第2395話 佐野さんとの再会 Ⅴ
亜紀ちゃんがCMの間に、『虎は孤高に』のテーマソングは俺の作詞作曲で、ギター演奏も俺なのだと説明した。
別に要らん話だが。
テーマソングを大声で歌う亜紀ちゃんとロボ。
佐野さんは大笑いしていた。
千鶴と御坂も手を叩いて喜んでいる。
今週は、羽田空港をメインにした話だった。
俺と奈津江が初めて羽田空港でデートをしたエピソード。
そして別な日に俺たちに加え、御堂、山中、栞と5人で飲み会をし、みんなが将来の夢を語るエピソード。
ラストは次週に繋がる、俺と聖の傭兵時代の最後の戦闘のシーンで終わった。
次週は恐らく傭兵時代篇の最後になるのだろう。
俺の大学生篇もそろそろ終わる。
ヤマトテレビは俺の成人篇の制作も決めている。
「今週も最高だぁぁぁぁぁぁーーーー!」
亜紀ちゃんが両手を挙げて叫んで、鑑賞会は終わった。
佐野さんはまた大笑いし、楽しかったと言ってくれた。
「トラ、お前大学生でも楽しんでいたんだな」
「まあ、俺は俺ですからね」
「そうか」
亜紀ちゃんが素早く自分の部屋からブルーレイディスクを持って来た。
「佐野さん、これどうぞ!」
「え、これは?」
「『虎は孤高に』の小学生篇から高校生篇までの放映分です!」
「そうか、じゃあお借りしようかな」
「いいえ、差し上げます! うちには一杯あるんで!」
「いや、それは悪いよ」
俺は笑って佐野さんに言った。
「佐野さん、本当にどうぞ。うちには1000以上あるんで」
「もっとありますよ!」
「アハハハハハハ!」
佐野さんは受け取ってくれた。
子どもたちは「幻想空間」に料理などを移動させる。
「もうちょっと飲みましょう」
「ああ」
「幻想空間」の雰囲気に佐野さんが感動してくれた。
「お前、本当にいい家に住んでんな」
「あはははは」
俺はあらためて、昔の人間に連絡を取って来なかった理由を話した。
「「ルート20」のみんなは、俺に人殺しなんかさせないって頑張っててくれましたよね」
「ああ、そういうこともあったな」
「なのに俺は傭兵なんかになっちゃって。それに……」
「分かってるよ。井上が言ってた。お前が一番苦しい時にお前をみんな助けてやれなかった。だからきっとお前は会えばみんなを苦しめると思ってるだろうって」
「そんな……」
「俺もそうだったしよ。お前に会わせる顔がなかった。お前、東大に受かってあんなに嬉しそうだったのにな。突然それが……」
「仕方無かったんですよ。俺の運命です。親父の出奔はショックでしたけど、ちゃんと理由がありました。親父は自分の全てを俺のために擲ってくれてたんです」
「そうだったか」
佐野さんにはよく分からない話だろう。
千鶴や御坂も同じだ。
でも、誰も何も言わなかった。
俺の顔を見て何かを悟ってくれたに違いない。
「誰のせいでもなかったんです。だから何も気にする必要はないんですよ。ああ、俺も親父のことを知ったのは少し前ですけどね」
「そうか」
俺は乾さんの話をした。
「乾さんって知ってますよね?」
「ああ、横浜のバイクショップの人だよな? トラを可愛がってくれたって」
「そうです。乾さんとはこのバカ娘のせいで再会しましてね」
「そうなのか!」
「俺が預けたRZをずっと大事にとっておいてくれて。本当に良い方です」
「そうか、あの人がなぁ」
佐野さんは乾さんと会ってはいないはずだ。
俺が話したことがあるので名前を知ってはいるが。
「そういえば、トラは横浜でも散々なことしてたよなぁ」
「え?」
「ほら、誘拐事件を解決したり、タンクローリーの爆発事故で人を助けたりしたじゃんか」
「あー! それ知ってますよ! 『虎は孤高に』でもやりました!」
「そうなのか!」
御坂が言い、みんなが笑った。
「本当に佐野さんなんですね」
御坂が感動して言った。
「小説とドラマで本当に佐野刑事さんが大好きでした!」
「そうなのかい?」
「だって、石神さんのことを本当に可愛がってましたよね」
「そりゃな。トラのことは誰でも好きになるよ」
「はい!」
俺は御坂が遠い親戚で、一緒に俺の実家へ連れて行っていたのだと言った。
「石神家は剣術の得意な家でしてね。御坂もそこで鍛えて来たんです」
「そうなのか」
「石神さん! 私のことも!」
千鶴が俺に言う。
「お前、なんて言えばいいんだよ!」
「え、ひどいですよ!」
だって話しにくいじゃねぇか。
星蘭高校に潜入捜査だの。
日本裏社会の百目鬼家だの。
「こいつは、ちょっとついでで」
「へぇ」
「石神さん!」
「うるせぇ!」
佐野さんが笑った。
「まあ、俺には話しにくいこともあるんだろ?」
「ええ、まあ。ああ、みんな。俺が「虎」の軍の最高司令官だということは佐野さんに話した。だけど佐野さんは一般の人だからな」
「「「「「「はい!」」」」」」
これで何を話して良いのか悪いのかは、こいつらには通じるだろう。
「トラ、俺なんかに話しても良かったのか?」
「はい。「業」には最初から俺のことは知られてますし、警察や自衛隊、政治家、マスコミの一部はもう知ってますしね。あまり隠すこともないんですが、まだ医者をやってますんで」
「そうなのか」
「いずれは知れ渡りますしね。そう遠くないことですよ」
「そうか。まあ、俺はもちろん誰にも話さないよ」
「はい」
佐野さんのことは信用している。
「ところで、佐野さんは今どのような所で暮らしてますか?」
「あ? ああ、マンションだけど」
「そうですか。今度、乾さんに俺と再会してからどうなったか聞いて下さい」
「え?」
「「イヌイ・モーターズ」って店です。ネットでホームページもありますから、すぐに連絡先は分かりますよ」
「なんだ?」
「いいから、是非」
これからは佐野さんも護衛する必要がある。
明日にでも高木に土地を探させ、準備しよう。
子どもたちが佐野さんに俺から聞いた話をどんどんする。
佐野さんが笑いながらそれに答えていく。
レイの話、モモの話、エロ神父との死闘、同級生を窓から投げ、山のプールの決壊、九重の銀三さん、佳苗さん、城戸さんのお店、幾らでも話すことはあった。
佐野さんも楽しんで当時を懐かしく思い出していった。
「警察官は、大体一定の期間で異動するんだよ」
「そうなんですか」
「まあ、家族がいたり家を持ったりすると多少は融通してもらえるけどな。それでも定年まで一箇所にいるのはほとんどない。キャリア官僚は特にそうだ」
「はぁ」
佐野さんが俺をジッと見ていた。
「でもな、俺も和久井署長もずっとあの警察署にいた」
「え?」
「あり得ないことなんだよ。でもな、そうなった」
「何かあったんですか?」
佐野さんがニヤリと笑った。
「あったんだよ」
「へぇ」
「トラ、お前のせいだ」
「えぇー!」
佐野さんが笑って話してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます