第19話・ヨクナイシラセ


「おい、馬鹿孫、お前、ファインズ公にはいつ挨拶に行くつもりじゃ?」


「そうですね。近々、アリアを送っていく時に、ご挨拶に行きたいと思っていますが」


「そうか。わしは早くアリアを孫にしたいから、急げよ」


「はい、かしこまりました」


 アリアは目の前で繰り広げられる、リカルドと先王ローレンとのやり取りをみて、くすくすと笑った。

 仲が良いなあと思う。

 それに、アリアは物心つく前に祖父母を失っていたから、ローレンに早く孫にしたいと言われて、嬉しかった。


 そして、親への挨拶の事――。

 リカルドに告白され、結婚を申し込まれた事は、昨日の手紙には書かなかったのだが、両親は喜んでくれるだろうか。

 あの手紙はリカルドの部下が、直接父親であるエランドに渡して、家族の様子を知らせてくれる事になっていた。

 両親と弟のクリスは元気にしているだろうか、とアリアは思う。


「失礼します、リカルド王子!」


 謁見の間に、一人の兵士が走り込んできた。


「何だ、来客中だぞ! 急用か!」


「はい! 王子の命令でウクブレストへ向かった者から、鷹で報告が届きました!」


「ウクブレストから? 早いな、もうファインズ公にお会いできたのか?」


 リカルドは、兵士から丸められた紙を受け取ると、内容を確認し、険しい表情をした。

 何かあったのだろうかと、アリアが不安な気持ちでリカルドを見つめると、彼はアリアを見つめ、ステファンを見つめ、サリーナを見つめ、もう一度アリアを見つめてから、口を開いた。


「アリア、サリーナ、落ち着いて聞いてほしい。アリアの手紙を託した部下からの報告では、ファインズ公がウクブレスト王から、爵位剥奪と国外追放を言い渡されたらしい」


「えっ……」


 アリアはリカルドが何を言っているのか、理解できなかった。

 サリーナに目を向けると、彼女も同じようで、わからないというように首を横に降る。


「詳細はわからないらしいが、ファインズ公、奥方、そして弟のクリスの三名は、僅かな荷物だけを持って、すでにウクブレストの屋敷を出られたらしい。ウクブレスト領を出てフレルデント領に入られたら、目立たないように接触し、近くの村にお連れするとの事だ。ステファン、お前はファインズ公たちを迎えに行ってくれ」


「あぁ、わかった」


「待って、ステファン、私もっ!」


「わ、私も行きますっ!」


 どうして爵位を剥奪されて、国外追放にまでなったのかはわからないが、家族が辛い想いをしているなら、そばに行って支えてやりたかった。

 自分が辛い時にも、家族はそばに居てくれたから。

 だが、リカルドもステファンも首を横に振った。


「アリア、サリーナ、君たちはここに居るんだ。ステファンには、今回は部下を連れて馬で向かってもらう。国外追放というくらいだ、ファインズ公たちは見張られている可能性が高い。ステファン、目立たないように、だが最速で向かってくれ」


「あぁ、合流出来たらすぐに連絡する」


 ステファンは頷くと、一礼して謁見の間から出て行った。

 ステファンが出て行くと、支えを失ったかのように、サリーナがふらりとよろめく。


「姉様っ!」


 アリアは走り寄って、サリーナの体を支えた。


「ごめんなさい、アリア……」


「ううん、いいの。ちゃんと支えるから、寄りかかって……」


「ありがとう……でも、どうして、こんな事にっ……」


 サリーナはアリアの肩に寄りかかり、泣いていた。

 アリアもサリーナを抱きしめながら、涙を流す。


「アリア、サリーナ、部屋を用意するから、そこで休みなさい。ステファンから連絡があれば、すぐに知らせるから」


「ありがとうございます、リカルド様」


 アリアは頷き、サリーナを支えて、リカルドが用意してくれた部屋へと向かった。


一体、ウクブレストの家族に何があったのか?

アリアが知らないところで、何かが起こっていた――。


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