第2403話 佐野さんとの再会 Ⅸ

 昼食は釜めしだった。

 双子が50もの鉄釜を購入し、様々な材料で作るようになった。

 俺が時々出前で釜めしを取るので、子どもたちも大好きになったためだ。

 バーベキュー台に、皇紀が専用の釜めし用の穴の空いた鉄板を作った。

 食に対するこいつらの執念は凄い。


 基本の鳥ごぼう、それにカニ、鮭、鯛、ウナギ、アサリ、海老、牛タンなどをメインで作っていく。

 子どもたちが釜めしの準備を始めた。

 佐野さんが俺のギターを聴きたいと言うので、早乙女達も誘って地下へ移動した。

 ロボが大好きな雪野さんから離れない。


 地下で『SAOTOME』など何曲か弾くと、早乙女たちも喜んだ。


 「次のCDはいつ出るんだ?」

 「よ、予定はないですよ!」

 「そうなのか?」

 「俺、医者ですからね!」

 「だってお前、もう2枚も出してるじゃんか」

 「あぁぁー!」


 みんなが笑った。

 早乙女が思い出したように俺に言った。


 「そういえば石神」

 「なんだ?」

 「何か庭にスゴイものが置いてあったけど」

 「アァァァァァァーーー!」


 「どうした!」

 「忘れてたぁ!」


 真夜が草むしりをしていて掘り出した物があった!


 「あ、あれはさ」

 「うん」

 「早乙女家に宅急便でさ」

 「おい!」

 「お前の家が留守だったみたいで、うちで預かった」

 「お前、いい加減にしろ!」


 ちきしょう、早乙女家の庭に放り込もうと思ってたのに!


 「《アイオーン》!」

 《はい、石神様》

 「亜紀ちゃんを呼んでくれ」

 《かしこまりました》


 今、ウッドデッキで釜めしをみんなで作っているはずだ。

 亜紀ちゃんがすぐに地下に来た。


 「はい、なんですかー」

 「おい、庭のアレを説明しろ」

 「ハゥッ!」


 亜紀ちゃんも忘れてたようだ。

 佐野さんが突然に訪ねて来たので、それどころじゃなかったのだろう。

 亜紀ちゃんが説明した。

 

 「麗星さんに聞いたんです」

 「またあちこちにてめぇ……」

 「す、すいません。それでですね、あれは「トゥアハ・デ・ダナーン(Tuatha De Danann)族の秘宝の一つで、《リア・ファル (Liath Fail、運命の石)》だろうって!」

 「タラの丘かぁ!」

 「タカさん、よく知ってますね!」

 「有名だろう!」


 早乙女の方を向くと、雪野さんと一緒に目を閉じていた。

 

