第2362話 ガンドッグ Ⅲ

 「トラ、中国の武漢で銃の乱射事件が起きた」

 「ああ、ニュースで見たな。銃乱射はアメリカの十八番なのにな!」

 「どうやら、「ガンドッグ」の連中らしいぞ」

 「なんだと!」


 トラも驚いていた。


 「警官隊は皆殺しで、軍隊まで出動したらしい。それがまた全滅させられた」

 「おい、すげえな!」

 「そのまま逃走した。もちろん中国のニュースではテロリスト全員を射殺、もしくは捕縛したことになっているけどな」

 「やっぱり中国にいたかぁー」

 「トラの読み通りだったな。でも、どうやら揉めているらしい」

 「そういうことだな」

 

 三合会が「ガンドッグ」と割れた。

 恐らく今は全員が移動しようとしているのだろう。

 しかし、広い中国大陸で往生しているに決まっている。


 「トラ、それでな、「ガンドッグ」から俺の所へ連絡が来た。「虎」の軍宛だ。俺たちのことは知っているな」

 「なんだと!」

 「救援要請だ。中国本土から組織の人間全員を引き揚げたいんだとよ」

 「凄いことになったな!」

 「ああ、まさか以前に殺そうとした相手に助けを求めるとはなぁ」

 

 トラが笑っていた。


 「トラ、どうする?」

 「話次第だけど、今はゆっくりと構えている状況じゃねぇな」

 「ああ、中国は監視が厳しい。まして逃げ回っている相手じゃ交渉している時間は無いだろうな」

 「おし! 「虎」の軍で行くかぁ!」

 「おい、いいのかよ?」

 「仕方ねぇよ。相手のことを探りながら共闘できるのか考えたかったけどな。一気に進めるしかなさそうだ」


 トラの決断は早かった。


 「救援チームを作らせる。聖、お前も行ってくれるか?」

 「ああ、もちろん。指揮官は?」

 「俺が行く」

 「マジか!」

 「どんな状況か分からんからな。俺たちが揃って行った方がいいだろう」

 「そうだな!」


 俺は嬉しくてしょうがなかった。

 またトラと一緒に戦場に立てるのだ。


 もちろん、トラも俺も油断はしていない。

 もしかしたら、全ては芝居で「ガンドッグ」が俺たちを襲うかもしれない。

 しかし、俺の勘がそうではないことを告げている。

 だからトラも同じく感じているだろう。

 トラが速攻で決めたのは、そういうことだ。

 多分、「ガンドッグ」と三合会の状況が変わったのだ。

 最初は上手くやっていたのかもしれないが、三合会は幾つにも割れた組織だ。

 横から方針を変えた連中がいるのだろうと思った。


 俺が話してから翌日にはトラが全てを準備した。

 流石に何でも素早い。

 

 俺たちは「ガンドッグ」が指定する重慶市に向かった。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 





 聖が「ガンドッグ」の重要な情報を掴んでくれた。

 付き合いのある三合会の幹部からのもののようだ。

 やはり聖は最高だ。


 「ガンドッグ」が三合会と手を結んだことが分かり、アメリカ国内で俺たちが組織の存在を公表して追い詰めた。

 元々は俺たちへの敵対を止め、共闘の可能性を考えてのことだったのだが、裏目に出た。

 「ガンドッグ」は中国へ拠点を移すことを決め、素早く動いた。

 俺の想定から外れた。

 まさか、あの混沌とした中国へ渡るとは考えていなかった。

 中国は共産党の一党独裁で、国家主席が最高権力を握っている。

 毛沢東以来、政治によるあらゆる反対勢力への警戒が強く、共産党に逆らう者は全て粛清される。

 そのためガチガチの利権体制が確立し、裏社会の組織もそれに倣った。

 三合会は黒社会の歴史の中で最大勢力となって君臨しているが、もちろん共産党勢力下にある。

 しかし利権体制の組織はそのうちに分裂する。

 その結果、三合会は幾つもの派閥に分かれ、そのうちの一つが「ガンドッグ」を取り込んだが、他の派閥がそれを奪おうとしたのだろう。

 もしくは「ガンドッグ」を潰して敵対派閥の力を削ごうとしたか。

 何にしても、「ガンドッグ」は当初の思惑を外れ、中国大陸で孤立した。

 そうそう潰される連中ではないが、支援する者の無い中での脱出は難しいだろう。

 だから俺たちに頼った。


 俺は聖から連絡を受けて、即座に「ガンドッグ」救出作戦を練った。

 「ガンドッグ」の人数は250名。

 それなりの輸送機が必要だ。

 大規模輸送の「タイガーファング」ならば2機も飛ばせばすし詰め状態にはなるが、何とか収容出来る。

 重慶市の広い道路であれば、垂直離着陸が出来るので十分だろう。

 俺と聖、それに石神家から虎蘭と虎水、アラスカからソルジャー20名、それに殲滅戦装備のデュールゲリエ10体。

 少人数だが、中国軍相手ならば十分だろう。

 虎蘭と虎水は戦場の経験のためだ。

 石神家の中で、唯一俺の言うことを聞いてくれる奴らだ。

 虎白さんに言うと、喜んで連れてってくれと言われた。

 自分も行きたいと言うかと思ったが、笑って「鍛錬にならん」と言われた。

 ブラジルで活躍できなかったことを失態と思い、今も必死に何かしているのだろう。


 アラスカから「タイガーファング」が飛び立ち、日本の蓮花研究所で俺と虎蘭と虎水を乗せる。

 蓮花たちが俺たち全員分の食事を用意してくれた。

 

