第17話・報告


「ロザリンド様!」


「あぁ、声が出るようになったようだねぇ。坊に治してもらったのかい?」


「はい! リカルド様とロザリンド様のおかげです!」


 リカルドと共にロザリンドの館へ向かうと、ロザリンド自らが出迎えてくれた。

 老女は笑顔でアリアの手を握ると、良かったねぇ、としわだらけの顔をさらにくしゃくしゃにして喜んでくれた。


「今日は来るのが遅いと思っていたら、空気が変わったからね。アリアの声が出るようになったんだと思ったんだよ」


「空気が変わった?」


 ロザリンドの言葉の意味がわからず、アリアは首を傾げた。


「あぁ、そうだよ。空気がどんどん浄化されて綺麗になっていくのを感じたのさ。このフレルデントは自然が多いから、元々空気は綺麗な方だけれど、それよりももっと綺麗になっていったんだ。こんな事ができるのは、アリアしか居ないって思っていたよ」


「あの、私、そんな事……」


 できないと思うんですけど……。

 アリアはそう続けようとしたが、リカルドに遮られた。


「いや、できるよ。それが君の力だ」


「え?」


「昔、子供の頃、君が歌っているのを見た時に驚いた。精霊が嬉しそうにずっとそばにいるし、君が歌うと空気がどんどん綺麗になっていくし……あの時の感動は、多分一生忘れないよ」


 リカルドはうっとりとした表情でそう言った。


「そうそう、その時の事を、坊は私に話しに来てくれたんだ。とても興奮して、すごい女の子が居たってねえ。そう言えば、坊はその時に、こんな事も言っていたよ。僕はあの女の子を絶対にお嫁さんにします、だったかねえ」


「大ばば様っ!」


 一瞬声を荒げたリカルドを見上げると、彼は真っ赤になっていた。

 今までの話の流れから、アリアも彼につられて顔を赤くさせたが、目が合うと互いに微笑み合う。

 ただ目が合うだけで、とても嬉しくて、幸せな気持ちになった。

 アリアと同じようにリカルドも思ってくれているのだろう、彼は優しくアリアのマロンブラウンの髪を撫で、肩に手を廻し優しく引き寄せてくれた。


 明らかに昨日よりも親密になっている二人を見て、ロザリンドが嬉しそうに笑った。


「その様子だと、坊、アリアからお嫁さんになってもいいと、良い返事をもらえたのかい?」


「えぇ、なってもらえる事になりました」


「おやまぁ、坊、初恋が実ったねぇ」


「えぇ、そうですね」


「今日は良い事ばかり起こる日だ。アリア、サリーナには、声が出るようになった事は、知らせてやったのかい?」


「いいえ、まだです」


 アリアは首を横に振った。

 毎日診察と手伝いのためにロザリンドの元に通っていたから、先にこちらへ知らせに来たのだ。


「そうかい、じゃあ、今日の手伝いはいいから、早くサリーナに知らせておやり。ウクブレストに居る家族にも、手紙を書いておあげ。みんな喜ぶだろうよ」


「はい、ありがとうございます」


「行こう、アリア」


 リカルドに促され、アリアはロザリンドの館を後にした。






 リカルドと供にアリアがダーフィル公爵家に戻ると、サリーナは公爵家の敷地内をステファンと共に散歩していたようだった。


「サリーナ姉様ーっ」


 サリーナに声をかけると、彼女は目を見開き、アリアを見つめた。


「アリア!」


 サリーナはアリアへと向かって走り出し、アリアもサリーナに向かって走り出し、二人は強く抱き合った。


「アリア! 声! 声が出るようになったのね!」


「えぇ、姉様、出るようになったの! リカルド様に、呪いを解いていただいたの!」


 サリーナは涙を流しながら、良かったわね、と繰り返し、アリアを抱きしめ、そんな二人を、リカルドとステファンが優しい目で見つめていた。


 アリアはすぐにウクブレストの両親と弟に、声が出るようになった事を手紙に書いて知らせた。

 手紙はリカルドの命令でファインズ公爵家へ届けられる事になった。



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