第24話・ファインズ家の生活


 ウクブレストを追放されたファインズ家は、リカルドが用意してくれた家を正式に借りる事にし、フレルデントで新たな生活を始めた。


 フレルデント王家からは、このフレルデントで新たな爵位を授けたいという話もあったのだが、エランドは辞退した。

 それは、ウクブレストを追われた自分たちがフレルデントで新たな爵位を得ると、両国の間で溝ができ、フレルデントに迷惑がかかってしまう可能性があると考えたからだった。

 追放したファインズ家が他国で爵位を授かり、以前と変わらぬ生活をしている――ウクブレスト側がそれを知れば、何をするかわからない可能性がある。

 だからエランド・ファインズは、ただの平民となり、このフレルデントで暮らす事を許してほしいと、頭を下げて頼んだのだ。


 だが、そう言ったものの、エランドは子供たちが気になっていた。

 長女であるサリーナは、フレルデントのダーフィル公爵家の次期当主の妻。

 そして次女であるアリアは、次期フレルデント王の妻にと望まれているのだ。

 公爵家の妻と、王家に嫁ぐ娘の親が平民では、娘たちの待遇は変わるのだろうか?

 長男であるクリスの将来は、親が平民では明るくないのだろうか?


「そんな事、関係ありません」


 エランドの言葉に、リカルドもステファンも首を横に振り、自分たちにとって家柄は全く関係ないと言い切った。

 息子のクリスについても、何の問題もないと答える。

 それを聞いて安心したエランドは、心置きなくフレルデントで新たな生活を始めた。






 土地を借りて畑を作ったり、釣りに行ったりしながら、元来人格者だったエランドは、周りに受け入れられ、フレルデントに溶け込んでいった。

 時折王宮から呼び出されて相談役のような事をしたり、学校でマナーや歴史を教えて教師の真似事も始めたようだ。


 妻のセリカも、ダーフィル公爵夫人のほか、友人がたくさんできたようで、まだ不慣れな家事に悪戦苦闘しながらも、毎日が新しい発見だと、楽しそうに過ごしている。


 弟のクリスは、ステファンと一緒に毎日王宮に通い、リカルドの元で勉強をする傍ら、騎士見習いの学校に通い始めた。

 そしてアリアは、二週間後にリカルドとの婚礼を控えていた。


「もうすぐだね、アリア。ウクブレストで暮らしていた時は、アリアがこのフレルデントの王子の元へお嫁に行くなんて、全く思っていなかったよ。ねぇ、セリカ」


「そうね、私もそう思うわ。あなたが幸せそうでとても嬉しい。それに、こちらに来てから、子供たちがとてもいい表情をしているのがわかるの。親として、とても嬉しい事よ」


 確かに両親の言う通りだと、アリアは思った。

 すでにフレルデントのダーフィル公爵家に嫁いでいるサリーナや、リカルドとの結婚が決まっているアリアだけでなく、弟のクリスもフレルデントに来てから充実した時間を過ごしているようだった。

 日に日に表情が明るくなり、毎日元気に王宮と騎士見習い学校へと通っている。


「この地には、人を癒す力があるのかもしれないね」


「えぇ、私もそう思います」


 アリアも家族も、この地に来た理由は、良い理由からではない。

 ウクブレストで長年暮らしていた屋敷は、今はマッコール男爵家の物となっているという噂も耳にした。

 だが、それでもその辛さと悲しみをも、まるごと包まれて癒されているように感じるのだ。


「お父様、お母様、私、今、本当に幸せなんです」


 アリアがそう言うと、両親は自分たちもだと頷いた。


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