第2304話 ガンスリンガー Ⅷ

 5月第三週の金曜日。

 夕べ聖とアメリカの「ガンスリンガー」をぶっ殺して来た。

 そして子どもたちと話し合った。

 すぐに話したかったのだが、亜紀ちゃんが泣いて俺に頼んできた。


 「これから『虎は孤高に』があるんですぅー!」

 「……」


 その後になった。

 なんなんだ。






 リヴィングに集まり、子どもたちに「ガンドッグ」と「ガンスリンガー」のことを話した。


 「まあ、銃技での石神家本家ということだな」

 「「なるほどー!」」


 双子には理解が早い。


 「それを極めた連中ということだ。だから通常の銃技では出来ないことが出来る」

 「弾丸の軌道を変えることだよね!」

 

 俺が笑ってハーの頭を撫でる。


 「それだけじゃねぇ。何よりも驚異的なのは洞察力だ。どこに弾を撃てばどうなる、ということが分かっている。だから回避しようとする動きが誘導されて次の致命傷となる」

 

 子どもたちの顔が真剣になる。

 こちらの動きが読まれ、知らない間に導かれてしまうということだ。

 武道の達人は同じことが出来る。

 それはうちの子どもたちも理解している。

 斬や聖や俺の動きを見ているので、フェイントばかりでなくそれ以上の洞察力で動く、動かすことの恐ろしさを実感している。

 「アドヴェロス」の鏑木は、それを銃で行なう。

 先日の《デモノイド》との戦闘記録は全員が見ている。

 鏑木の狙撃で相手の「機」を潰す驚異的な技をみんな理解していた。

 「ガンスリンガー」は、それ以上のことをやるのだ。


 「その未来位置に弾を導けばやられる。最初にルーとハーがやられたのは、そういうことだ」

 「腿を撃たれたのも」

 「そうだ。動きを止めるためだな。まあ、お前らはぴょんぴょん逃げたけどな」

 「「ワハハハハハハハ!」」


 俺はアリゾナ州の砂漠で聖が5人の「ガンスリンガー」に襲われた話をした。


 「聖はどうやったの?」

 「高速機動で飛んだ。敵の一人を捕えてな」

 「そっか」


 双子が落ち込み、亜紀ちゃんも柳も暗い顔をしている。

 先日無人島での「カタ研」のキャンプで失態を犯し、今回も双子が敵にいいようにあしらわれた。

 どちらも死にはしなかったものの、何もいい所はない。

 それに比べ、聖は5人もの「ガンスリンガー」を相手に、一人を捕えて来た。

 圧倒的な差だ。


 俺はアメリカで聖と一緒に「ガンスリンガー」3人を撃破し、女の「ガンスリンガー」を逃がしたことを話した。


 「え、逃がしちゃったの!」

 「そうだ」

 「どうして!」


 「敵に俺たちと敵対するなということを示した。敵対するのならば、お前らを壊滅させるということだな」

 「「「「!」」」」


 子どもたちが驚いている。

 こいつらは最初から敵の殲滅を考えていた。


 「まあ、暗殺者の集団だけどな。でも、凄腕だ。だからもしかすると今後使えるかもしれない」

 「そんな連中をですか!」

 

 柳が言う。


 「そうだ。いいか、戦いに善悪はねぇ。敵か味方かということだけだ。あいつらは強い。だったら一緒に戦えるかもしれない」

 

 柳は納得できない顔をしているが、とりあえず黙った。


 「俺たちは仲良しごっこをしているんじゃねぇ。善人が集まって一緒にやるんじゃねぇんだ。大悪人だろうとド変態だろうとなんだろうと、「業」と戦うのならば味方だ。俺たちに敵対せずに一緒の敵と戦うのならばな」


 また柳が叫ぶ。

 双子と俺を襲ったことがどうしても許せないのだ。


 「でも、バイオノイドと一緒に向かって来たんですよ!」

 「それは今は味方ではないということだ。でも、今後は分からん。あいつらにとってはどんなことでも「仕事」でしかないからな。本当の敵ではない」

 「そんな!」


 双子が言う。


 「柳ちゃん、気持ちは分かるけどね。でも、タカさんの言う通りだよ」

 「味方に付ければ、頼もしい連中かもしれないよ?」


 「でも! お金で動く人たちなんでしょう? そんなの信用出来ないよ!」

 

