第2404話 佐野さんとの再会 X

 釜めしを食べ終え、俺は佐野さんを送って行くことにした。

 折角なので、シヴォレー・コルベットを出す。


 「……」


 佐野さんは何も言わなかった。

 もう、意地でも俺のことで驚かないということか。

 でかいスーパーチャージャーがガンガン回っている。


 「……」


 見ない振りをしていた。

 高速をぶっ飛ばす。


 「トラ、スピードを出し過ぎだぞ」

 「大丈夫ですよ」

 「おい、俺は元警察官なんだ!」

 「この車、大使館ナンバーなんで」

 「……」


 黙った。

 佐野さんのお宅のマンションに着き、上がって行けと言われた。

 俺も喜んで、奥さんの顔を見たいと思った。

 大きなマンションだった。


 「おい、帰ったぞ」

 「お帰りなさい」


 奥さんが玄関まで出て来て、俺を見た。


 「トラちゃん!」

 「お久しぶりです」


 奥さんが昔と同じく俺を「トラちゃん」と呼んでくれた。

 奥さんがとても喜んでくれ、俺に上がるように言ってくれた。

 佐野さんは電話で俺の家に泊まることは話していたようで、俺を見ても驚きは少ない。

 マンションの部屋は広く、4LDKほどか。

 リヴィングでお茶を頂く。

 佐野さんの奥さんは御年は召したが今でも綺麗で優しそうな人だった。

 佐野さんと同じく、俺が元気でいることを本当に喜んでくれた。


 「この人ね、ずっとトラちゃんのことを心配してて」

 「はい、済みませんでした。もっと早く連絡していれば良かったんですが」

 「ううん、こうやってまた会えて本当に良かった。ね、あなた!」

 「ああ、そうだな」


 佐野さんが照れていた。

 俺のことをいつも心配していたことは、奥さんにずっと見られているのだ。

 俺は少し奥さんの仕事のことを聞いた。


 「アクセサリー造りをなさっているそうですね」

 「いやだ、この人から聞いたの?」

 「ええ、才能があるんだって」

 「まあ!」

 「売り物になってるんですよね?」

 「ええ、まあね。でも大したものじゃないのよ」

 

 俺はスマホの画像で幾つか見せてもらった。

 派手さはないが、素朴で品のあるものだった。


 「いいじゃないですか!」

 「そう? まあ、嬉しいわ」


 奥さんは幾つか作っては、ある店に置いてもらって委託販売をしているようだ。

 それならば、ここを引っ越しても問題は無い。


 「佐野さんには、俺の仕事を手伝ってもらうことになりまして」

 「え、そうなの!」

 「そうなんだ。今の警備会社も辞めることになると思うよ」

 「そうなの! でもトラちゃんと一緒に働くなら良かったね!」

 「ああ、ありがとう」


 俺が警察への再就職になるのだと話すと驚かれた。


 「トラちゃんは、警察官になったの?」

 「いいえ。でも、警察の特殊なセクションは俺と繋がってまして」

 「?」


 佐野さんが俺のことを話した。


 「トラは、あの「虎」の軍を創った男なんだよ」

 「エェェェェーー!」

 