 「高虎さん! 今回は私たちを連れて行って下さってありがとうございます!」

 

 虎蘭と虎水が明るく笑っていた。


 「おう、お前らまだ戦場の経験が少ないからな。今後もどんどん使って行くつもりだからよろしくな」

 「「はい!」」


 虎蘭は以前と同じ長い髪を後ろで結んでいる。

 虎水は逆にショートだ。

 二人とも石神家の綺麗な顔立ちだが、虎蘭がクールな印象に対し、虎水は柔和な感じだ。

 もちろん二人とも剣士になっており、実力は申し分ないだろう。

 通常戦力の軍隊を相手に十二分に戦える。

 アラスカのソルジャーたちも訓練を積み上げた連中で、各地の戦闘に参加している。

 軍隊上りが多く、戦場での経験も十分だ。


 全員が蓮花の食事に感動し、蓮花を喜ばせた。

 食事の後でブリーフィングを行なう。

 今回は俺が作戦指揮官になっているので、俺が説明した。


 「「ガンドッグ」は銃器の扱いが神懸かり的に優れた連中だ。石神家では上級者に「剣士」の称号があるが、「ガンドッグ」では《ガンスリンガー》と呼ばれる連中が桁違いだ。これまで謎の組織とされていたが、先日俺たちと交戦した」


 俺は簡単に経緯を伝え、更に「ガンドッグ」が中国へ渡った経緯を伝えた。


 「その中国国内で三合会と揉めたようだ。そんなことは目に見えているんだがな。バカな連中だ」


 分裂した三合会の何を信用したのか。

 それに共産党政治が全てを支配している中国で、立場が安定すると思っていたか。


 「とにかく、現在武漢の拠点を脱出して重慶市の建物に篭っている。俺たちはその救援に向かう」


 「タイガー、罠の可能性は無いのか?」

 「俺も100%信頼はしていない。俺たちをおびき寄せる作戦の可能性はある。その場合は「シャンゴ」を投下して終わりだ」

 

 全員が笑った。

 同行するデュールゲリエの何体かが「シャンゴ」を装備している。

 ただ、裏切り行為が判明した時点で、何人かは犠牲になるだろう。

 ガンスリンガーの銃技は驚異的だ。

 恐らく中国軍も全員が撃破されただろう。

 戦車も出ただろうが、あいつらならば何とかしたに違いない。

 俺と聖も銃そのものの威力は通常のそれしか感じていないが、ガンスリンガーが戦車や航空機を相手の戦闘を想定していないはずはないと考えていた。

 

 「とにかく、罠が判明した時点で最高速度で離脱しろ。俺の命令を待つ必要は無い。一瞬が生死を分けるからな!」


 虎蘭と虎水は花岡の「飛行:鷹閃花」は使えない。

 だから俺と聖が抱えて逃げる。

 一応接触と同時にデュールゲリエが「スズメバチ」を展開する。

 それで多少の時間は稼げるだろう。


 「「タイガーファング」に収容次第脱出する。余計な戦闘は面倒だからな」

 「収容後に裏切った場合はどうする?」

 「それは大丈夫だ。「ガンドッグ」の連中には《特別な措置》を施す」

 「ガスか何かで眠らせるのか?」

 「いや、もっと確実な方法だ。妖魔を使って眠らせる」

 「!」

 

 「お前らも疲れたら言ってくれ」


 全員が笑った。


 俺は収容後の武装解除の方法や中国軍との交戦になった場合の対処を説明した。


 「「業」が手を出して来る可能性もある」

 

 中国は「業」の軍勢と一部手を組んでいるのは確実だ。

 それに「ガンドッグ」も日本での作戦行動で「業」の支援を受けていた。


 「そのために俺と聖がいる。それに石神家から虎蘭と虎水も同行している。若い二人だが実力は折り紙付きだ」


 二人が立ち上がって頭を下げた。


 「俺の親戚だ。下品な真似をしたらチンコを斬られるぞ!」


 また全員が笑った。


 「斬っていいからな!」

 「「はい!」」


 幾つか質問を受け、俺が応えた。

 全員で「タイガーファング」に乗り込んだ。







 数分後、重慶市に着いて、全員で降下した。

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