第2371話 千鶴・御坂 石神家へ Ⅲ

 昼食を終え、また鍛錬が始まった。

 御坂は虎蘭と組んで、石神家の技を教わって行く。

 千鶴は引き続き、虎白さんが百目鬼家の技を確認して行った。

 俺は当然、他の剣聖たちに連れられ、いきなり「石神八方位」で相手をさせられる。

 俺も必死にならざるを得ない。


 「おい、嬢ちゃんたちもやるかい?」

 「いいんですかー!」

 「おう、折角来たんだからな」

 「「はい!」」


 剣士たちがルーとハーを誘った。

 二人とも石神家の剣技を見ているので、結構出来る。

 剣士たちが驚きながら、二人に剣技を教えて行った。


 ロボが取り残された。

 寝てればいいものを、みんなが楽しそうに鍛錬しているので興奮しているようだ。


 「にゃー」

 「あれ、ロボちゃん」


 虎水の所へ行き、ロボがジッと見ている。


 「離れて無いと危ないよ?」

 「にゃー」



 シャキン



 ロボが長い爪を出した。


 「え?」


 虎水は予想もしていなかっただろう。

 だが、驚きは少ない。


 「なにそれ?」

 「にゃー」

 「あ、ロボちゃんも一緒にやりたいの?」

 「にゃ!」


 虎水が笑ってロボに近づくのが見えた。


 「おい! 虎水!」


 俺は8人の剣を受けながら虎水に叫んだ。

 虎水は笑って俺に手を振って「大丈夫」らしいつもりでいるようだった。

 全然大丈夫じゃねぇ!


 「じゃあ、行くねー」


 虎水が笑いながらロボに刀の先端をそっと近づけた。

 もちろん、傷つけないように気を付けているだろうが。

 ロボが右手を振る。


 「待て! そいつには前に同田貫……」



 ぽきん



 「エェー!」


 虎水の日本刀がへし折られた。

 虎水の叫びに全員が注目する。

 やっちまった……


 「おい、今そのネコがやったのか!」

 「観てたけど、ただ前足を振っただけだぞ!」

 「なんだそいつ!」


 みんなが集まって来る。

 俺も駆け寄った。

 長い爪を出しているロボにみんなが気付いた。


 「妖魔かぁ!」

 「違うんです! こいつはちょっと特殊な能力があって!」


 虎白さんが笑って近づいて来た。


 「おう、すげぇな」

 「虎白さん! ロボは!」

 「分かってるよ。普通のネコじゃねぇことくらいなぁ。最初に観た時から知ってる」

 

 ホッとした。

 他の剣士も落ち着いて行く。


 「まさかここまでとはなぁ。おい、虎水! もっと相手してやれ!」

 「は、はい!」


 虎水が別な刀を持って来た。


 「ロボ! 手加減してやれ!」

 

 俺が叫び、虎水がロボにゆっくりと刀を振り下ろす。

 ロボが爪で払い、今度は折れなかった。

 良かった、ちゃんと手加減している。

 虎水はロボが上手く捌くのが分かって、徐々に剣速を上げて行く。



 カキン、カキン、カキン……



 全員が二人の戦いを見て、段々興奮して来た。


 「おい、もっとやれ!」

 「こいつは大丈夫だぞ!」

 

 「はい!」


 虎水が普通の速さでロボを攻撃し、ロボは余裕で捌いて行く。

 いつの間にか両手に爪を出し、身体も移動を始める。


 「ロボちゃん!」

 「にゃー!」


 虎水が笑いながら更に剣速を高めていく。

 ロボは高速移動しながら虎水の剣戟を跳ね除け、また避けて行った。

 そのうちに、ロボが空中を少し疾走するようになった。

 虎水の剣技も鋭いのだ。

 地上ばかりでは避け切れない。


 「虎水! 「煉獄」を使え!」

 「はい!」


 虎白さんが叫び、虎水が従った。

 虎水が無数の剣戟を描き、それがロボに向かって伸びて行く。

 

 「にゃ!」

 

 ロボがそれらを全て爪で捌いて掻き消して行った。

 剣士たちが全員唸った。


 「それまで!」


 虎白さんが叫び、虎水が剣を退いた。

 全員がロボを褒め称え、拍手し歓声を贈った。

 ロボが喜んでジルバを踊る。


 「ロボちゃん! スゴイね!」


 虎水が駆け寄ってロボを抱き締めた。

 ロボも虎水の顔を舐める。


 「おい、高虎。お前のネコ、すげぇな」

 「はい。猫神家のネコですんで」

 「なんだそりゃ?」


 千鶴が大笑いした。


 「石神さん、星蘭高校に「猫神」って名前で入って来たんですよ!」

 「そうなのか」

 「「猫神一族を知らないのか」って言ってました」

 「なんだそりゃ?」


 俺は笑って誤魔化した。


 「双子がね、前に同田貫を見つけてくれて」

 「そうなのかよ!」

 「そうしたら、ロボが折っちゃって」

 「なに?」

 「ほら、前に持って来たじゃないですか」

 「ああ、正国のって言ってたやつか」

 「あれです」

 「ワハハハハハハハハ!」







 そこからはロボも満足したようで、涼しそうな木陰でスヤスヤ寝た。

 虎蘭と御坂が楽しそうに笑いながら鍛錬をする。

 千鶴は虎白さんに技を見せながら、何かアドバイスを受けていた。


 「虎白さん! 本当に百目鬼家の技を知っているんですね」

 「そう言っただろう?」

 「スゴイですよ!」

 「いいからやれ」

 「はい!」


 千鶴もすっかり虎白さんに馴れて行った。

 千鶴が楽しそうだ。

 本当に百目鬼家の技を盗むのではなく、自分を鍛えようとしてくれていることが分かった。

 俺ももちろん、他の剣聖たちと鍛錬を続けた。

 しばらく全員が鍛錬をしていると、虎白さんが叫んだ。


 「おい! いらっしゃる! 全員整列!」


 全ての剣士たちが鍛錬を止め、虎白さんの後ろへ並んだ。

 俺は何が起きたのか分からないで、それを見ていた。

 

 「あれ?」


 双子がなんかそれっぽい位置に並んでいた。

 千鶴と御坂も他の剣士に導かれて並んだ。


 「え、俺、どこに……」


 みんなが俺を睨んでいる。

 早くしろと目で訴えている。

 なんなんだ?


 「ああ!」


 そうだ、俺は石神家の当主だ。

 誰が来るのか知らんが、一番前だろう。

 虎白さんの前に立った。

 その瞬間に殴り飛ばされた。


 緑色の何かが物凄い速度で走って来て、虎白さんの前に立った。


 「全員、礼!」


 剣士たちが一斉に頭を下げた。

 俺は転がったまま、見ていた。


 「怒貪虎さん!」


 無様に引っ繰り返っている俺の所へ怒貪虎さんが来て、俺の頭を踏んだ。


 「ケロケロ!」

 「すいません、こいつ、何も分かってなくて!」

 

 虎白さんが謝っている。

 俺は怒貪虎さんに蹴り飛ばされた。


 なんなんだよー…… 

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