第2363話 ガンドッグ Ⅳ
重慶市は中国の中でも最大の経済都市の一つだ。
市街地は大きく、交通網も発達している。
陸の大規模中継地点としても発展している。
「ガンドッグ」は市街地外れの巨大なマンションに立て籠もっている。
情報によると、事前に逃走時の潜伏場所として用意していたようだ。
まるっきりのバカではないらしい。
俺と聖が虎蘭と虎水を抱え、「飛行」でマンションの敷地に着陸した。
俺が虎水を抱えると、虎蘭が仏頂面をし、虎水は喜んだ。
「タイガーファング」は少し離れた4車線道路上空で待機する。
俺と聖がマンションの入り口前で待ち、他のソルジャーは敷地外に降りた。
虎蘭と虎水も敷地外に出て、妖魔の攻撃に備える。
今のところ、「タイガーファング」の霊素レーダーも何も捉えていない。
もう「タイガーファング」の侵入は中国軍のレーダーに捉えられているだろうから、じき軍隊が来るだろう。
デュールゲリエが「スズメバチ」を展開しているので、何が来ても対処出来る。
経済発展の都市と呼ばれているが、一部に近代的な美しい建築物はあっても、その多くは薄汚れた古い建物ばかりだ。
工場の排煙のために空は薄汚れ、それがまた建物を汚している。
「ガンドッグ」が立て籠もったマンションは、恐ろしく汚れていた。
本当に一時的な場所として確保したのだろう。
マンションは12階建ての巨大な建物だった。
俺たちの到着は分かっているので、中から大勢の人間が出て来た。
初老の髪の薄い男が二人を連れて俺たちの方へ来た。
護衛の二人はもちろんルガーのスーパーブラックホークを提げている。
護衛の一人は以前に拉致したリリーだった。
俺たちに気軽に手を振って笑っている。
「「虎」の軍だな」
「そうだ。お前が代表か?」
「ミルチャ・ラッセルだ」
「そうか」
俺は名乗らなかった。
もちろん聖もだ。
ラッセルは金髪碧眼の白人で、身長は205センチの巨漢。
太ってはいないが肉付はいい。
眼光の鋭さが目立つ男だった。
「タイガーだな。そっちはセイントか」
やはり俺たちを知っていた。
「お前たちが直接来てくれたのか」
「ガンスリンガーは油断出来ないからな」
「先日は済まなかった。敵対するつもりは無いのだ」
「いいよ、お前たちも仕事を受けてのことだったんだろう」
「そう言って貰えると助かる。今回の報酬も十分に支払うつもりだし、誠意も示す」
インカムに連絡が入った。
「タイガー、中国軍だ。J20(戦闘機)が20機! 大盤振る舞いだな!」
「分かった。デュールゲリエを一機対応させてくれ」
「了解!」
背後でデュールゲリエが一機空へ上った。
J20は中国が開発した第5世代のステルス戦闘機だ。
欧米の最新鋭機にも対抗できると言われている。
それが20機も向かって来た。
「虎」の軍と認識して強い戦力を向けて来たのだろう。
まあ、敵うはずもないのだが。
デュールゲリエが即座に20機を破壊目標として固定した。
高速機動で編隊に向かい、高出力レーザーのみで瞬時に撃墜した。
驚いたことに続いてTu-16 バジャー爆撃機まで来た。
市街地で爆撃を行なうつもりか。
J20を撃破したデュールゲリエがそれも撃墜した。
じきに地上部隊も来ることだろう。
「ガンドッグ」の連中はすぐにここまで移動して来た車両に乗り込んだ。
俺たちはその護衛を引き受ける。
「移動するぞ。全員走れ!」
俺たちは1キロ先のX地点へ移動した。
「高虎さん!」
虎蘭が俺に並走しながら叫んだ。
こいつ、また俺を守るつもりか。
「ああ、来たな」
妖魔だ。
インカムに「タイガーファング」からも妖魔出現の連絡が来た。
やはり中国は「業」と親密になっている。
このタイミングで即座に妖魔を出して来るということは、そういうことだ。
「虎蘭、数は分かるか?」
「はい、凡そ200体。随分と出現が早いですね」
「多分、「ガンドッグ」の連中を始末する用意だったんだろうよ。軍隊でもガンスリンガーには敵わないからな」
「なるほど!」
恐らく潜伏場所は特定されており、先ほどの戦闘機と爆撃機を使う準備もあったのだろう。
そしてそれで決着が着かない場合は妖魔の軍勢だ。
俺たちの到着はいいタイミングだったと思われる。
流石の「ガンドッグ」も、相当ヤバかったはずだ。
妖魔は俺たちの前方に展開している。
虎蘭と虎水を先に行かせた。
「お前たちの実力を見せろ!」
「「はい!」」
二人が走り去り、前方の妖魔へ向かった。
「ガンドッグ」の車両は全て停車した。
俺はラッセルの乗る車へ近づいた。
「お前たちの技で妖魔は斃せるか?」
「やってみよう」
ラッセルが何人かに命じて前に出した。
スーパーブラックホークで銃撃する。
弾丸は妖魔に撃ち込まれるが、ほとんどダメージは無いようだった。
ガンスリンガーたちが戻って来る。
「無理なようだな」
「お前たちの中で、崋山のガンを持っている奴がいるだろう?」
「……」
「おい!」
俺が怒鳴るとラッセルが応えた。
「我々は「虎」の軍に救出を頼んだ。戦闘行動は全て任せる」
「このやろう」
ラッセルは崋山の所有を否定しなかった。
今はそれでいいだろう。
聖は最後尾で警戒してくれている。
何の指示も出していないが、やはり聖は頼りになる。
虎蘭たちも「黒笛」で難なく妖魔を斃して行った。
まあ、「業」としても俺たちが出張るとは考えていなかっただろう。
この程度の妖魔の支援で「ガンドッグ」相手であれば十分だったはずだ。
崋山の銃をどれだけ所有しているのかは知らないが、恐らく多くても数丁だ。
だったら、この数の妖魔を相手には出来ない。
3分で虎蘭たちは既に半数の妖魔を斃していた。
虎蘭は踊るような動きで次々に妖魔を斬って行く。
虎水は鋭い剣筋で周囲の妖魔を相手にしている。
どちらも強いが、虎蘭の方が上だろう。
虎白さんが虎蘭はいずれ剣聖になると言っていたが、よく分かった。
二人とも戦いながら顔が歓喜に輝いている。
やはり石神家だ。
その戦いを「ガンドッグ」の連中が見ていた。
その目は、いつか敵になるかもしれない相手を観察しているのかと思っていた。
しかし、全員が虎蘭と虎水の剣技に感動しているのが分かった。
銃技を磨き上げて来た自分たちと同じく、剣技を極めようとして来た石神家のことが分かるのだろう。
「あれがイシガミか」
ラッセルが呟いた。
ラッセルも嘆息していた。
「そうだ。お前たちよりも強いぞ」
「我々はあんな化け物を相手にするつもりはなかった」
「なんだ?」
「……」
ラッセルは答えようとはしなかった。
「あと1分で全滅させろ!」
俺が叫ぶと虎蘭たちが奥義を使い始めた。
たちまち妖魔が消えて行く。
30秒で平らげた。
「出発! 急げ!」
俺の号令でまた全ての車両が発進した。
無事に「タイガーファング」の待つ場所まで着き俺たちは乗り込んだ。
タマを呼び、全員に武装解除させ、機内に収容した。
アラスカへ到着し、作戦行動は終了した。
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