第2352話 退魔師 XⅣ
7月第一週の金曜日。
俺は仕事を早目に終えて、柏木さんと一緒に病院を出た。
柏木さんの体調は問題なく、主治医の俺が外泊許可にサインをしている。
院長には一応報告もした。
「石神先生、本当に先生のお宅へ伺ってもいいんですか?」
「もちろんです。話したいこともありますしね」
「そうですか」
どのような話なのかは、柏木さんも大体分かっている。
「虎」の軍への参加は、柏木さんの希望でもある。
もちろんマンロウ千鶴と御坂が来ることも伝えてある。
駐車場でアヴェンタドールを見せた。
俺がシザードアを開けてシートに座らせる。
「え、この車ですか!」
「はい」
「……」
笑ってシートベルトを締めるのを手伝った。
着替えは申し訳ないが自分で抱えていただく。
俺もシートに座り、エンジンを掛けた。
轟音が響き、柏木さんが驚く。
「じゃあ行きますよ!」
「!」
走っている間中、他のドライバーたちに注目されるので、柏木さんが困っていた。
俺は慣れたものだが。
15分で家に着き、リモコンで門を開けた。
柏木さんはまた俺の家を見て驚いている。
みんなそーだよなー。
「凄いお宅ですね」
「そーですねー」
ほんとになー。
申し訳ないが一度降りて頂き、ガレージに車を入れて一緒に玄関へ向かった。
ロボがアヴェンタドールのエンジン音を聞いて待ち構えていて、俺に飛びついてくる。
「うちのロボです」
「可愛らしいネコですね!」
ロボが俺から降りて、柏木さんに突進して身体をこすりつける。
今までにない初対面の大歓迎ぶりだ。
ロボには柏木さんの綺麗な魂が見えるのだろう。
「知らない人間をロボがここまで歓迎するのは初めてですよ」
「そうですか、ありがとうございます」
柏木さんがロボにも丁寧に挨拶した。
そして足に額をこすりつけるロボを優しく撫でた。
その撫で方で分かるが、ネコがお好きな方だ。
リヴィングに上がると、もうマンロウ千鶴と御坂が来ていた。
柳がアルファードで迎えに行ったはずだ。
「石神さん! こんなお宅だなんて!」
「驚いたか」
「そうですよ! ちょっと、こういうのは前もって教えてもらわないと!」
「どうしてだよ?」
「心の準備がありますよ!」
「ワハハハハハハハハ!」
御坂とも挨拶し、寛いで欲しいと言った。
二人とも気楽な格好でと言っていたので、千鶴はジーンズにノースリーブの白のブラウス、御坂は白い綿のパンツに絞り染めのTシャツを着ていた。
柏木さんは作務衣だ。
皇紀をあらためて紹介した。
「本当はこいつも入学させたかったんだけどよ。ちょっと海外で仕事があってな」
「「……」」
「年齢的には、こいつは16歳だから、本当に高校生なんだよ」
「あの、その頭は……」
「バカ! 聞くな! 本人が一番気にしてんだよ!」
「タカさんがやったんじゃないですか!」
「こいつ、高校に行けなくってなぁ。それでグレちゃったの」
「違いますよ!」
千鶴と御坂が大笑いした。
すぐに夕飯の準備をし、ウッドデッキに降りた。
もう食材のカットは子どもたちが済ませている。
千鶴と御坂が手伝おうとしたが、子どもたちからもう焼くだけだと言われた。
「随分食材が多いですね?」
「子どもたちの学食での喰いっぷりは知ってるだろう?」
「ああ! 数十人前が無くなったという!」
「アハハハハハハ!」
まあ、あんなもんじゃねぇのだが。
すぐにバーベキュー台に火が入れられた。
当然、子どもたちと俺たちの台は別だ。
バキン、ガキン、ドスン、ドコドコ……
「「「……」」」
「一応言っておくけど、あっちの台には行くなよ?」
「「はい……」」
ギャラリーがいるので、いつも以上に子どもたちがノっている。
「スゴイですね……」
「まーなー。あ、俺のせいじゃねぇからな!」
「でも、石神家って感じがします」
「全然ちげぇよ!」
50キロの肉がどんどん消えて行く。
俺はゆっくりとこっちの台で焼いて、柏木さんたちに喰わせた。
「バーベキューってさ、串に刺すだろ?」
「ええ、無いですね」
「武器にしちゃうからなー。大変だった」
「た、たいへんですね……」
俺は柏木さんに、魚介類を焼き食べて頂いた。
千鶴たちもようやく慣れて来て、自分たちでも好きな具材を焼き始めた。
「石神先生、これは本当に美味しいですね」
「そうですか! いつもはメザシなんですけどね!」
「アハハハハハハ!」
千鶴と御坂も笑っている。
聞くと二人は星蘭高校の寮に入っているそうだ。
いつもは寮で出る食事を食べているらしい。
「こんな美味しいものは久しぶりですよ!」
「そうか! どんどん喰ってくれな!」
「「はい!」」
柏木さんはゆっくりと召し上がり、若い千鶴たちはどんどん食べてくれた。
やはり柏木さんにはこういう食事はきつかっただろうか。
「柏木さん、食べたいものはありませんか?」
「はい、先ほどのホタテの焼物をよろしいですか?」
「是非!」
いつも質素なものを召し上がっていることは分かっている。
贅沢が苦手なのだ。
今日はお付き合い下さっているのが分かる。
俺は無理はさせずにホタテを焼き、ご飯とハマグリの吸い物をよそった。
柏木さんはそれを美しい所作で召し上がった。
「この吸い物は身体に沁みますね」
「そうですか、良かった」
柏木さんはそれで満足された。
子どもたちの饗宴を微笑まれて見ている。
俺は千鶴たちにどんどん焼いて喰わせた。
「石神さん! 私もここに住んでいいですか!」
「あ、私も!」
「バカ! いつもはメザシなんだって!」
二人は美味い美味いと言いながらどんどん食べてくれた。
ナスなどの野菜を時々柏木さんの器に入れる。
「お酒も出したいんですけどね。まだ控えましょう」
「ええ、残念です」
酒はお好きなようだ。
あとで少しだけ飲ませよう。
子どもたちも一段落し、ルーとハーがこっちに来た。
「マンロウちゃん、食べてる?」
「うん、美味しいね!」
「御坂さんも?」
「うん、御馳走をありがとうね!」
双子がニコニコしている。
本当に大好きなのだろう。
「ボクシング部の榊さんって、分身出来るじゃん?」
「うん、そうだね。あれは凄いよ」
「実はね、私たちも出来るのよ!」
「えぇ!」
「おい、ここじゃやめろ!」
「えぇー! 見せてもいいでしょう?」
「ぜってぇダメだぁ!」
「「もう!」」
やる気だったのか。
「あの、私、是非見たいな」
「私も」
「「やったぁー!」」
双子が「ウンコ7分身」をしやがった。
7人ずつのルーとハーが拡がる。
「「「!」」」
「バカ!」
一人だけウンコを乗せていない。
その二人が近付いて来る。
「「ね!」」
「「「……」」」
柏木さんと千鶴、御坂が呆然とする。
「もうやめろ!」
「「はーい」」
分身たちがゴミを入れる物置へ入って行く。
頭のウンコは消えないのだ。
「どうだった?」
「す、スゴイね」
「「やったぁー!」」
柏木さんが口の中で何かを唱えていた。
すいません。
「そろそろ切り上げですよー!」
亜紀ちゃんが叫んだ。
まあ、頃合いだ。
もう三人とも食欲はねぇ。
俺は柏木さんを誘い、皇紀と三人で「虎温泉」に向かった。
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