第2309話 青の帰還 Ⅴ

 6時半に、ローマ教皇たちと御堂たちが帰った。

 忙しい人間たちだ。

 7時には響子と六花、鷹も帰った。

 子どもたちが表を片付けて中へ入って来る。

 青が中を遠慮していた子どもたちに詫びる。


 「みんな悪かったね」

 「「「「いいえ!」」」」


 まあ、まったく遠慮していたというわけでもないのだが。

 子どもたちがテーブルを移動して繋げ、みんなでそこに座った。

 カスミが青に断って酒を出す。


 「お前がその気なら、夜はバーに出来るぞ」

 「ああ、考えてみようかな」

 

 酒は幾つか入れてある。

 カクテルも出来るように揃えていた。

 カスミがカクテルも一通り出来る。


 「喫茶店だけの売上じゃ厳しいもんな」

 「いや、お前が喰って行く分には十分だと思うぞ?」


 俺はうちの病院の人間が来ることを話した。

 表でテラス席が作れる話もした。


 「多分、ランチタイムは満席になるからな。ああ、行列も出来るだろうよ」

 「なんだと!」

 「だからカスミを入れたんだよ。お前だけじゃ手が回らないよ」

 「そうなのかよ!」


 青は驚いていた。


 「常連の人たちも来てくれるだろうからよ。ああ、カウンターは常連のために空けといてな」

 「あ、ああ、分かった」


 常連の和尚たちが喜んだ。


 「でもなぁ」

 「なんだよ?」

 「お前に早く借金を返したいしさ」

 「ああ!」


 俺はハーに言って、資産運用の推移の資料を青に渡した。

 青が気にしていたから用意していた。

 ハーが青に説明していく。


 「最初の1000万円を全部株に投資しました。ここです。半年で1億円を超えました。この売買記録を見て下さい。そこから……」

 「……」


 「一応80億円は現金化しました。この記録です。別に残りの10億はまだ運用中です。それはこちらで」

 「おい、赤虎!」

 「おう!」

 「お前、マジで80億円もあるのかよ!」

 「そう言っただろう?」

 「お前……」


 言葉を喪っていた。

 他の常連たちも固まっている。


 「だからよ、本当にお前の金なんだって。あ、ここの土地と建築で30億円使ったからな。あと50億円と運用中の10億円。あ、それももう増えてっぞ?」

 「……」


 青が俺を見て言った。


 「おい、もう運用はやめてくれ」

 「そう?」

 「頼む」

 「分かったよ。ああ、今は50億円の貯金だけどさ。手堅い株式にしておくな?」

 「どうしてだ?」

 「銀行預金って、保証の上限があんだよ。だから一定以上の金を持ってる人間は、大体株式とか金、債券にしてんの」

 「ああ、そうなのか」


 青も相当持っていたが、全部現金だった。

 隠しておく必要があったからだ。


 「50億の配当だと、大体毎年、最低でも3億円くらいはある」

 「!」


 「株価は変動するけどさ。売らないで持っておけばいいんだよ」

 「赤虎……」


 「ハー、そういうことで銀行株でも買っておいてくれ」

 「りょうかい!」

 「金相場は今高いから、下がってからな。債権も適当に」

 「はい!」


 「ということで」

 「赤虎!」


 みんなが驚いていたが、やがて笑った。


 「金なんてどうでもいいんだよ。お前は喫茶店をやってけばいいんだって」

 

 青がしばらく悩んでいたが、なんとか納得した。


 「分かったよ! 金はもう知らねぇ! まったくお前はよ!」

 「ワハハハハハハハ!」


 楽しく話していると、最年少の常連の式場涼ちゃんが言った。

 当時は女子高生で、今は有名私大に通っているそうだ。


 「マスター、良ければ私、ここでアルバイト出来ませんか?」

 「え?」


 青が驚いている。


 「前から夢だったんです。あの時はまだ受験生でしたので出来ませんでしたけど。今ならここで働けます」

 「いや、でもなぁ」

 

 「青、いいじゃねぇか。多分、カスミがいても結構忙しくなるぞ」

 「でも、バイト代を出せるほどになるかな」

 「絶対ぇ大丈夫」

 「おい、なんで言えんだよ!」

 「だからうちの病院のスタッフが来るって。万一足りなきゃ、うちの子どもたちに通わせる」

 「おお!」


 さっきまで、子どもたちの凄まじい喰いを青も観ている。


 「な!」

 「ああ、なんか安心したぜ」

 

 子どもたちが笑った。

 青も冗談半分だが。

 俺は思い出した。


 「柳! ちょっと調べてくれ」

 「はい! 何をですか?」

 

 俺はローマ教皇が言った、式典での青の話がどういうものだったのか調べて欲しいと言った。

 柳がすぐに検索する。


 「あ、ありました!」

 

 英訳されたネットの記事の概要を柳が読み上げる。


 「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」


 全員が驚いた。

 ローマ教皇が新たな枢機卿の叙任式で語った言葉のようだった。

 その式典で、本当に青の話が語られ、「愛の最も美しい話」とまで絶賛していた。

 そしてその言葉がEUやアメリカなどの世界中のキリスト教会に紹介され、物凄い話題になっていた。


 「近くセイジ・サイバ氏は日本へ戻り、またアキホさんとの思い出の喫茶店を再開するそうです」


 そうとまで語っていた。


 「青!」

 「赤虎!」

 「どうなんだ、これ!」

 「分からねぇよ!」

 「とんでもねぇことになるかもしれんぞ!」

 「やめてくれよ!」

 「俺、知らねぇ」

 「おい!」


 なんかヤバい気がする。

 亜紀ちゃんが叫んだ。

 亜紀ちゃんも別途検索していた。


 「バチカン・ニュース!」

 「なんだ!」

 「ローマ教皇庁の!」

 「話せ!」


 亜紀ちゃんが、たった今ローマ教皇庁のバチカン・ニュースが、先ほどのローマ教皇が青の店に訪問したことを報じていた。

 温かな店内で青の帰国を祝うパーティがあり、日本の御堂総理始め、青を慕う人間が集まっていたことが書かれている。


 「住所も乗ってます!」

 「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」


 どうする!


 「青、終わったな」

 「!」

 「さあ、そろそろ俺らは帰るかなー」

 「待て! 赤虎!」

 「お、俺のせいじゃねぇもん!」

 「そんなこと言うな!」

 

 「涼ちゃん、青を宜しくな!」

 「は、はい!」

 「赤虎!」


 青が俺の肩を掴んで放さなかった。


 「俺もさ」

 「なんだ!」

 「前にネットで「フェラーリ・ダンディ」とかで騒がれてさ」

 「おう!」

 「困っちゃった」

 「おい!」


 青がこの店を出て行くと言うのでみんなで止めた。


 「クリスチャン禁止とか書く?」

 「暴動になるだろう!」

 「あ! 和尚の寺の本尊をここに置きましょうよ!」

 「ふざけんな、トラぁ!」


 「と、とにかくさ。開店までに考えておこう」

 





 何とかその場は終えたが。

 でもまあ、青の店が繁盛するのは喜ばしい。

 なんとかなるだろう。

 

 知らねぇが。

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