 「ああ、『風と共に去りぬ』かぁ」

 「流石、佐野さん!」


 早乙女達が驚いて佐野さんを見た。

 亜紀ちゃんが喜んで佐野さんの肩をポンポンした。

 佐野さんが笑った。

 映画『風と共に去りぬ』では、主人公の一族がアイリッシュであることから、伝承の聖地「タラ」に深い郷愁を持っている。

 そのことが分かっていなければ、主人公のあの最後の台詞に感動出来ない。


 「まったくてめぇらはまたとんでもねぇものを!」

 「す、すいません!」

 「さて、どうすっかなぁ」

 「そうですね。蓮花さんの研究所ですかね」

 「なんでもかんでも送れるかぁ! あいつだって一杯一杯なんだ」

 「そうですか……」


 本当にいろんなものを送り付けてしまっている。

 真面目な蓮花のことだ。

 送れば徹底的に調べるに決まっている。


 「しょうがねぇ。後で調べて観るか」

 「はい!」


 亜紀ちゃんが食事作りに戻った。


 「石神、いつも大変だな」

 「うるせぇ!」

 「でもいつもうちの庭にっていうのは辞めてくれな」

 「うるせぇ!」


 佐野さんが笑っていた。

 俺は佐野さんに、今年の子どもたちの修学旅行の話をした。


 「双子と、今外国に行ってる皇紀が、中学の修学旅行に行ったんですよ」

 「ああ、そうなのか」

 「フィリピンでしてね」

 「すごいな」

 「そこで、向こうの魔法大学が「虎」の軍のために「ヘヴンズ・フォール」という儀式をしてくれたんです」

 「なんだ?」

 「何でも、神の国から何かが降って来るというものだそうですよ」

 「なんだ、そりゃ?」

 「それでね、腕輪とか槍とかが空中から本当に降って来まして」

 「おい、マジかよ」

 「はい。それで最後に、俺のために祈ったんです」

 「おう」

 「直径40メートルの水晶のでかい塊が出まして」

 「へ?」

 「数百トンですよ。参りました」

 「「「……」」」


 佐野さんも早乙女たちも驚いている。

 そういえば、早乙女たちには話してなかった。

 俺は上に行ってノートPCを持って降りた。


 「これです」

 「「「!」」」


 フィリピンでの儀式の洞窟前で撮影した写真を見せた。

 俺たちが一緒に写っているので、あれの大きさが分かる。

  

 「石神! なんだこれは!」

 「早乙女家宛のものが間違って……」

 「やめてくれよ!」

 「ワハハハハハハハハ!」


 俺は画像をスライドして、様々な角度から内部に見えるものを見せて行った。

 三人が声も無く驚いていた。


 「トラ、俺お前とやってけるかな」

 「ワハハハハハハハハ!」


 「《アイギスの宝玉》がまた降ったのですね」


 突然久留守が喋ったのでみんなが驚いた。

 またいつもの可愛らしい顔ではなく、やけに大人びた表情になっていた。


 「久留守、なんて言ったんだ?」


 久留守はまた黙ってしまった。

 今はまだ俺たちが知る必要もないものなのだろう。


 「百家の人間たちが予言していたんです」

 「百家!」

 「はい。俺たちはそのための土台というか神殿というか、そういうものを用意していただけなんですけど」

 「なんだか分からん」

 「俺たちもですよ。あるものを乗せるものかとは思っていたんですが、ピッタリなサイズのアレが出て来たんで俺がすぐに気付きました」

 「おい、そろそろ……」

 

 佐野さんが精一杯になって来た。

 俺は笑って話を終え、佐野さんたちを連れて上に上がった。

 丁度釜めしが炊き上がっていた。

 暑いのでリヴィングに運ばせる。


 蓋を開いて見せて、佐野さんに好きな釜を選んでもらい、佐野さんはカニとイクラのものを選んだ。

 俺はウナギと鮭の五目の二つをもらった。

 早乙女達もめいめいに好きな釜を選び、みんなで食べる。


 「トラ、これは美味いな!」

 「ルーとハーが料理好きになりましてね。毎日美味いものを喰わせてくれるんですよ」

 「そうか、二人とも偉いね!」

 「「エヘヘヘヘヘ!」」


 早乙女と雪野さんも二人を褒め称える。


 「ルーちゃん、ハーちゃん、本当に美味しい!」

 「うん、ますます腕が上がったね!」

 「「ありがとうございますー!」」


 亜紀ちゃんが帰って来た柳に、庭のアレを忘れてたと話していた。

 柳も顔が青くなる。


 「もういいよ! ちょっと考えてることがある」

 「「え?」」

 「「トゥアハ・デ・ダナーン」なんだろ? だったらな」

 「え、タカさん、当てがあるんですか!」

 「ああ。だから深刻にならなくていい」

 「「はい!」」

 

 亜紀ちゃんと柳が喜んだ。


 「でも、もう真夜に庭を掘らせるんじゃねぇぞ!」

 「「は、はい!」」






 まさか、こんなところでアレに繋がるとは思っていなかった。

 俺は無関係でいたかったのだが。

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