第2397話 あの日、あの時: 過激派襲撃事件

 佐野さんの話が終わった。

 

 「その話は本当ですか」

 

 思わず聞き返してしまった。

 俺は確かに驚いてはいたが、実際にはやけに納得出来る話だった。

 しかしやはりあまりにも驚きが大きく、そういう言葉になった。


 「本当だ。和久井署長から聞いたことだが、あの人は本当に信頼出来る人だ。あの和久井署長が聞いたからには、それは真実だったのだろう」

 「そうですね、すみませんでした」


 俺は小学4年生の時にあの街に引っ越した。

 俺の家は貧しかったはずだが、どういうことか、あの街で一軒家を購入した。

 周囲は安い新興の建売住宅ばかりで、うちももちろんそれほど大きな家ではなかった。

 しかし、うちのあの状況で、どうして一軒家が購入できたものか。

 今から思えば、もしかしたら小島将軍が親父に与えてくれたのではないか。

 子どもの俺にはそういう事情は一切知らされていない。

 お袋に聞こうにも、もうこの世にはいない。


 それにあの周囲の環境だ。

 人殺しを何とも思っていない最悪のヤクザ組織が幾つもあった。

 それに何故か過激派の中でも最悪の連中が隠れ住んでいた。

 またやけにワルが集まる地域で、狂暴な愚連隊も多かった。

 

 結果的にだが、そいつらは俺と衝突し、全て消え去った。

 ヤクザたちは様々な理由で俺とぶつかって、一つずつ潰れて行った。

 過激派は俺が警察署で取り調べを受けている最中に襲ってきた。

 愚連隊とは何度も揉め事を起こし、俺個人や「ルート20」との抗争によって消滅していった。


 まあ、その他にも俺自身のことで大事件もあったのだが。


 「トラの隣の家の柴野家でな。お前が幼い女の子を守って腹を斬られただろう?」

 「はい、モモですね」

 「あの時から、お前が入院すると毎回見舞いに行った」

 「はい」

 「お前の担当医の南条先生からよ、お前が20歳まで生きられないのだと聞いて驚いたよ」

 「ええ、東大病院の偉い医者から言われましたからね」

 「とてもじゃねぇが信じられなかった。だって、お前、トラだぜ? こんなに暴れ回って大事件ばかり起こして、武闘派ヤクザもビビりまくる赤虎だ! どうしてお前が死ぬんだよ!」

 「アハハハハハハ!」


 まあ、その通りだ。

 病気ばかりしていたのは確かだが、そうでない時の俺は頑健だった。


 「まあ、南条先生にその話を聞いてさ。ちょっとはお前に優しくしてやろうと思ったんだ」

 「え?」

 「数日はな。すぐにお前はまた大事件を起こし、俺はお前が死ぬなんて間違いだって分かったぜ」

 「ワハハハハハハハハ!」


 本当にいい方だ。

 子どもたちも笑っていた。


 「お前のせいで俺は大忙しだったよ!」

 「本当に申し訳ないです」

 「まったくだ!」


 みんなが笑う。


 俺の「石神家」の血が立ち上がる時のために、小島将軍が全部用意していたということなのか。

 あの当時は何とも思っていなかったが、今から思えば確かに異常だ。

 シノギもろくに出来ないだろうあんな田舎町で、どうしてヤクザがあんなに集まっていたのか。

 恐らく小島将軍からどこかを経由して、組に資金が流れていたのだろう。

 過激派たちも、どういう理由かで誘導されて、あの街に拠点を構えたのだ。

 もしかしたら狂暴な愚連隊連中も集められたのだろうか。

 

 「まあ、退屈はまったくしなかったし、今から思えば楽しかったよ」

 「そうですか」

 「あの過激派の襲撃を除けばな!」

 「ああ、あれはきつかったですよね!」

 「死ぬかと思った、俺」

 「ワハハハハハハハハ!」


 亜紀ちゃんが俺をジッと見ていた。

 言葉にしなくても分かる。

 聞きたいのだ。

 だが今日は俺にいつものようにねだることは出来ない。

 ナゾ物体を真夜が掘り起こし、更に佐野さんがうちに来てしまった切っ掛けを作った張本人だ。

 

 「タカさん、そのお話って聞いてないよね?」


 ハーが言った。

 後ろでハーの背中を亜紀ちゃんがつっついていた。


 「なんだ、トラ、話してないのか?」

 「ええ、別に俺の体験を全部話すつもりもありませんし」

 「えー、聞きたいなー」

 

