だったかもしれないと、反省する。
「あの、リカルド様……」
「何だい?」
「あちらとの話し合いは、上手くいきませんでした。やはり戦争は起こってしまうのでしょうか?」
アリアが尋ねると、リカルドはアリアを抱きしめたまま、頷いた。
「多分ね。一応忠告はしたけれど、ディスタルの性格なら、退かないだろう。あいつは、そういう男だからね」
「そう、ですか……」
抱きしめ返したリカルドの体から、震えが消える。
もう大丈夫なのだろうかと、抱きしめられながらリカルドの顔を窺い見ると、彼は何も無い宙を鋭い眼差しで睨みつけていた。
「忠告をし、こちらの力も示しておいた。これで尚もディスタルがこちらを攻めるというのなら、俺の全ての力で迎え撃つさ」
宙を睨みつけたまま言ったリカルドを、アリアは少し怖いと思った。
いつもの明るくて優しい彼ではないような気がする。
その気持ちが体に伝わったのか、リカルドが苦笑した。
「ごめんね、アリア。怖かったかい? 震えてるね」
「い、いえ、大丈夫です」
アリアは首を横に振ったが、リカルドはもう一度、「ごめん」と繰り返した。
「怯えさえるつもりはなかったんだ。ただ、僕は君を危険な目に遭わせたくなくてね……それだけなんだよ」
「リカルド様……」
少しおどけたように言ったリカルドにアリアは頷き、彼の腕の中でいつもの優しい彼に戻ったと感じて、ほっと息をついた。
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