第13話・優しさの理由
フレルデントに来てから、アリアの生活は一変した。
診察のために毎日ロザリンドの元を訪れるアリアは、忙しいリカルドが戻ってくるまで、フレルデントの最高薬師であり魔術師であるロザリンドから、薬や術について、指南を受けるようになっていた。
また、ロザリンドの館で、いろんな人物と会うようになった。
ロザリンドの館で働く者や、雑草まみれの薬草を届けに来る子供たちと、その親、そして、リカルドの母親や祖母。
そういった人たちはアリアと会うとみんな喜び、アリアにとても優しくしてくれた。
最初はこの国の人たちは、みんな優しい人なのだと思っていた。
だけど、時間が経つにつれ、アリアは本当にそれだけなのだろうか、何か他に理由があるのではないかと思うようになった。
この国で一番アリアに優しいのは、王太子であるリカルドだった。
ウクブレストからフレルデントに来る事になった時、ドラゴンを駆って迎えに来てくれたり、この国で最高級の治療を受けさせて、毎日送り迎えをしてくれたり、いくらアリアがリカルドの従兄で右腕でもあるステファンの義妹だとしても、どうしてここまでしてくれるのだろうという疑問が残る。
以前、アリアの歌のファンだと言ってくれた事もあったけれど、それだけでは説明がつかないくらい、リカルドはアリアに良くしてくれていた。
『リカルド様、あなたは何故、私にこんなにも良くしてくださるのですか?』
そう問うたアリアに、リカルドは優しく明るい緑の目を細め、言った。
「それは……君のファンだから、だよ」
『それだけでこんなに良くしてくださるのですか?』
「もちろんさ」
『本当に、それだけなのですか?』
「それは……」
リカルドは何かを言いかけて、口を噤んだ。
そして少し考え込んで、真剣な目でアリアを見つめる。
「アリアに聞きたい事があるんだけど……構わないかな?」
真剣な目で見つめられ、一瞬怯んでしまったが、アリアは頷いた。
「アリア……君はディスタルを……あの男の事を、愛していた?」
思いも寄らなかった事を問われたアリアは、目を見開いてリカルドを見つめた。
「アリア……君は十二歳の時から六年間、ディスタルの婚約者だった……。君はあいつを、愛していたの?」
リカルドはどうしてこんな事を聞くのだろう。
なかなか返事をしないアリアに焦れたふうでもなく、リカルドは言葉を続けた。
「あいつの行いは許されないものも多いけれど、女性の目から見れば、ディスタルはとても魅力的な男だと思うよ。だが、君には合わないのではないかと、ずっと思っていた」
アリアは自分に見向きもしなかった婚約者の事を思い出した。
正式な婚約者であるアリアを無視し続け、他に恋人を作って、自分を傷つけて陥れたディスタル。
自分は彼を愛していたのだろうか?
アリアは首を横に振った。
アリアがディスタルの婚約者となったのは、ウクブレストの国王に望まれたから――つまり王命からであり、ディスタル自身を愛していたわけではなかった。
『私はディスタル様を、愛していませんでした』
ノートにそう綴ってリカルドに見せると、彼は安心したように笑った。
「そうか……では今の君は、誰にも縛られず、自由という事ではないかな。だから、少しずつでもいいから、他の男に目を向けてみるのは、どうだろう? アリア、僕はずっと……」
ずっと、君を想っていたんだ。
そう言ったリカルドを、アリアは驚いて見つめた。
「これは君をからかっているわけではなく……本心だからね。僕は君を愛している……。君さえ良ければ、僕と婚約してほしい。君に、僕の妻になってもらいたいんだ……」
真剣な目で見つめられ、アリアは赤面した。
驚き過ぎて、頭が上手く回らない。
「答えは今でなくてもいいよ。驚かせてすまないね。だけど、これが先程の君の問いに対する答えだ」
告白されたアリアは信じられなかったが、本気だ、とリカルドは繰り返し言う。
アリアは顔を赤くさせながら、リカルドを見つめた。
リカルドはアリアを優しく見つめ、微笑んでくれる。
アリアは自分が彼に惹かれていっている事に気が付いた。
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