第2320話 石神家 ハイスクール仁義 Ⅸ

 タカさんの試合の後、私は理科実験室へ行った。

 「ノスフェラトウ」の溜まり場のはずだ。


 「たのもー!」


 ガラガラ


 「あれ?」


 誰もいなかった。

 照明も消えている。


 「なんだよー!」


 しょうがない。

 やることが無くなったので、ルーに合流した。

 屋上に行ったはずだ。


 私が向かうと、屋上の階段からルーが降りて来た。


 「ルー!」

 「ハー! どうしたの?」

 「うん、理科実験室に誰もいなかった」

 「そっか。屋上もいなかったよ」

 「「うーん」」


 ルーも空振りだったようだ。

 二人でブラブラすることにした。

 適当に捕まえて「ノスフェラトウ」と「髑髏連盟」について聞いてみよう。


 教室には誰も残ってなくて、一部の部活動をやってる生徒だけみたいだった。

 一般生徒はタカさんの試合を見て、もう帰ったのだろう。

 取り敢えず鞄を持って校庭に出た。

 ちょっと聞き込みをしたら、私たちももう帰ろう。


 広いグラウンドには誰もいなくて、校舎の横で女子生徒が一杯いたので行ってみた。


 「「こんにちはー」」

 「あら!」


 アーチェリー部のようだった。

 大きな弓を持って、的に向かって練習してた。

 みんなジャージに胸当てとかしてる。


 「あなたたち、猫神君の妹さんたちね?」

 「「はい!」」


 さっきのボクシングの試合の後でタカさんに話し掛けて来た人だ。

 マンロウ千鶴さんって言ってた。


 「どうしてここに来たの?」

 「なんとなく」

 「面白そうだったから」

 「そう!」


 マンロウさんは優しそうな美人だった。

 私とルーを近くに呼んで、アーチェリー部のことを説明してくれた。


 「この部はね、女子しかいないの」

 「そうなんですかー」

 「全校の大半の女子がここにいる。ここは危ない学校だからね」

 「へぇー」

 「アーチェリー部にいれば、誰も手を出さない。私が護るからね」

 「すごいね!」

 「いい人だね!」

 「そう?」


 マンロウさんが嬉しそうに笑った。

 波動を観れば分かる。

 この人は本当にいい人だ。


 「お兄さんは物凄く強い人よね?」

 「うん! 世界最強だよ!」

 「誰も敵わないよ!」

 「そう!」


 また嬉しそうに笑った。


 「でも、大分年上のような……」

 「ダメ! それ、物凄く気にしてるから!」

 「絶対に言っちゃダメだよ!」

 「わ、分かった」


 タカさん、無理すぎだよー!


 「でもまさか、あんなに一方的に榊に勝っちゃうなんて思わなかった」

 「「ワハハハハハハハ!」」

 「なんであなたたちが笑うの?」

 「「ワハハハハハハハ!」」

 「アハハハハハハ!」


 三人で笑った。


 「あなたたちもアーチェリー部に入る?」

 「うーん」

 「まあ、必要ないか。あんなに強いお兄さんがいるんだものね」

 「入ってもいいんだけどー」

 「なーに?」

 「でも無理か……」

 「え?」


 ルーと二人で言った。


 「みなさんのことは私たちが必ず護るね!」

 「安心してね!」

 「え!」


 部員の人たちが聞いていて、おかしそうに笑った。


 「ありがとうね。じゃあ、私もあなたたちのことを護るね」

 「「ありがとー!」」


 みんなが笑った。

 みんないい笑顔だった。

 マンロウさんがみんなを護っているのがよく分かった。


 「あのー」

 「なあに?」

 「「ノスフェラトウ」と「髑髏連盟」って知ってますかー?」

 「うん、うちの学校のグループだよね?」

 「どこにいますかー?」


 マンロウさんがちょっと困った顔をしていた。


 「ノスフェラトウ」はね、宗教団体創世の科学の下部組織なの」

 「「へぇー!」」


 びっくりした。

 日本最大の宗教団体で、海外でも幾つも拠点を持っている世界的な団体だ。

 キリスト教と仏教の融合を謡っている教義で、日本だけでも10万人を超える信者がいる。

 最大の教義は不老不死だった。

 その組織力で政界にも進んでおり、《創世党》として野党の一つになっている。

 もっとも、自由党の大躍進で、前回の選挙では一人も議員になれなかった。

 信者の中にも、自由党へ投票した人が大勢いるっていうことだね!


 「だから放課後に集まることもあるけど、大抵は《創世の科学》の拠点に行くみたいよ?」

 「そうなんだ!」


 「「ノスフェラトウ」に入りたいの?」

 「ちがうよー」

 「ちょっと聴きたいことがあるだけ」


 マンロウさんが微笑んだ。


 「バックに大きな組織があるから、あまり関わらない方がいいよ?」

 「「はーい!」」


 「そう。もう一つの「髑髏連盟」はあまりよく分かってないの」

 「へぇー」

 「誰が構成員なのか、部団連盟でも掴んでいないから」

 「そうなんですかー」

 「でも、何度か「髑髏連盟」のバイク集団が目撃されているの」

 「それって、どうして「髑髏連盟」って分かったんですか?」

 「改造バイクの集団でね。パトカーに止められたらしいの」

 「族車だぁー!」

 「みんな逃げたけど、一人だけ捕まえたのね。職務質問で「星蘭高校の「髑髏連盟」だ」って答えたらしいの」

 「ふーん」


 じゃあ、そいつを捕まえればいいじゃん。

 ルーも分かっていてうなずいた。


 「そいつは誰なんですか?」

 「秋本という一年生だった。もういないわ」

 「転校?」

 「殺されたの。突然戻って来た仲間の車に撥ねられてね」

 「「……」」


 とんでもない連中だ。

 人を殺すことに躊躇がない。


 「警察官二人も重傷。秋本は何度も轢かれたらしいよ」

 「そうなんですかー」


 話は終わった。

 私とルーは帰ろうとした。

 マンロウさんが呼び止めた。

 

 「お兄さんに伝えておいて」

 「なーに?」

 「明日の朝にまた部団連盟に呼び出されるわ。今度は剣道部の島津一剣。あいつは化け物よ」

 「大丈夫!」

 「タカさん、化け物退治が得意だから!」

 「え?」


 ルーに「お兄ちゃん」と言えと怒られた。


 「とにかくね。島津は何でも斬るの。本当に化け物。それに人も殺してる」

 「へぇー」

 「驚かないのね」

 「大丈夫だからー」

 「お兄ちゃん最強だからー」

 「そう!」


 笑って手を振って別れた。

 アーチェリー部の人たちも手を振ってくれた。


 



 「ルー、絶対にあの人たちを護ろうね」

 「うん!」


 いい人たちだった。

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