第2370話 千鶴・御坂 石神家へ Ⅱ

 高速をぶっ飛ばしたので、4時間ちょっとで盛岡に着いた。


 「おい、どっかで食事をしてから行こう」

 

 ルーが店を調べ、鰻を食べに行くことにした。

 「盛楼閣」を予約し、俺と千鶴、御坂は特選鰻重と白焼き、双子はそれを3人前食べた。

 なかなか美味いし、関東と関西の両方が入っている重だった。

 

 「ああ、そうだ!」

 「タカさん、どうしたの?」

 「大事なことがあった! あのさ、来ないとは思うけど、怒貪虎さんって人がいてさ!」

 「「あー!」」


 双子が嬉しそうに笑う。


 「仙人らしいんだけど、見た目がカエルなのな」

 「言っちゃダメだよ!」

 「そうなんだ! カエルって言うとぶっ飛ばされるからな!」

 「そうなんですか!」

 「それも本気でな! 俺じゃなきゃ死んでるって!」

 「「エェ!」」

 

 「だから気を付けろ! ケロケロって言うんだぜ!」

 「「?」」

 「みんなそれで分かるらしいんだけどよ! 俺はさっぱり」

 「私たちは分かるよ?」

 「お前ら!」

 「「エヘヘヘヘヘ」」


 「「?」」


 まあ、来ないだろうけど、見りゃ分かるって。


 「あ!」


 千鶴が叫んだ。


 「どうした?」

 「ケロケロ拳!」

 「!」


 前に星蘭高校で俺が冗談で言った言葉だ。


 「それで石神さんが「ケロケロ拳」って言ったんだ!」


 俺は笑って答えた。


 「まあな。石神家の剣術は、怒貪虎さんが各地の流派を渡り歩いて研究したものが全部入っているんだ。だから「花岡」でも早霧流でも葛葉家の拳法も、お前の百目鬼家も知ってるんだよ」

 「そうなんですか! スゴイ人なんですね!」

 「まあ仙人ということだけどな」

 「仙人ってどういうことなんですか?」

 「それは話せない。まあ、会うことがあったら聞いてみろよ」

 「ケロケロでですか?」

 「お前、死ぬぞ!」


 みんなが笑った。


 


 


 そろそろ石神家の敷地が近付き、虎白さんに連絡した。

 山を降りて出迎えに来てくれるらしい。

 珍しいこともあるもんだ。

 虎白さんの家の前で待っていると、すぐに虎白さんと虎蘭、虎水が走って来た。


 「来ましたよ!」

 「おう、よく来た! ルーちゃんとハーちゃんもよく来たな!」

 「「はい!」」

 「そっちの二人か」

 「はい。こっちが御坂鈴葉で、こっちがマンロウ千鶴です」


 二人が挨拶する。


 「虎白さんだ。当主代行だけど、俺より偉い人だ」

 「ワハハハハハハハハ!」

 「こっちが虎蘭、こっちが虎水だ」

 「「宜しくお願いします!」」


 ロボが虎白さんをジッと見ていた。


 「おう、よく来たな!」


 虎白さんが笑って声を掛けた。


 「にゃ!」

 「よろしくな!」


 虎蘭と虎水が喜んでロボに挨拶し、ロボが二人に突進して身体をこすり付ける。

 ロボはこの二人も大好きか。


 虎蘭と虎水は一緒に住んでいるので、千鶴と御坂は二人の家に荷物を置きに行った。

 俺たちは虎白さんの家に泊めてもらう。

 荷物を運び、土産の日本酒100本を虎白さんに渡した。


 「こんなに持って来たのかよ」

 「前はもっと持って来て、全部山賊に奪われましたけどね!」

 「ワハハハハハハハハ!」


 中でタイガーストライプのコンバットスーツに着替える。

 外に出ると、千鶴と御坂も着替えて来た。

 二人とも高校のジャージだ。

 ちょっと新鮮だった。


 「よし、行くか!」


 虎白さんが言い、全員で山に走って登った。







 随分と速いペースだったが、流石に千鶴も御坂も付いて来る。

 基礎体力は問題無いようだ。

 異様なヘッジホッグに二人が驚くが、何も聞かない。

 双子から何か聞いているか。

 