 流石に奥さんは驚いた。

 これからご夫婦を守っていくのだ。

 だから隠すことはしないでおこうと佐野さんと話していた。


 「佐野さんと奥さんには危険なことはありません。必ず俺が護ります」

 「いえ、そんな。でも驚いちゃった」

 「まあ、俺も驚いている人生ですけどね」

 「トラちゃん、大変なことをしてるのね」

 「まあ、昔通りですよ。敵チームを全部潰して来た俺ですからね」

 「でも、相手は世界的なテロリストなんでしょ?」

 「そうです。でも、頼もしい仲間たちがいますから」

 「そう。じゃあ分かったわ。私もずっと警察官の妻をしてたんですからね。あなた、頑張ってね」

 「ああ」


 俺の話はここまでだ。

 これからゆっくりと馴染んでもらおう。


 「それでですね。新しい職場は東京になるんで」

 「ああ、引っ越すのかしら?」

 「ええ。場所はこれからですが、都内に移って頂きます」

 「おい、トラ、普通の家にしてくれよな!」

 「アハハハハハハハ!」

 「笑って誤魔化すんじゃねぇ!」


 乾さんから話を聞いている佐野さんが焦っていた。 

 奥さんは給料の話など一切俺に聞かなかった。

 佐野さんに全てを任せているのだろう。


 「トラちゃんが見繕ってくれるの?」

 「ええ、お任せ下さい」

 「じゃあ、お願いします」

 「おい、ダメだぁ! こいつはとんでもないことを絶対にするんだぁ!」

 「あなた!」


 佐野さんが慌てているが、奥さんには実感はねぇ。

 俺は住居が決まったらまた連絡すると言い、佐野さんの家を出た。


 「トラ、本当に……」

 「大丈夫ですよ」

 「お前、ほんとに頼むぞ」

 「はい!」


 俺は笑いながら佐野さんのマンションを出た。







 3か月後。

 四谷三丁目に敷地400坪、建物200坪の3階建て地下一階の住居を建てた。

 鉄筋コンクリート造のデザイナー住宅だ。

 当然広い住居になるので、メイドアンドロイドを4体置いた。

 もちろん殲滅戦装備まである、最高性能の義体だ。

 ガレージにはメルセデスベンツのマイバッハ S 680を入れた。

 佐野さんがうちの「虎温泉」を気に入ってくれたので、庭に囲いを設け、露天風呂を作った。


 仮住まいにしてもらっていたマンションから引っ越して頂く。

 俺は佐野さんと奥さんを新居へ案内した。


 「「……」」


 「家具なんかももう入れてますからね」

 「「……」」

 「あ、当座の食材も適当に買っておきましたから!」

 「「……」」


 家の中を案内した。

 うちと同様に1階にウッドデッキを設け、もちろん床暖房も完備だ。

 エレベーターに乗って頂く。

 2階のリヴィングでメイドアンドロイドが勢ぞろいし、佐野さんと奥さんに挨拶する。


 「「……」」


 「寝室は3階にしてますけど、他の部屋が良ければベッドとか家具を移動しますからね!」

 「「……」」

 「こっちは奥さんの作業場にしました。道具や材料は専門家に聞いて一応揃えましたけど、何か必要なものがあったら言って下さい」

 「「……」」

 「ここは佐野さんの書斎です。ほら、庭が見えていい眺めでしょ?」

 「「……」」

 

 一通り案内した。


 「おい、トラ」

 「はい!」

 「1階の廊下の突き当りによ」

 「はい?」

 「なんかでかい赤い塊があったよな?」

 「ああ、レッドダイヤモンドですよ! うちで庭から出て来たものが一杯ありましてね」

 「れ、れっどだいやもんど……」


 「あ、青の方が良かったです?」

 「トラ」

 「はい!」

 「いい加減にしろよ! こんなとこに住めるわけねぇだろう!」

 「ワハハハハハハハハ!」

 「俺は絶対に引っ越さねぇぞ!」

 「何言ってんですか!」

 「冗談じゃねぇ!」


 外にトラックが来た。


 「あ、引っ越しの車、来ましたよ!」

 「おい!」

 「俺も手伝いますね」

 「トラ!」

 「奥さんは座ってて下さい」

 「え」

 「佐野さん、荷物の指示をお願いします」

 「ま、待て!」


 俺は無視して引越し屋を中へ入れ、養生をさせた。


 「おい、絶対に家に傷をつけんなよ!」

 『はい!』


 次々と荷物が運び込まれて行く。

 佐野さんは奥さんの隣のソファに呆然と座っていた。

 俺がどんどん指示して荷物を運び込んだ。

 佐野さんと奥さんが話しているのが聞こえた。


 「俺さ」

 「なんですか」

 「乾さんって、トラがガキの頃に世話になった人と話したんだ」

 「はい」

 「バイクショップをやってる人でさ」

 「はい」

 「トラと再会したら、いきなり敷地が何倍にもなって、バイクの注文がガンガン入ったんだって」

 「そうなんですか」

 「敷地から膨大な小判が出て来たそうだよ」

 「大変ですね」

 「うん」


 そんな会話が聞こえた。

 あ、なんか埋めとかなきゃ。


 




 散々ごねていた佐野さんだったが、一ヶ月も経つと諦めてくれた。

 乾さんのお店にもお二人で遊びに行ったそうだ。

 仲良くなったそうで、時々会って話す家族ぐるみの付き合いになった。


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