第2398話 あの日、あの時: 過激派襲撃事件 Ⅱ
「おい、トラ! この男はなんだ!」
警察署に手足をアルミテープで縛り上げた過激派の男を突き出すと、受付の警官たちが驚いていた。
俺は事情を話し、別荘で過激派が火炎瓶や手製の銃を大量に作っていたことを話した。
たちまち署内は大騒ぎになり、刑事たちや鑑識課が召集される。
佐野さんも来た。
「トラ、その場所に案内しろ」
「あ、あのー」
「なんだ! 急げよ!」
佐野さんが焦っている。
「今日は結構長距離を走っちゃってですね」
「なんだよ!」
「ガス欠寸前でしてー」
「バカ!」
署員の方がすぐに満タンにガソリンを入れてくれた。
「ありがとうございました!」
「すぐに行くぞ!」
「はい!」
俺はRZでパトカーを先導した。
脇道にパトカーを案内した時、別荘が赤く輝いているのが見えた。
「槙野!」
俺は先に飛び出し、別荘の敷地に入った。
別荘が赤々と燃え、庭で槙野たち1番隊が数名の男たちと格闘していた。
何名か倒れている、
「槙野!」
「トラさん!」
俺が迫ると男たちが叫んだ。
「あいつは赤虎だ! 逃げるぞ!」
「警察も来た!」
男たちが山の中へ逃げていく。
俺は1番隊の連中が心配で、倒れている奴らを抱き起した。
「槙野! 何があった!」
「突然襲われました! 最初に銃のようなもので撃たれまして!」
「なんだと!」
あの手製銃か!
3人が散弾を受けたようだったが、意識があった。
佐野さんたちがすぐに救急車を手配してくれた。
俺が見た所、命に係わる怪我は無いようで安心した。
槙野が俺と佐野さんに状況を説明した。
俺の命令で庭で縛った4人を見張っていたところ、突然林の中から男たち5名が現われた。
そのうちの二人が手製の銃を持っていて槙野たちに撃ったようだ。
1番隊の3人が撃たれ、倒れた。
槙野が男たちと交戦していたところに、俺が到着したようだ。
「トラさん、すみません。拘束していたうちの一人を逃してしまいました」
「いい! お前たちを危険な目に遭わせてすまん!」
「そんな、トラさん!」
連中が手製銃を持っていたことは、俺が分かっていたことだった。
仲間を奪還しに来る連中がいることを、どうして考慮しなかったのか。
槙野たちを死なせるところだった。
別荘は1階に積まれていた火炎瓶に引火し、爆発的な炎を上げていた。
火薬と思われる粉にも引火したことだろう。
それほどの量は見ていないが、大量にあった場合、それも槙野たちを危険に晒したことだろう。
警官たちが別荘の裏に積んであったものを、急いで運び出していた。
それはガソリンの入ったガロン容器や、大量の木炭などだった。
木炭は火薬の原料に使うものだったろう。
燃える別荘から硫黄の臭いが立ち込めていたので、他の薬品などは、きっと室内にあったと思われる。
数十人の警官が山に分け入って行った。
犯人は捕まるだろうか。
「トラ、ここはもういい。今日は帰れよ」
「はい。病院へ行きます」
「ああ、そうか。大変な日になったな」
「はい。まさか過激派のアジトだったなんて」
「まったくてめぇはよ。いつもとんでもねぇことをしやがる!」
「俺だって驚いてんですよ!」
「ワハハハハハハハハ!」
その日は解散し、槙野と俺は日赤病院へ行った。
撃たれた1番隊の連中は三人とも無事だった。
一人が腹に喰らっていたが、内臓や動脈は傷つけず、他の二人は手足だけだった。
無事に散弾は摘出され、数日で退院できるとのことだった。
井上さんと保奈美も来てくれ、木村から預かった金で、向かいの居酒屋で食事をした。
怪我人は出たが、それほど大したことが無くて良かった。
俺はここまでの関りだと思っていたのだが……
その翌週。
俺は警察署で取り調べを受けていた。
佐野さんが来た。
「よう、トラ! 一週間ぶりだな!」
「エヘヘヘヘヘ」
「笑うんじゃねぇ!」
「……」
交番の裏で怪しいことをしている連中を、俺がぶちのめしたことでの現行犯逮捕だった。
知り合いの若い警官が詰めており、俺が学校帰りに通りかかった時に、一人が知り合いの警官に話し掛けていた。
俺が手を振って挨拶すると、もう一人が裏手で何かを仕掛けているように見えた。
何か嫌な予感がして問い詰めた。
いきなり殴りかかって来たので、ぶちのめした。
まあ、警察官の前でやった暴力だったので、そのまま現行犯逮捕だ。
「トラ、僕の前で困るよ」
「ワハハハハハハハハ!」
ぶちのめした奴は手足が折れていたので、そのまま病院へ搬送され、そいつが持っていた荷物も一緒に乗せられた。
若い警官に話しかけていた奴は、いつの間にかいなくなっていた。
すぐにパトカーが来て、俺は署に直行。
そういう状況だった。
佐野さんが俺の前に顔を出してから、他の警察官に呼ばれて外した。
しばらくして戻って来る。
「トラ、大変なことだった」
「どうしたんですか?」
「今病院に同行した警官から連絡があったんだ。お前がぶちのめした奴な、交番に爆弾を仕掛けようとしてたらしいぞ」
「えぇ!」
「とんでもないことになる所だった。お前のお陰であの警察官は死なずに済んだぞ」
「いえ、そんな。でも、そんな大それたことを……」
交番を爆破するなど、尋常ではない。
後に過激派が実際にやったが、それ以前は発想にも上らなかったことだろう。
連中は相当頭がおかしい。
真っ向から警察に対峙すれば、徹底的な追及を受けることになる。
日本の警察官は仲間意識が強いのだ。
「トラ、署長が鰻を喰ってけってよ」
「ほんとですかぁぁぁ!」
佐野さんが笑った。
「俺も、あ、ちょっと待て」
佐野さんが後ろを向いて、財布の中身を確認していた。
「おう、大丈夫だ!」
「今日は鰻だけでいいですよ」
「このやろう!」
佳苗さんがパトロールから戻って来ていた。
「じゃあトラちゃんに私がデザートのプリンを買って来るね!」
「カナさん! ありがとうございます!」
茶を出され、取り調べのデスクに座って待っていた。
佳苗さんが署から出て行こうとした時、軽トラが2台前に停まった。
荷台に大勢の人間が乗っている。
瞬時に俺の中で警報が鳴った。
最大級だ。
咄嗟に俺は駆け出し、佳苗さんを抱き寄せて壁の後ろへ飛んだ。
襲撃者たちが、あの鉛パイプの手製銃を向けているのが見えた。
「襲撃だぁー!」
俺が叫んだ瞬間に、幾つもの爆発音が響き、入り口の分厚いガラスが粉々になった。
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