第21話・家族との再会
ステファンが家族を連れて王都フランドールに戻ってきたのは、アリアとサリーナが、リカルドの手配してくれた家を整え始めた翌日の昼だった。
「アリア姉様、声が出るようになったんだね! ステファン義兄様から聞いていたけど、良かったよ!」
「本当だ、良かったね、アリア!」
「えぇ、あなたが元気になって良かったわ!
再会してからの家族の第一声は、アリアの声が出るようになった事の、喜びの声だった。
今自分たちは大変な目に遭っているというのに、なんて優しい人たちなのだろうと、アリアは泣きそうになったが、涙を堪えて微笑んだ。
「サリーナも元気そうで良かったよ。それからアリアの事、ありがとう。アリアが元気になったのは、きっとサリーナのおかげだね」
父親であるエランドが、サリーナに礼を言う。
サリーナは溢れた涙を軽く拭いながら、首を横に振った。
「いいえ、私がアリアのためにできた事は、このフレルデントに行こうと誘い、連れて来ただけだわ。アリアが元気になったのは、別の方のおかげです」
「そうなのかい? でも、きっとサリーナのおかげだとも私は思うよ。ねぇ、アリア」
「はい、もちろん、姉様のおかげです」
サリーナはこのフレルデントにアリアを誘い連れて来ただけと言ったが、それがなければアリアは心身共に回復する事はなかっただろう。
それに、迷っているアリアの相談に乗り、サリーナはいつも優しく前に進むように促してくれた。
サリーナにはいくら感謝してもし足りないとアリアは思った。
「ふふ、ありがとう。アリアにそう言ってもらえると、とても嬉しいわ。さぁ、お父様もお母様も、クリスも、お疲れでしょう。この家はあるお方が自由に使ってと言って、手配してくださった家です。私とアリアで、生活していけるようにいろいろと用意を致しました。まずはゆっくりと休んでお休みになってください。ねぇ、アリア」
「はい、姉様の言う通りです。お腹はすいていない? 食事の用意もできていますよ」
アリアがそう言うと、クリスが空腹を訴えた。
では食事にしようかという流れになる。
「ステファンも、お疲れ様。私とアリアの家族を守って、ここまで連れてきてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。でも、君の家族は俺の家族でもあるんだ。当たり前の事をしただけさ」
「そうね……だけど本当にありがとう……」
ステファンと抱き合うサリーナを見て、アリアは一人で食事の支度を始める事にした。
両親が、この家を手配してくれたのは誰なのかと、サリーナに尋ねているのが聞こえたが、弟のクリスがお腹が減ったと訴えてくるのだ。
詳しい話は、ステファンやサリーナが適任だろうと思う。
その時、玄関のドアがノックされた音が聞こえた。
「お客さんかな? アリア姉様、僕が出るね」
「ありがとう、クリス」
玄関へと走っていくクリスを眺めながら、アリアはその先のドアを見つめた。
「はい、どなたですか?」
「おや、元気な子だな。君がクリスかい?」
「そう、だけど……」
ドアを開けたクリスは首を傾げた。
訪れた客人を、どこかで見た事があったかもしれないが、思い出せないらしい。
客人はアリアを見つめると、緑の目を優しく細め、笑った。
「あ、あなたは……」
息子のクリスとは違い、父親であるエランドは、客人が誰なのかという事に、すぐに気付いたらしい。
客人――リカルドはエランドに目を向けると、
「お久しぶりです、ファインズ公」
と言って、頭を下げた。
「お父様、この家は、リカルド様が手配してくださったのよ」
「リカルド様が?」
驚くエランドを前に、リカルドは静かに頷いた。
「お疲れでしょうから、今日はご挨拶にだけ参りました。ウクブレストの屋敷とは雲泥の差かもしれませんが、ゆっくりお休みになって下さい。執事やメイドなどの使用人は、すぐに手配致します」
リカルドの言葉に、エランドは慌てて首を横に振った。
「いえ、私たちは国を追われた身です。使用人を雇う身分ではありません。自分たちの力だけで、過ごしたいと考えています」
リカルドはエランドの言葉に驚いたようだったが、わかりましたと頷いた。
「この家は、ステファンの居るダーフィル公爵家からも、フレルデントの王宮からも近い場所にあります。何かあればおっしゃってください。私にできる事は、何でも致しましょう。後は……お辛いかもしれませんが、今回の出来事の詳細を聞かせていただければ……。父や祖父もウクブレストで何が起こっているのかを気にしていますので」
「は、はい、かしこまりました。あの、リカルド王子……」
「何でしょう?」
「その……このフレルデントに私たちを受け入れてくださり、ありがとうございます。ですから、今回の事をご報告しなければならないという事は理解できるのですが……住む家を手配してくださったり、様々な事に手を貸していただけたりするのは、一体どうしてなのでしょうか?」
エランドがそう言うと、リカルドは少し頰を染めた。
つられるように、アリアも頬を染める。
「それは……先日私は、アリアに結婚の申し込みをしまして……」
「え?」
「つまり、ステファンと同じように、あなた方と家族になりたいと思っているからです」
「アリア、本当なのかい?」
「はい」
アリアは頰を染めて頷いた。
「ファインズ公爵、私はアリアを愛しています。彼女を守り、彼女と共にこの国を守り生きていきたいと思っています。だから私を、あなた方の家族の一員にしていただけないでしょうか?」
誠実なリカルドに、アリアは感動して思わず涙ぐんでしまった。
自分も同じ気持ちだと言うようにリカルドに寄り添うと、彼はアリアの手を優しく握ってくれた。
「大変な事がおありだったばかりですので、もう少し落ち着かれてからご報告をしようと思っていたのですが、突然、申し訳ありません」
「い、いや、とても嬉しい事です。今回はいろいろとありましたが、娘が心身ともに元気になり、リカルド様に大切にしていただいているなんて、本当に幸せな事です」
「えぇ、なんて嬉しい事なんでしょう」
「すごいよ、アリア姉様! リカルド様が僕の義兄様になるなんて!」
家族に祝福されて、アリアは嬉しかった。
リカルドも同じだったようで、ほっとしたような表情をしていて、そんな彼の表情もアリアは愛しいと思った。
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