第20話・眠れない夜を越えて


 アリアとサリーナは、リカルドの用意してくれた部屋で、ステファンからの連絡を待っていた。

 サリーナは体調を崩し、今はロザリンドが煎じてくれた薬湯を飲んで眠っている。

 アリアはサリーナに付き添いながら、何故こんな事になったのだろうと考えていた。


 リカルドは部下からの報告で、「ウクブレスト王から言い渡された」と言っていたが、それは本当なのだろうか?

 ウクブレスト王であるヨハンと、アリアの父親であるエランドは、親友と呼べる間柄だったはずなのに。

 もしかして……。

 アリアが思い当たったのは、ディスタルとスザンヌの二人だった。

 人を疑うのは良くない事だが、もしかしてあの二人が何かしたのではないかと思う。

 もしも今回の爵位剥奪と国外追放の原因が自分だとしたら、両親や姉弟に、どう詫びれば良いのだろう?

 考えても仕方がない事だが、考えずにはいられなかった。


「アリア、サリーナの様子はどうだい?」


 ドアが小さくノックされ、控えめに開けられる。

 隙間から顔を覗かせたのは、リカルドだった。

 アリアは、眠るサリーナを起こさないように、部屋の外に出た。


「姉様は、ロザリンド様の薬湯を飲んで、眠ってらっしゃいます」


「そうか、良かった。アリア、君も眠りなさい。ステファンからの連絡は、早くても夜明け頃になるだろう」


「はい、ありがとうございます。でも、私……」


「眠れない?」


「はい……」


 アリアは頷き、俯いた。


「もしかして、何か良くない事を考えてる?」


「え?」


 顔を上げると、優しく自分を見つめるリカルドと目が合った。


「優しい君の事だから、もしかして今回の事は、自分が原因なのかもしれないとか、思ってるんじゃないか?」


「どうして、それを……」


「僕は、君の事ばかり考えてるからね、わかってしまうんだよ」


 リカルドは苦笑すると、アリアを胸に引き寄せた。


「君のせいではないよ、アリア。だから、自分を責めるのはやめなさい」


「でも……」


「でも、じゃないよ、アリア。明後日にはステファンが、ご両親と弟を連れて、戻ってくるはずだ。君は、家族に元気な笑顔を見せてあげなければいけない。今度は君が家族の支えにならなければならない。わかるだろう?」


 家族を支える。

 確かにそうだと思い、アリアは頷いた。


「ステファンから連絡がきたら、必ず知らせる。だから、君は家族の支える心の準備をしておいてくれ。もちろん僕も、一緒に支えるから」


「はい、ありがとうございます」


「いい子だ、じゃあ、おやすみ」


 リカルドと別れたアリアは、サリーナを起こさないように、隣のベッドに潜り込んだ。

 これからどうなるかはわからない。

 だけど、リカルドに励まされて、自分を責めている場合ではないと思い直した。






 リカルドの予想通り、ステファンから連絡がきたのは、明け方だった。

 夜明け前に起きたアリアとサリーナは、二人寄り添って連絡を待っていた。


「眠れてないのではないかい?」


「大丈夫です」


「私も、昨日はご面倒をおかけしました」


 謝るサリーナに、リカルドは首を横に振った。


「大丈夫なら、それでいい。今日は二人にはいろいろと頼みたいから、よろしく頼むよ」


「はい、何でもおっしゃってください」


「ありがとう。では、ステファンからの報告を伝えるよ」


 ステファンと部下は、アリアとサリーナの両親と弟と会い、三人を保護したという事。

 三人とも心身共に疲れてはいたが、怪我などはなく、健康だという事。

 三人の体調を確認しながら、ステファンと部下が護衛して、フレルデントの王都フランドールまで、連れて戻って来てくる事。


 家族の無事を聞いて、アリアとサリーナは手を握り合って喜んだ。


「それで、今回の事は、どうして……」


「それは……詳しい事は、書かれていなかった。鷹が運べるサイズの手紙は、小さいものだからね。今は、君たちのご家族がお元気だという事と、ステファンがご家族を護衛して戻ってくるという事がわかれば、十分ではないかな?」


「それは、そうですけど……」


 確かにリカルドの言う通りではあったが、どこか誤魔化されたような気がした。


「さて、元の屋敷と比べれば随分と小さいものだが、君たちのご家族が住む家を、この王都フランドールに用意をした。アリアとサリーナには、そこでご家族が快適に暮らせるように、家を整えてほしいのだが、頼めるだろうか」


「は、はい、もちろんです! ありがとうございます、リカルド様!」


 アリアはリカルドに感謝した。

 彼は落ち込むアリアを諭し励ましてくれただけでなく、家族の今後を考えて動いてくれていたのだ。

 爵位剥奪と国外追放は悲しくて辛い出来事だったが、起こってしまった事はもうどうしようもないのかもしれない。

 だから、今後の事を考えて行動すべきなのだ。


「ぜひとも、君たちの家族が快適に暮らせるようにしてあげてほしい。ステファンから連絡が来たら、また知らせるから」


「はい、ありがとうございます」


 アリアとサリーナは、リカルドから鍵を受け取った。

 そして案内されて向かったその先にあったのは、ウクブレストで暮らしていた屋敷より確かに小さいものではあったが、温かみのある家だった。


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