 背をつっつかれてルーが言う。


 「トラ、話してやれよ」

 「はい」


 佐野さんが言うんじゃしょうがねぇ。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 あれは俺が高校3年生の4月だった。

 珍しく「ルート20」に挑んできた横浜の暴走族「百鬼会」の連中を追っていた時だ。

 俺たち「ルート20」は周辺で最大のチームになっており、もうどこの族も逆らうことが無くなっていた。

 そんな中で、「百鬼会」が横浜の族と連合を作り、俺たちに挑んできた。

 敵は総勢400名にものぼり、俺たち「ルート20」500名と張り合う規模になっていた。

 

 相模湖へのパレードを狙われ、「百鬼会」100名が俺たちを襲撃した。

 俺たちの戦力を削るための一撃離脱を計画していたようだが、初手からうちの特攻隊が対応し、100名は何も出来ずに遁走する。

 特攻隊の1番から5番隊が追撃し、俺も前に出た。

 6番隊から8番隊が本体を護衛しながら、集合場所の相模湖畔で待機する。


 「トラ! 20台が固まってる!」

 「おう!」


 それを保奈美の5番隊が追い掛けており、俺も一緒に20台を追った。

 そいつらは津久井湖へ向かい、三井の山方面へ逃げていく。

 俺のRZが追い抜き、先頭のバイクをステンレス棒で転がした。

 後続の連中が慌ててハンドルを切るが半分が巻き込まれ、残りの連中も停車する。

 5番隊が全員をぶちのめしていく。


 「あ!」


 1台が脇道に逃げた。

 俺と保奈美が追いかける。

 そいつは山腹の別荘の敷地に入り、そのまま玄関へ突っ込んだ。

 別荘は夏場に金持ちが使うもので、今の時期は誰もいないはずだった。

 しかし、明かりが点いて、中から3人の男たちが出て来る。


 「なんだ、てめぇら!」

 「あ、すいません! すぐに出て行きます!」


 俺が謝って、突っ込んだバカを連れ出そうとすると、2階の窓が開いた。


 「襲撃だぁー!」

 「え、違いますって!」


 そいつは火を点けた火炎瓶を俺たちに向かって投げた。

 いきなりの展開に俺も焦った。


 「おい!」


 保奈美を下がらせ、俺はステンレス棒を握って建物の中へ突っ込んでいく。

 出てきた男たちを数秒で沈める。

 1階は広い部屋で、左に上に昇る階段があった。

 駆け上がると先ほどの男が鉛パイプの口を俺に向けていた。

 ヤバいプレッシャーを感じ、横に飛んだ。

 散弾が俺の脇を通り抜ける。


 「なんだ、てめぇ!」


 手製の銃だ!

 構造的に、単発のはずだ。

 俺は瞬時に判断し、男に突っ込む。

 顔面にフルブロウをぶっ込んだ男の身体が浮き、開いた広い窓を抜けてベランダから落ちて行った。

 地面にぶつかる音がして、俺はベランダから保奈美に叫んだ。

 

 「そいつと下の連中を拘束しろ!」

 「分かった!」


 保奈美は素早くバイクからアルミテープを取り出し、男たちを縛って行く。

 俺たちは敵の無力化について、アルミテープを手足に巻き付けるという方法を見出していた。

 ロープで縛るよりも断然早く簡単だ。

 俺は2階の部屋を探りながら、他に誰かが潜んでいないかを見ていった。

 1階に降り、広間を見渡す。


 「なんだ、こりゃ」


 木箱に火炎瓶が大量に積み上げられていた。

 今はコルク栓が嵌められており、中へ突っ込む布と一緒に梱包されている。

 他に黒い粉が大量にあり、先ほど2階で俺に向けられた、底を閉じた鉛パイプも大量にあった。

 手製銃と火薬か。

 俺たちは、偶然とんでもない過激派のアジトを発見してしまったようだ。

 無線で四輪を呼び、別荘にいた過激派4人のうちの一人、2階にいた男を乗せ、警察署に連れて行く。

 槙野と1番隊に拘束した4人の男の見張りを頼み、俺は車に乗せた一人の護送に付き合った。

 本隊は街までパレードで戻ってきて解散した。

 

 俺はまた厄介事に関わってしまった予感がした。

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