第2324話 石神家 ハイスクール仁義 XⅢ

 久我が立ち上がった。


 「猫神、我々の完敗だ。どうかここまでにして欲……」


 久我もぶっ飛ばした。

 久我は咄嗟に後ろへ飛び、顎へのダメージを殺した。

 しかし後ろへ一回転し、無様に床に打ち付けられる。

 俺の拳はそんなに甘くねぇ。

 激しい衝撃で身体が動かなくなる。

 久我の頭を踏みつけた。

 他の白ランたちが動揺する。


 「部団連盟は今日で解散だ。文句がある奴は今言え」

 

 誰も答えない。

 そのうちに拍手が起きた。

 うちの子どもたち、マンロウ千鶴、御坂と剣道部の数十人、ボクシング部の今村、「爆撃天使」の刈谷とその幹部たちだ。

 俺は念のために確認した。


 「久我、お前の流派はどこだ?」

 「郷間と同じだ」

 「病葉衆か?」


 「久我さんは本家の血筋だ! 舐めるな!」


 郷間が立ち上がって叫んだ。

 大分フラついている。


 「よせ! 猫神は病葉衆を知っている!」

 「久我さん! そんなバカな!」

 「早霧家の剣も知っているんだ! しかも返し技まで!」

 「!」


 「猫神、あなたは何者なんだ?」

 「猫神一族を知らないのか?」

 「知らない。「花岡」を使ったのは分かっている。でも、島津の剣をあれほどに翻弄出来る人間など」

 「そうかよ。まあ、教えるつもりもねぇ。質問するのは俺の方だ」

 「何が知りたい?」


 「「デミウルゴス」だ。知っているだろう」

 「……」


 久我が沈黙した。


 「おい、今更かよ!」

 「違う! 知っている。だがあれは……」


 急激に殺気が迸った。

 俺と子どもたちが反応する。

 そしてマンロウ千鶴が構えた。

 マンロウ千鶴の周囲に8つの光が浮かぶ。

 また御坂も真剣を構えた。

 二人ともいい反応であり、また脅威の大きさも分かっている。


 見学していた二人の身体が大きく膨れ上がる。

 恐らく久我が呼んだ《髑髏連盟》と「ノスフェラトウ」の奴だろう。


 双子が「オロチストライク」を撃った。

 オーガタイプにメタモルフォーゼした身体に当たり、胸部が弾ける。

 マンロウ千鶴の光が突き刺さり、更に胸部を抉った。

 そして御坂の剣がもう一体の腹を割く。

 御坂も通常の剣技ではない。


 亜紀ちゃんが双子が斃した方の頭をブロウで粉砕し、俺がもう一体の頭を吹き飛ばした。


 「ライカンスロープかよ」


 全員が硬直している。

 いきなり怪物に襲われ掛けたのだ。

 久我が蒼ざめていた。

 こいつらがいたので話せなかったのだろう。


 「おい、全部話せ」

 

 久我が語り出した。







 「この星蘭高校は、様々な事情で行き場の無い生徒を集めている」

 「ああ、クズの不良を中心に、何かの事情で進学出来ない人間たちだな」

 「そうだ」


 それは学校法人としての経営戦略だろう。

 不良共を無試験で入れて金を引っ張り出す。

 そして入学金や生活費に困窮している優秀な生徒を無償で優遇し、有名校へ進学させることもやっている。

 片手で高い入学金と授業料で金もうけをし、片手で優秀な学校の体裁も整える。

 褒められるものではないにせよ、理屈は分かる。

 実際に星蘭高校の存在が誰かを助けていることもあるのだろう。


 「しかし、二年前から変わった。この学校はずっと部団連盟が統括していた。不良たちは基本的に放置し、出席日数さえ足りれば進級も卒業もさせた」

 「そうだってな」


 不良たちの親から金集めをしていたということだ。


 「だが、今は違う。部団連盟は表の支配者であっても、実際に支配しているのは別にいる」

 「それは誰だ?」


 「《髑髏連盟》だ」

 「……」


 「猫神、お前が探している「デミウルゴス」も髑髏連盟が流している。あのドラッグの効果は知っているのだろう?」

 「ああ、人間を怪物にする。さっきの連中のようにな」

 「そうだ。我々部団連盟も何とかしようとしてきた。しかし実態が掴めない上に、犠牲者が出た」

 「犠牲者?」

 

 久我が苦い顔をする。

 

 「部団連盟の生徒たちだ。ある日映像が届いた。どこかへ攫われ、酷い殺され方をした生徒たちのものだ」

 「警察はどうした!」

 「無理だ。警察へ知らせればもっと犠牲者を増やすと言われた。それでも警察へ届けようとしたんだ! そうしたらまた10人の生徒が殺された!」

 「部団連盟の中にも浸透しているんだな」

 「そうだ。それを探ることも出来ない!」


 久我が悔しそうに叫ぶ。


 「《髑髏連盟》から言われた。今まで通りに活動するのであれば、何もしないと。その通りにするしかなかった」

 「泣き寝入りかよ」

 

 久我の顔が歪んでいる。


 「俺たちも異能の力を持っている。だから最初は抵抗した」

 「それで?」

 「届かなかった」

 「ふん!」


 まあ、子どもならば仕方がないだろうが。


 「俺を制裁したのはどういうことだ?」

 「《髑髏連盟》は、部団連盟がこれまで通りに星蘭高校に君臨するように言った。だから逆らう者を制裁しなければならないんだ」

 「殺すまでやるのかよ!」

 

