第2323話 石神家 ハイスクール仁義 XⅡ

 島津が上段から木刀を振り下ろしてくる。

 まあ、鋭い。

 高校生にしては、だが。

 俺は右から薙いで剣の軌道を変えた。


 「!」


 島津の顔が変わる。

 俺の受け大刀で力量を感じたのだ。

 目つきが鋭くなった。

 俺が剣の素人ではないことが分かったのだろう。


 島津は剣速を上げて斬りかかって来た。

 俺が余裕で捌いて行くと、時に周囲の床や壁が斬り裂かれた。

 何でも斬り裂く剣技を使い出した。

 観ていた人間たちが驚いているのが分かる。

 特に郷間は一瞬で俺が斬り刻まれると思っていただろう。

 椅子から立ち上がっているのが見えた。


 俺の後方にも島津の剣技の一部が伸びるので、御坂が真剣で撃ち合わせ、他の人間を守っていた。

 御坂は島津の斬撃をかわすことが出来るのが分かった。

 相当な腕前だ。

 俺は受け太刀で島津の攻撃をいなしていく。

 亜紀ちゃんも前に出て島津の余波を拳で打ち消していくので、御坂が驚いていた。

 島津がこんなはずではないという顔をしている。

 焦りが濃厚に滲んで来た。


 「どうした?」

 「お前……」


 俺は笑ってやった。

 島津が更に剣速を上げて撃ち込んで来る。

 俺は全てを受け太刀で跳ね返して行く。

 木刀ごと俺の身体を斬るつもりの島津の顔が歪んで行く。

 島津の剣速がどんどん速くなり、振り下ろす剣が音速を超えた。

 ソニックブームが生じる。

 まあ、ここまで出来る人間なのは評価できるが。

 しかし、俺は最初から島津の剣技を見切っていた。

 石神家本家で、虎白さんたちに教わっていたものだ。

 あの人たちは古今東西のあらゆる流派の剣技に精通しており、その対応も全部出来ている。

 だから俺も余裕で島津に対応出来た。


 「なんだ、やっぱり早霧家の「糸斬り」かぁ!」 

 「!」


 島津が驚愕していた。

 まさか俺に見通されるとは思ってもみなかっただろう。

 集まっていた連中も、俺の言葉に驚いている。

 俺が剣技にそれほど通じているとは誰も考えていなかったに違いない。


 「お前、その程度の技を身に着けて最強になったつもりだったか!」

 「……」

 「誰も手を出せないと思い上がって、散々好き勝手に人を殺してきたか! この下種野郎がぁ!」

 「猫神ぃ!」


 島津が物凄い形相で俺に迫った。

 俺も受け太刀をやめ、島津の身体に撃ち込んで行く。

 たちまち島津が受け切れなくなって行く。


 「来い!」


 俺は木刀を降ろし、無防備に身体を晒した。

 島津が間髪入れずに俺の右肩に木刀を振り下ろす。

 また集まった全員が驚く。


 島津の木刀の半分が霧になって消える。


 島津の顔が驚愕に歪んだ。

 全身に「螺旋花」をまとったのだ。


 俺は島津の身体に撃ち込んで行った。

 当たった部分の肉が爆ぜていく。

 必死に受けようとするが、徐々に手足の骨が砕け、島津の動きが鈍って行く。

 バキバキという音が響き渡った。

 

 島津が動けなくなって床に倒れた。


 「立てぇ! 俺の鍛錬はこんなもんじゃなかったぞ!」


 石神家ではズブズブと真剣を身体にぶっ刺されたのだ。

 骨が砕けた程度で何だというのか。

 しかし島津は動かない。

 呻き声を挙げ、床にだらしなくへばっていた。


 「ケッ! 情けねぇ。おい、こいつが人斬りだのすげぇだの言ってたのは誰だ?」


 後ろで笑いながら刈谷が手を挙げた。

 やはり根性のある奴だ。


 「お前かよ!」


 何人かが笑った。

 俺は最初に島津がいた甲冑の前に行った。

 兜に長い角のある、さぞ歴史的に価値のあるものだろうと見た。

 俺は瞬時に上段から甲冑を両断した。

 甲冑は真っ二つに割れて吹っ飛んだ。

 早霧家の「糸斬り」だ。

 俺も使えることが全員に分かった。


 そのまま壁に行き、格技場の壁を横に薙ぐ。

 壁が数メートル、爆散しながら崩れて行った。

 耐震用の分厚い鉄骨も組んであったが、一緒に吹っ飛んでいく。

 俺が島津を相当手加減して相手したことを示した。


 全員が黙り込んでいた。

 でかい声を張り上げていた郷間も、今は青い顔をして立ち尽くしている。

 亜紀ちゃんが笑顔で拍手をし、そしてマンロウ千鶴、先ほどの剣道部副部長の御坂や刈谷など数人が拍手に加わった。

 ひと際でかい白ランの男が来た。


 「空手部の鷲崎だ。お前、とんでもなく強いな」

 「なんだ?」

 「部団連盟に来い。お前ならばすぐ……」


 ぶっ飛ばした。

 扇風機のように身体を回転させながら壁に激突して動かなくなった。

 ナンダ、こいつ?


 「ガキだと思って殺しはしなかったけどな。でも、お前らいい加減にしろよな」


 郷間の前に行った。

 郷間が俺を睨んでいる。

 気持ちの悪い波動が来た。

 

 「病葉衆の「呪眼」かぁ! バカヤロウ!」

 

 郷間をぶっ飛ばす。

 島津はどこかで早霧家の剣を学び、「糸斬り」をものにしていたのだろう。

 闘気を通し、尖鋭化することでどんな得物を持っても斬ることが出来る。

 神宮司家の「無限斬」の劣化版という感じか。

 だが早霧家の剣技は《爆裂剣》という、大規模な破壊力を有する剣技が主流だ。

 「糸斬り」はその派生技に過ぎない。

 だから外部の島津も教わることが出来たのだろう。


 郷間は病葉衆の家系なのだろう。

 だが、単に家系的に持っていた因子を発動させたに過ぎない。

 どれほどの汎用性があるのかは分からないが、少なくとも俺には全く通じない。

 多分、うちの子どもたちはもちろん、「花岡」の戦士たちには通用しないだろう。

 それほど弱い技だ。

 まあ、気弱な人間には通じるのだろうか。

 

 やはり高校生だ。

 異様な技を持ってはいても、戦場で通用するかはまた別な話だ。

 島津の技も、銃器を使う戦場ではたちまちに殺される。

 防御の技が無いのだから、無理なのだ。

 有望なのは榊の殺気の分身だ。

 どうやって練り上げたのかは分からないが、相当なものだ。






 俺は中央に戻り、久我たち部団連盟の連中を見据えた。


 「これで終わりか? 随分と自信があったみたいだけど、この程度か!」


 俺に威圧で、久我たちが震え上がった。

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