第2319話 石神家 ハイスクール仁義 Ⅷ

 「悪人はここかぁー!」

 

 視聴覚室に入ると、大勢の男たちが階段状になったシートに座っていた。

 全員が嗤いながら下を見ている。

 そして教室の一番下で三人の女性が裸に剥かれているのが見えた。

 五人の裸の男たちが立っていて、二人がビデオカメラで撮影しようとしている。


 「てめぇらぁー!」


 通路を飛んで降り、撮影者のカメラを蹴りで破壊する。

 爆発したように四散した。

 ちょっと力を入れ過ぎた。

 カメラを持っていた手から血が流れている。

 掌が割け、指が何本か千切れた。


 数十人の男たちが怒鳴りながら降りて来るので、女性たちを隅に移動させた。


 「来い!」


 状況は無茶苦茶だが、最初から全員ぶちのめすつもりだ。

 こいつらは悪人だ!

 ぶっ飛ばしながら、幾つかの出入り口を見た。

 誰一人、逃げようとはしていない。


 「こいつ! 結構いいぞ!」

 「やっちまえ!」

 「胸は小さいけどな」

 

 胸の話をした奴の所へ跳んで、手足をへし折った。


 「強いぞ!」

 「囲め! 一気にやるぞ」


 やれるわけないじゃん。

 でも手加減しながらなので、どうにも遅い。

 80人をヤルのに30分も掛かった。

 後半は逃げようとする奴を追うのでますます効率が悪かった。

 一番下の講義スペースに全員を集めた。

 

 「ふー」


 大勢が呻いている。

 一応は大分気を遣ったので、骨折したのは数人だろう。

 半分は意識を喪っている。


 近くに転がっている奴の胸倉を掴んで起き上がらせた。


 「おい、「デミウルゴス」は?」

 「はい?」

 「「デミウルゴス」だよ!」

 「なんでしょうか?」


 そいつの左の腿にローキックをかまし、へし折った。

 でかい悲鳴を上げる。

 全員に向かって怒鳴った。


 「「デミウルゴス」を出さねぇと全員ぶっ殺すぞ!」


 実力は通じているはずなので、私の言葉に震え上がる。

 しかし、誰も何も言わない。


 「じゃあ、死ね」


 「待ってくれ! 本当に「デミウルゴス」なんて知らないんだ!」

 「じゃあ死ねって言ってんじゃん」

 「本当に待ってくれ!」


 ここまで脅しても出てこないってことはー。

 はずれかー。

 ヘッドの奴を聞き出し、安藤という男を教壇の上に座らせた。

 180センチに少し欠ける身長だが、横幅はあった。

 筋肉の量はそこそこはある。

 長い髪を七三みたいに分けていて、顔はヒキガエルのようで醜い。

 あと、口が臭かった。


 「おい、「デミウルゴス」を知らないのか?」

 「し、知らない!」

 

 女の子たちに服を着させた。

 3人とも私よりオッパイが大きかった。


 「……」


 制服が隅にあったので、持って来て渡した。


 「あんたたち、大丈夫?」

 「はい! ありがとうございます!」

 「ここの生徒?」

 「いいえ、下校途中に攫われて」

 「そうなんだ」


 制服が破かれていたので、適当に転がっている奴らから服を剥いで渡した。


 「こいつら、全員殺しとく?」

 「い、いえ! そこまでは!」

 「じゃあチンコ潰しとくね?」

 「「「!」」」


 「ま、待ってくれ! わ、詫びはする!」


 安藤が叫んだ。


 「詫び?」

 「あ、ああ」

 「じゃあ、お前、腹を斬れよ」

 「!」


 ナイフを持っていた奴が何人もいたので、その一本を安藤に渡した。


 「お前が腹を割いたら、私がすぐに介錯してやる」

 「!」

 

 安藤が床に降りてナイフを手放した。

 土下座して、涙目で私を見上げる。


 「おい!」

 「か、勘弁してください!」

 

 長い髪を掴んで持ち上げた。

 ベトベトする整髪用で頭に来た。


 「お前よ! この子らがやめてくれって言ったらやめたかよ!」

 「!」


 「お前が腹を斬らねぇんなら! 全員ぶっ殺す!」

 『!』


 意識がある連中が全員土下座した。

 安藤が小便を漏らしたので、放り投げた。


 「金なら払う!」

 「あぁ?」

 「頼む! それで勘弁してくれ!」

 

 男たちを睨んだ。


 「身体で払え」

 「はい?」

 「全員右目をくり抜け! それで勘弁してやる」

 『!』


 「ね、それでいいかな?」

 

