第28話・祝福


「あの光は、精霊たちの祝福かな」


 フレルデント王の声が聞こえた瞬間、視界に色が戻ってきた。

 アリアはリカルドと共に、フレルデント王の前に居た。


「君たち二人は、本当に精霊たちに愛されているね。この国の王として、親として、私は君たち二人が誇らしいよ。さぁ、この国の民にも、その姿を見せてやってくれ」


「はい、父上」


 リカルドは笑顔でフレルデント王に頷いた。

 そして、先程まで居たはずの、白い空間での出来事に混乱したままのアリアの肩を抱き、耳元で落ち着くようにと囁く。


「リカルド様……さっきの、あの子たちは……」


「うん、驚いたね。だけど、その事は後から話そう」


「はい……」


 アリアが頷くと、行こう、とリカルドが呟く。

 これから城のバルコニーに出て、フレルデントの国民に姿を見せ、婚礼を終えてアリアがリカルドの妻になった事を、宣言するのだ。


「あ……」


 リカルドとアリアがバルコニーに出ると、雲一つなかったはずなのに、影がさした。

 どうしたのだろうと空を見ると、上空を五匹のドラゴンが飛んでいるのが見えた。

 五匹のドラゴンは何周か円を描くように上空で旋回すると、その姿がよく見えるように城近くまで下降してきて、それぞれ別の方向へと去って行った。

 五匹のドラゴンの色は、緑、赤、水色、金色、黒の五色だった。


「ハルカゼ、ホムラ、スイレイ、コウリン、カゲツヤ……」


 先程出会った五人の子供たちは、あの五匹のドラゴンだったのだろう。

 不思議な白の空間で言葉を交わした後、真の姿を見せて、あれが夢や幻ではなかった事を教えてくれたのだ。

 彼らは自分とリカルドの命がある限り、愛するものを守る、力を貸すと言ってくれた。

 それはなんて光栄で、なんて幸せな事なのだろう。

 感極まったアリアは、涙を流した。


「大丈夫かい、アリア」


「はい。でも……」


「どうしたんだい?」


「私、とても幸せです」


「うん、僕もだよ」


 頷いたリカルドが涙で濡れたアリアの頰に唇を寄せると、歓声が上がった。

 アリアは、今自分たちがバルコニーからフレルデントの民に姿を見せている事を思い出し、真っ赤になったが、リカルドと共に自分たちを見上げる民に笑顔で手を振った。






「アリア、今日は疲れたんじゃないか?」


「いいえ、大丈夫です」


 婚礼の儀、お披露目、パーティーを終え、アリアはリカルドと二人、寝室に居た。


「今日はとても、幸せな日になりました」


「うん、そうだね」


「精霊たちに祝福されて」


「うん」


「ドラゴンたちにも……。私が名前を付けたあの子たち、みんなドラゴンですよね。信じられないけれど」


「うん、そうだね」


「あとは……このフレルデントの国民の方々にも、祝福していただきました」


「うん」


「私は本当に幸せです」


「うん……僕もだよ。だけど……今日は少しだけ、嫉妬してしまったよ」


「え?」


 嫉妬?

 意外な言葉を聞いて、アリアは驚いてリカルドを見つめた。


「意外かい?」


「はい」


 リカルドは苦笑し、だってね、と少し唇を尖らせる。


「だって、君が……いろんなものに愛されているから……」


「え?」


 愛されていると言うのなら、リカルドも同じだろうとアリアは思う。

 だが、彼は首を横に振った。


「確かにそれはそうかもしれないけど……僕は結構、独占欲が強いようなんだ」


「独占欲……」


「そう。だから……」


 リカルドは一度ここで言葉を切ると、自分を落ち着かせるように深呼吸をして、続けた。


「ねぇ、アリア。君が僕の事しか考えられないように、してもいいかい?」


「え?」


 リカルドの目が切なげに細められ、アリアを見つめていた。


「駄目、かい?」


「い、いいえっ……」


 少し震えた声で問われ、アリアは慌てて首を横に振る。

 アリアにとって彼は、優しくて頼り甲斐のある、大人の男性だった。

 その彼が切なげに目を潤ませ、余裕なさげに自分を求めている……アリアは彼に応えたいと思った。


「あの……お願いします……」


 アリアは、リカルドに手を伸ばした。

 リカルドは差し出されたアリアの手を取ると、そのまま自分の方へ引き寄せて、細く華奢な体を抱きしめる。


「愛している。捕まえた。もう離さない。誰にも、渡さない……」


「リカルド様……」


「愛してる……」


 耳元で繰り返される、愛の言葉。

 アリアはリカルドの首に両腕を回し、


「私もです」


 と、耳元で囁く。


「私も、あなたを、愛しています」


「ん……」


 アリアの言葉に満足そうに笑みを浮かべると、リカルドは彼女の華奢な体を抱き上げ、ベッドに向かった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る