第2351話 退魔師 XⅢ

 思いがけず柏木さんとマンロウ千鶴との関係を知った。

 俺は柏木さんを「虎」の軍に引き入れることと、マンロウ千鶴たちとの関係をどうするかを考えており、これも何かの巡り合わせかと考えるようになった。

 その前に本人たちの考えを聞くために、うちへ来てもらうことにした。

 子どもたちにもその旨を話す。


 「退魔師の柏木さんが、百目鬼家の本家筋だったそうだ。その関係で、星蘭高校のマンロウ千鶴が見舞いに来ててよ。びっくり」

 「マンロウちゃんが!」


 双子が喜ぶ。

 すっかりマンロウ千鶴を大好きになったようだ。

 

 「柏木さんと星蘭高校のマンロウ千鶴、それに剣道部の御坂は、すぐにでも欲しい人材だ。柏木さんは退院後だが、退魔師としての経歴は、いろいろと俺たちに役立つだろう。それにマンロウと御坂は実力もすでに第一線に立てそうだ。もちろん、ライカンスロープ相手のことで、妖魔や人間相手は別途確認と訓練が必要だろうな」

 「その三人を呼ぶんですか?」

 「いや、他にボクシング部の榊と部団連盟の久我も考えている。これは「虎」の軍へ加えることはまだ分からない。本人たちの希望と、能力次第だな」

 

 榊の能力は興味がある。

 あの殺気を複数展開出来る能力は、他の人間が身に着けられれば大変有用なものになる。

 榊の場合は、その背後関係だ。

 あれほどの能力を身に付けるためには、特殊な事情が必要なはずだと俺は考えていた。

 その事情如何では、榊と距離を取る必要がある。

 まあ、大丈夫だろうと俺の勘は告げているが。

 久我の能力は俺は直接は見ていないが、ある種の統率の力のようだ。

 内容によっては加えたいと考えている。

 しかし俺は、久我にある不安を抱いていた。


 「じゃあタカさん、5人を一遍に呼ぶのは不味いんじゃないですか?」

 「そうなんだが、俺も何度も呼びたくねぇんだよなぁ。それに久我と榊が加わるなら5人一遍に話したいしよ」


 別に場所を分けて話せばいいのかもしれないが。 

 亜紀ちゃんがニコニコして立ち上がった。


 「いい方法がありますよ!」

 「なんだよ?」

 「柏木さんとマンロウさん、御坂さんを金曜日の夜に呼ぶんです!」

 「ああ」

 「翌日の土曜の午前中に榊と久我を呼んだらどうでしょうか!」

 「ああ、なるほどな」


 悪くない考えだ。

 ただ、金曜の夜というのは……


 「柏木さんたちも一緒にアレを観るのかよ?」

 「もっちろん!」

 「うーん」


 亜紀ちゃんは大勢で『虎は孤高に』を観たいのだろう。

 当然三人に泊まってもらうということになる。

 柏木さんは問題ないが、それほど関係性の無い女子高生を知らない家に泊めてもいいものだろうか。


 「何にしても、マンロウたちには確認するよ。それからだな」

 「わかりました!」

 「泊まれないようなら、土曜日にまとめてだ」

 「はい!」


 とにかく確認だ。

 マンロウ千鶴たちだけではない。

 俺は岩手の虎白さんに電話した。


 「こんにちは! 当主の高虎です!」

 「うるせぇな! お前だっていうのは電話の通知で分かるんだから、いちいち言うな!」

 「すみません!」

 「とっとと要件を話せ!」

 「はい!」


 俺は御坂の「虎眼流」と石神家との関係を聞いた。


 「ああ、「虎眼流」かぁ! あれは元々は石神家の傍流が起こした流派なんだよ」

 「そうなんですか」

 「そこそこ才能がある奴でな。ある程度本家で鍛えて、そこから家を出た。もちろん流派を起こす時には本家に承諾を得たけどよ」

 「許したんですね?」

 「まあな。俺たちが全滅しても、外にそういう流派があれば少しはな」

 「なるほど」


 もちろん本家が潰れれば奥義などは多く廃れるのだろうが、一部は残る。

 