 女の子たちに聞いた。


 「い、いえ」

 「持って帰る?」

 「い、いえ、いりません」

 「そう? じゃあ、あいつの首にする?」

 「ぜ、絶対いりませんから!」

 「?」

 「なんで不思議そうな顔すんですかぁー!」


 全員から財布を奪った。

 全員で150万円くらいになった。

 普通の高校生にしては結構持ってやがるなー。

 

 「明日までに一人500万円持ってこい」

 「む、無理です!」

 「じゃあ目玉でもいいぞ」

 「!」


 女の子たちがいらないと言った。

 150万円を渡した。


 「こんなのでいいの?」

 「こ、これもいりません」

 「そんなこと言わないでさ。あ! やっぱ目玉!」

 「違います!」


 受け取った。

 3人を帰した。


 私は教壇に座った。

 片膝を立てて宣言した。


 「お前ら「死愚魔」は今日からあたしのもんだぁ!」

 『はい!』


 「ワハハハハハハハ!」


 別にいらないんだけど。

 ちょっとやってみたかったんだ。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 


 3年2組の教室のドアをノックして開けた。


 「あのー、みなさん「間宮会」の人たちですかー?」


 教室にいた40名くらいの人たちが私を見た。

 男子生徒ばかりだけど、女子生徒も2人いた。

 細身の眼鏡を掛けた人が聞いて来た。


 「あんた誰?」

 「はい! い、犬神龍です!」

 「そう。なんか用?」

 「えーとですね」


 えーん、私こういうのやったことないよー!

 みんな参考書や問題集を拡げていた。

 あれ?


 「あの、みなさん何をやってるんですか?」

 「受験勉強だよ」

 「へー」


 なんだろう?


 「あの、実はですね。みなさんに聞きたいことがありまして」

 「何?」

 「「デミウルゴス」って知ってます?」

 「知らないけど?」

 「そーですか」


 どうすんのよー、これぇ!


 「用事はそれだけ?」

 「はい」

 「じゃあ、邪魔しないでくれるかな」

 「えーと」

 「なに?」


 間宮会って不良の集団じゃないのー!


 「私、今日転校してきたばかりで」

 「そうなの?」

 「みなさん、毎日こうやって勉強しているんですか?」

 「まあね。それが僕たちの存在意義だから」

 「存在意義?」


 眼鏡の人が私に聞いた。


 「犬神さんは、どうしてこの学校に来たの?」

 「え、えーと、他に行くところがなくって」

 「そう。僕たちもそうなんだ。いろいろな事情がみんなあってね。ここで優秀な成績でいれば授業料は免除だし、有名な大学に進学すれば、大学の費用や他にも一時金で結構なお金がもらえるんだよ」

 「そうなんですか!」


 そう言えば、早乙女さんが不良のたまり場だけど、一流大学への進学者もいるのだと言っていた。

 この人たちのことかー!


 「犬神さんが知っているかは分からないけど、ここは危険な不良たちが多いんだ」

 「あ、知ってます!」

 「そう。でもね、成績が良ければ部団連盟の人たちが護ってくれるんだ。基本的に、僕たちに手を出す人間はいない。まあ、それでも嫌な思いは多いけどね」

 「そうなんですか!」


 そういうことかー。


 「今日も猫神君か。何か勘違いしている人がいたよね?」

 「!」

 「部団連盟に逆らうなんてとんでもないよ。そこそこは強いみたいだけどね」

 「あ、あの……」

 「まあ、僕らには関係ない。さあ、出て行ってくれないかな」


 私は咄嗟に言ってしまった。


 「あの!」

 「まだあるの?」

 「私もここで勉強してもいいですか!」

 「犬神さんが?」

 「はい! 結構勉強は得意なんです!」

 「何が得意?」


 眼鏡の人が聞いてくれた。


 「受験科目は大体。数学と英語が特に」

 「へぇー」


 眼鏡の人が黒板に数式の問題を書いた。

 変数分離型の微分方程式だ。

 ルーちゃんとハーちゃんに鍛えられているので、即座に解答した。

 次に英語で話し掛けられた。

 二人で会話していった。


 「うん、いいね! 発音が綺麗だ」

 「あなたも!」

 「僕は間宮恵吾。良かったら明日から来てくれるかな」

 「は、はい!」

 「ようこそ、受験クラブへ!」

 「え、間宮会じゃないんですか?」

 

 間宮君が笑った。


 「それは他の人がそう呼んでいるだけでね。僕は来年受験で、この受験クラブはずっと続くよ」

 「あー、なるほど!」


 「明日、犬神さんに幾つかテストをさせてもらう。その結果で役割分担を決めるからね」

 「分かりましたー!」


 私はお邪魔したことを詫びて教室を出た。

 なんか仲良くなれたぞー!






 なんだろう。

 何か違う気もするんだけど。

 でも、一応潜入成功だよね?

 別にぶっ飛ばさなくてもいいよね?


 違うのかなー。

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