 「よし、まずは鈴葉から見るかぁ。おい!」


 剣士の一人が真剣を持って来た。

 いきなり日本刀を渡されたが、御坂は動じなかった。

 やはり真剣で鍛錬をして来たのだ。


 「虎蘭! 相手をしろ!」

 「はい!」


 どのようにとは説明しない。

 虎蘭も聞かない。

 御坂もだ。


 二人が向き合って斬り合った。


 虎蘭の技量は俺も知っているが、御坂の剣技はほとんど知らない。

 星蘭高校でライカンスロープに襲われた時に、一瞬で腹を割いたのを見たのみだ。

 鋭い剣筋だと感じた。

 虎蘭は御坂の技量を最初から見通していたらしく、御坂と釣り合うようにやっていた。

 御坂は必死で虎蘭の攻撃を防いでいる。

 虎蘭が徐々にギアを上げて行き、御坂の顔が強張って行く。

 御坂も虎蘭の技量を分かったのだろう。

 しばらく遣り合って、いきなり御坂が奥義を出した。


 《鬼道》


 御坂の横に払った剣が揺らぎ、瞬時に軌道が変わる。

 虎蘭は嬉しそうな顔でそれを返した。


 「そこまで!」


 虎蘭は息も乱さず、反対に御坂は身体を前に曲げて大きく呼吸を繰り返していた。

 緊張が解け、膝に衝いた両腕が震えていた。

 あそこまで本気で真剣で斬り合うことはあまりないだろう。

 石神家が異常なのだ。


 「大丈夫?」

 「は、はい! ありがとうございました!」

 「うん、なかなかやるね!」

 「そうですか!」


 御坂がやっと顔を上げ、嬉しそうに笑った。

 まだ呼吸は荒い。


 千鶴が呼ばれて虎白さんの前に立った。

 

 「よし、「金精眼」を見せろ」

 「はい!」


 「金精眼」というのは、百目鬼家の「神聖瞳術」の一つなのだろう。

 俺も幾つかの百目鬼家の技は虎白さんに教わっているが、細かなものは知らない。


 千鶴が意識を集中するのが分かった。

 姿が揺らいで見える。

 何かのエネルギーが千鶴の身体を覆っている。

 

 「それが「金精眼」か」

 

 俺も回り込んで虎白さんに並んだ。

 千鶴の目が金色に輝いている。

 俺も以前に星蘭高校でこの状態の千鶴を見た。


 「!」


 虎白さんが「虎相」になった。

 

 「高虎、お前もやれ」

 「はい」

 「え、石神さんはいつも……!」


 俺も「虎相」になる。

 俺は常に火柱の中にいるそうだが、石神家の「虎相」を教わってから、更に自分の周囲の火柱を強く、また拡大することが出来るようになった。

 千鶴が眼を閉じ、両手で顔を覆った。


 「お願いします! もうそこまでで」


 俺と虎白さんは笑って「虎相」を解いた。

 周囲の剣士たちがみんな俺たちを見ていた。

 千鶴はしばらくまだ目を覆い、ようやく手を放して瞼を開いた。


 「もう! 目が潰れるかと思いましたよ!」

 「悪いな、俺には全然分からないんだ」

 「そうなんですか!」

 「お前らとは違うからな。ああいうものを観る訓練はしてねぇ。まあ、石神家には「虎眼」という技もあるけどな」

 「……」


 千鶴が考えている。

 恐らく虎白さんの「虎相」を見て、俺と同じく火柱で自分を覆ったのは見えただろう。

 俺以外に火柱をまとう人間がいるとは思っていなかったに違いない。

 そして更に俺の火柱が巨大になったことに、千鶴は驚いた。

 ほとんど物理的な圧力すら感じ、自分の目を覆った。


 俺は千鶴に尋ねた。


 「虎白さんは百目鬼家の技をいろいろ観たいようだけどさ、お前は大丈夫か?」

 「はい。最初に虎白さんからそう言われて、本家にも了解はとってます」

 「そうなんだ」


 虎白さんが言った。


 「まあ、百目鬼家の技は全部知ってるんだよ」

 「はぁ」

 「俺が観たかったのは、この千鶴の出来だ。こいつ、高虎の下に入るんだろ?」

 「ええ、そのつもりです」


 だから、虎白さんは自分で千鶴のレベルを確認してくれようとしたのか。

 それで千鶴の同行も許されたということか。

 有難いことだが、説明してー。


 その後千鶴は「神聖瞳術」の別な技や、「滑空足」、「聖光輪」などの技を見せた。

 「滑空足」は双子が異常に気に入り、是非教えて欲しいと千鶴に頼んでいた。

 「聖光輪」は、星蘭高校で千鶴が見せた、光の珠を出す技だった。

 妖魔相手にも有効な破壊力がある。


 虎白さんが千鶴を解放し、千鶴は双子に「滑空足」を教え出した。

 地面を滑るように移動する技で、結構速い。

 上級者は亜音速で移動するそうだ。

 瞬時に足を動かさずに移動するので、敵は予想できない方向から攻撃を受けることになる。

 人間相手と言うよりも、完全に妖魔を相手にした体系に思えた。

 「神聖瞳術」は、敵の解析や威圧のような技だ。

 「聖光輪」はもちろん攻撃系の技で、ある程度の妖魔には有効だろう。

 そして上級者は、より強力な技も持っているに違いない。


 どうやら百目鬼家自体が「虎」の軍に協力してくれるようだと千鶴が話してくれた。

 だから技の開陳も問題なく、また虎白さんも石神家の剣術を隠すつもりもない。

 まだ話してくれないが、虎白さんが百目鬼家と直接話もしているのだろう。

 だから俺にも言えよー。


 一通りの御坂と千鶴の確認も済んで、昼食になった。

 きっと俺たちの到着を待っていてくれたのだろう。

 若い剣士たちが下から食事を持って来てくれた。

 握り飯と豚汁だ。

 俺たちは済ませていたのだが、黙って頂いた。

 俺たちも全然喰えない人間では無い。

 双子は特に無限に喰える。

 石神家の素朴だが美味い飯に、千鶴たちも喜んだ。

 食事を済ませているとは、二人とも言わないでいてくれた。


 ふー。

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