 柳は純粋だ。

 だからまだ汚い戦いは出来ない。


 「金で転ぶ連中じゃない。もしもそうであれば、あいつらはとっくに全滅している。仕事として引き受け、それを達成して来たことがあいつらの信用なんだ。どんな商売でも、信用を喪えば二度と使われない」


 柳が俺を見ている。


 「今は「業」の仕事を受けている。だから今日本にいる「ガンスリンガー」は殺す。しかし本体の「ガンドッグ」は別だ。今後の交渉で俺たちに付くかもしれない」

 「分かりました」


 柳もやっと認めた。


 「よし! じゃあ、ルー、ハー」

 「「はい!」」

 

 「散歩に出て来い」

 「「はい!」」


 「タカさん! 私も一緒に!」

 「石神さん! 私も!」


 亜紀ちゃんと柳も行きたがる。


 「いや、必要ねぇ。お前らで十分だろ?」

 「「うん!」」


 双子がニコニコしていた。






 ルーとハーが出て行った。

 マイクロビキニだった。


 「私たちの散歩着だからね!」

 「行ってくるね!」


 まあ、いいが。


 気配感知は出来る。

 先日やられたのは、敵の意表を衝いた攻撃だったからだ。

 敵の能力はある程度分かった。

 ならば、もう二人が負けるわけはない。

 

 




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 「なんかいるね」

 「そーだね」


 外に出てすぐに、気配が分かった。

 

 「あっちだね」

 「うん」


 二人で気配の方向に歩いて行った。

 

 「他にはいないね」

 「一人だね」


 「「!」」


 いきなり来た。

 ハーと一緒に高速機動に入る。

 銃弾が身体に近い場所を通過していく。


 「もう高速機動を読んでるね」

 「でも、どれだけ速いのかはまだ分かってないね」


 その時、視界の隅を黒い影が通過した。


 「「あ!」」


 亜紀ちゃんだ。

 離れた場所にいる「ガンスリンガー」の前に降り立つ。

 

 「フン!」


 右のブローを撃ち出した。

 「ガンスリンガー」は亜紀ちゃんに向かって何発も撃つ。

 亜紀ちゃんの右手が顔面の寸前で止まった。

 銃弾は亜紀ちゃんの身体の周囲で粉末になって消えた。

 「螺旋花」を纏っているのだ。

 まだ亜紀ちゃんにしか出来ない超絶技だった。

 他にはタカさんとか聖、斬さんくらい。


 「ガンスリンガー」の顔面が大きく波打ち、後ろに倒れた。


 「ちょっと挨拶に来た! お前を殺すのはあたしじゃない」


 亜紀ちゃんが飛び去った。


 「亜紀ちゃんめー」

 「やりたかったんだろうね」


 私とハーは起き上がった「ガンスリンガー」に迫った。

 

 「ハー! やるよ!」

 「おう!」


 《ウンコ7分身》


 「ガンスリンガー」が目を丸くして驚いている。

 しかし、すぐにスーパーブラックホークを構えて撃った。

 ウンコを乗っけていない的に。


 「「ギャハハハハハハハ!」」


 二人でぶっ飛ばした。

 

 




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 双子が「散歩」から帰って来た。

 背の高い男を引きずっている。

 二人は素っ裸だ。

 マイクロビキニなんて、高速機動に耐えるはずもない。

 最初からそのつもりだったのだろうが。

 裸族め。


 「なんだ、殺さなかったのか?」

 「うん、なんか石神家と似てるとかって聞いたらね」

 「まー、こいつなんか相手にならないしね」

 「そうかよ」


 撃たれたくせに。

 まあ、いい。






 日本に来ていた「ガンスリンガー」は、アメリカの司法に引き渡した。

 向こうのマスコミが「ガンスリンガー」と「ガンドッグ」のことを報道し、驚異的な銃技の暗殺者集団であることを発表した。

 これで奴らも対応しなければならない。

 まだ本部の場所や組織の詳細は何も分かっていない。

 ジャンニーニが掴んだ弾薬工場も、既に無くなっていた。


 しかし、もう「ガンドッグ」を使う連中も躊躇するはずだ。

 誰も知らない組織であったからこそ、依頼もあった。

 もちろん、それでも連中を使いたい人間はいるだろうが。


 今後、「ガンドッグ」がどういう対応をするのかは分からない。

 一つだけ言えるのは、もう「虎」の軍に敵対することはないだろうということだ。


 出来れば俺たちの戦線に加わって欲しいのだが。

 それはまだ分からない。

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