第18話・フレルデント王家


  声が出るようになった翌日、アリアはフレルデント王宮に招かれていた。

 現国王であるリカルドの父親であるフレルデント王――ライル・フレルデントと、先王であるリカルドの祖父――ローレン・フレルデントに紹介されるためだった。

 現王妃であるリカルドの母親――ミケイラ・フレルデントと、先王の妃であるリカルドの祖母――マリーヌ・フレルデントには、アリアはロザリンドの館で会った事があったのだが、王と先王と会うのは初めてだった。


「サリーナ・ダーフィルの妹、アリア・ファインズでございます。よろしくお願い致します」


 リカルド、ステファン、サリーナがそばにいてくれるが、アリアはとても緊張していた。

 だって、愛する人の家族に紹介されるのだ。それも、このフレルデント王家にだ。

 だがアリアの心配をよそに、フレルデント王家は拍子抜けするほど温かく彼女を受け入れてくれた。


「やっと会えたね、アリア。とても嬉しいよ」


 穏やかにそう言って、リカルドと同じ緑の目を優しく細めたのは、現フレルデント王であるライルだった。


「王妃や母上が、大ばば様のところまで君に会いに行っていたのが羨ましくて、私と父上も大ばば様のところまで、君に会いに行こうかと思っていたんだよ。でも、みっともないから止めなさいって王妃に言われてね。自分たちは、君に会いに行ったくせに、ひどいだろう? ねぇ、父上」


 フレルデント王は、隣に座っている先王であるローレンへと目を向ける。

 先王ローレンは、あぁ、と頷くと、


「本当に、お前に会えるのを楽しみにしていた。話には聞いていたが、本当に、愛らしい娘じゃな」


と言い、深い皺のある目尻を下げて笑った。


「アリアの事は、ステファンやサリーナから、よぉーく聞いておる。わしもライルも、ずっとお前に会ってみたかった。馬鹿孫の初恋の相手じゃからな」


 初恋、と言われ、アリアは頰を染めた。

 リカルドの初恋の相手がアリアだという事は、かなりの人が知っているらしく、嬉しいような恥ずかしいような、複雑な気持ちになる。


「アリア、この馬鹿孫にはいろいろと馬鹿な話があるからな、これからたくさん聞かせてやるから、楽しみにしておれよ」


 先王ローレンにそう言われ、アリアは笑顔で頷いたが、隣ではリカルドが肩を落として俯いていた。


「おじい様、お願いですから、ほどほどにしてください。僕がアリアに呆れられたらどうするんですか……」


「おいおい、馬鹿孫よ、良いところばかり見せていては、いかんぞ。格好の悪いところも見てもらわねばな。それに、わしが言わずとも、お前の馬鹿話は、どこからでもアリアの耳に入るぞ」


「……あぁ、確かにそうですね」


「有名じゃからな」


「そう、ですね……」


 有名な話って、どういう事なのだろう?

 アリアがリカルドを見上げると、彼は観念したように、自らそれを口にした。


「君がディスタルと婚約した話を聞いて、とても泣いたし、とても荒れたし、とても落ち込んだんだよ。あまりにもそんな状態が長かったから、国中に知れ渡ってしまったんだ」


「え? あ、あの、それって……?」


「ごめんね、本当に引かないでね、アリア……。でも、どうせばれるから、先に言うよ。多分、僕が君をずっと好きだった事、この国で知らない者は居ないんじゃないかなっていうくらい、有名な話になってるんだよね……」


「え?」


 予想もしなかった事実にアリアは驚いたが、思わず笑ってしまった。


「でもね、だからこそ、みんな祝福してくれるから」


「はい、ありがとうございます。すごく、幸せです」


 いつの間にか緊張もなくなり、アリアは自然な笑顔を浮かべる。

 彼女は、リカルドの隣で、この国を共に守っていきたいと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る