 久我が俺を見詰めた。


 「お前のことは、ボクシング部の榊がけじめを付けて終わるはずだったんだ。しかしお前は榊を軽くあしらって逆に倒してしまった」

 「……」


 「だから《髑髏連盟》から猫神は殺さなければならないと言われた」

 「なんだと?」

 「お前は異質過ぎる。お前の兄弟たちも同じだ。この学校の支配図を塗り変えてしまうかもしれない。だから必死だった」

 「バカが!」


 どんな能力を持っているのかは知らないが、久我は自分可愛さに他人の犠牲を認めたクズだ。


 「それを知っているのは?」

 「俺と郷間だけだ。同じ病葉衆だからな。他の幹部たちも知らない」

 「そうか」


 恐らく、郷間は「呪眼」の他に、他人を洗脳する能力もあるのだろう。

 得体の知れない技を使う病葉衆ならではだ。


 「「ノスフェラトウ」はどうなんだ?」

 「あれもよくは分からない。「創世の科学」の護衛組や戦闘要員の人間たちであることは分かっている。あいつらも2年前にこの学校へ大量に入学し、一つの勢力となった。だけど問題も起こさないし、多少他のチームと小競り合いがあるだけだ」

 「だから放置しているんだな?」

 「ああ。《髑髏連盟》からもそう言われていた」

 「なんだ?」

 「分からない。だが、恐らく二つの組織は何らかの形で繋がっているのだと思う」


 二つのチームは繋がっている。

 俺の勘もそう感じていた。

 「デミウルゴス」の供給元が《髑髏連盟》。

 そして実際の売買は「ノスフェラトウ」が担っているのかもしれない。

 そうなれば「創世の科学」自体も「デミウルゴス」に繋がっている可能性もある。

 かつての「太陽界」のように。

 大体の構造が見えて来た。


 「お前は《髑髏連盟》と連絡が付けられるのか?」

 「いや、一方的に向こうからだけだ」

 「スマホか?」

 「そうだ」

 「掛け直せよ」

 

 久我の顔が恐怖で凍り付いた。


 「出来ない! そんなことをすれば殺される!」

 「てめぇ、自分は簡単に殺人をするくせによ」

 「お前も殺される! あいつらはあまりにも大きい!」

 「ふざけんな!」


 俺は久我の首を掴んで持ち上げ、ポケットからスマホを取り出した。

 久我の手に握らせる。

 

 「呼べ! 呼ばなければお前を殺す!」

 「!」

 

 久我が必死にスマホを操作した。

 顔が真っ赤に染まり、酸素の供給が断たれつつある。

 久我が俺にスマホを寄越した。

 久我の身体を床に叩きつける。


 「よう、猫神だ。お前は《髑髏連盟》だな?」

 「……」

 「部団連盟は潰したぞ。次はお前らの番だ」

 「……」


 「聞いてるのか、アホウ! お前らの仲間の二人はさっきぶっ殺したぞ!」」


 「これから行く」

 「あ?」

 

 電話が切れた。

 全員が俺を見ていた。


 「これから来るってさ」


 久我と郷間が震え上がり、他の連中も緊張していた。


 「逃げたい奴はすぐに出て行け。これから戦闘になるぞ!」

 

 半数の人間が出て行った。

 残ったのは俺の子どもたちとマンロウ千鶴、御坂と剣道部の40人とボクシング部の今村。

 久我と郷間も残った。

 島津とさっきの鷲崎というでかい奴は放置され、まだ床に転がっている。

 

 「お前ら、逃げないのか?」


 久我たちに言った。


 「もう遅い。俺と郷間は《髑髏連盟》に逆らったことになった。逃げ場は無い」

 「他の連中はともかく、お前らは護らないぞ?」

 「構わない。もうお前と一緒に戦うしかない」

 「そうかよ」


 マンロウ千鶴に話し掛けた。


 「あんたの技は百目鬼家のものだな?」

 「流石! よく知っているのね!」


 マンロウ千鶴が嬉しそうに笑った。


 「まあな」

 「猫神君が何者なのか聞きたいけど、今は無理ね」

 「そうだな」


 真剣を持っている御坂にも聞いた。


 「あんたも普通の流派じゃないよな?」

 「はい、「虎眼(こがん)流」です!」

 「虎眼流?」

 「「石神流」の傍流です」

 「あんだと!」

 「「石神流」まで御存知でしたか!」

 「あ、ああ」


 今度虎白さんに聞いてみよ!


 「じゃあ、妖魔を斃す技もあんのかよ?」

 「多少は。でも自分はまだ若輩者でして」

 「頼りにすんな!」

 「はい!」


 御坂が明るく笑った。

 この状況で大した肝だ。


 先ほど、《髑髏連盟》の二人がライカンスロープだったことは全員が分かっている。

 あの化け物に臆さずにマンロウ千鶴と御坂は立ち向かった。

 これから、あんな化け物たちが来ることも理解していながら笑っている。

 本当に頼もしい連中だ。

 剣道部の40人は残っているが、恐らく戦力にはならない。

 ただ、外に出して俺たちの手の届かない状況にいるよりも、ここに残った方がいいだろう。

 出て行った刈谷や間宮たちは襲われる心配もないと考えた。

 逃げた白ランたちも無事だろう。


 俺と子どもたちは格技場の外へ出た。

 中はマンロウ千鶴たちに任せる。






 20分後。

 200人のバイクの集団が来た。

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