 「まあ、百年くらい前の話だ。「虎眼流」も時々ここに来て鍛錬すんだぜ?」

 「ほんとですか!」

 「おう。才能のある奴には奥義も教えてる。結構いるぞ?」

 「じゃあ「虎眼流」にも使い手はいるんですね?」

 「まあな。なんだ、どっかで知り合ったか?」


 俺は星蘭高校に潜入し、御坂という女子生徒と出会った話をした。


 「御坂家かぁ。あそこは結構やるぞ」

 「そうですか!」

 「出戻りで石神家に入った奴もいるよ」

 「えぇ!」

 「石神家の血が流れてんからな! 「虎地獄」も出来た」

 「やったんですか!」

 「当たり前だろう! そうしなきゃ奥義は覚えられねぇんだからよ」

 「ふー」


 大変だなー。


 「その御坂家の奴を使いたいなら、一度こっちに連れて来い」

 「はい!」

 「俺が見極めてやる」

 「分かりました! じゃあ、いつか行かせますね!」

 「お前も一緒に来い!」

 「はい!」


 俺もかー。

 まあ、女子高生一人をあんなとこに行かせるわけにもいかんかー。

 また行くのかー。

 俺は礼を言って電話を切った。


 次にマンロウ千鶴に電話する。


 「石神さん!」

 「おう、今度俺の家に来て貰いたいんだがよ」

 「いつでも行きますよ!」

 「それでな。最初に柏木さんと千鶴と御坂に話をしたいんだ」

 「分かりました!」

 「榊と久我とも話したいんだが、お前たちとは分けたいんだよ」

 「ああ、分かりました。久我たちには私たちとは別な話になるんですね?」

 

 やはり千鶴は明晰だ。

 

 「そういうことだ。それでな、申し訳ないんだが、今週の金曜の晩ってうちに泊まれるかな?」

 「えぇ! 石神さんのお宅に泊まれるんですか!」

 「ああ、三人でな。正直に言って、別に泊まってもらう必要もないんだけどさ」

 「いいえ! 是非伺わせて下さい!」

 「いや、あのさ。娘たちが千鶴と御坂が大好きになっちゃってさ」

 「え! 嬉しいです!」

 「それでな。一緒に『虎は孤高に』を観たいんだってさ。まあ俺も寛いで話したいんだけどな」

 「いいですね! 是非そうしましょうよ!」

 「柏木さんは大丈夫として、御坂はどうかな?」

 「きっと喜びますよ! 御坂も石神さんのことは尊敬してますし!」

 「そうか。じゃあ話してみてくれ。ああ、本当に泊まる必要はないから、無理させないでくれな」

 「分かりました! でも御坂も泊りたいと思いますよ!」

 「本当に無理なくな。榊と久我は土曜日に来て貰うつもりだ」

 「分かりました。それも私から話しましょうか?」

 「そうだな。じゃあ、頼むわ」

 「はい!」


 俺は金曜の夕方5時に来て欲しいと言った。

 高校まで誰かに迎えに行かせることにした。


 俺は子どもたちに、金曜日にマンロウ千鶴と御坂、柏木さんが泊りに来ることを伝えた。

 みんな喜んでくれた。


 「おい、皇紀も呼んでおけ!」

 「「「ギャハハハハハハ!」」」

 「え、なーに?」


 亜紀ちゃんと双子が笑い、柳は分からなかった。

 石神家のハイスクール仁義なのだから、皇紀の金髪ポンパドールがあった方がいいだろう。

 そういうことになった。


 「亜紀ちゃん、金曜の献立は!」

 「はい、バーベキュー大会ですね!」

 「おし!」







 俺も早く帰るようにしよう。

 まあ、ちょっと楽しみだ。

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