第2303話 ガンスリンガー Ⅶ
タマは「ガンドッグ」について話した。
「幼い頃から徹底的に仕込まれるようだな。毎日10時間は訓練をする」
「石神家だな!」
「あ、それ、俺も思った!」
聖が嬉しそうに言う。
「銃の扱いについてと、特殊な運動。指先を中心に、全身の様々な筋肉を鍛える」
「なるほど」
「神経の感覚についてもやるようだ。何か薬を使っているな」
「へぇー」
拳銃が中心だが、ライフルもやるし迫撃砲や携帯ミサイルなどの訓練もしている。
「才能の無い奴は殺される」
「そうか」
タマに女に尋問できるようにさせた。
女が虚ろな目になる。
「「ガンドッグ」の拠点はどこだ?」
「知らない」
「なんだと?」
「我々は一人ずつが場所を用意されている。時々何人かで集まって訓練や仕事もするが、普段は一人だ。指示があれば出掛ける」
「お前が育った場所は?」
「分からない。今の場所に運ばれただけだ」
「お前は組織から逃げないのか?」
「それは出来ない。定期的に届く薬を飲まなければ、数週間で死ぬ」
「なんだ、それは?」
「身体の中に特殊な菌がいる。それを抑える薬だ」
そういうことか。
「「ガンスリンガー」がお前の他に何人いるか分かるか?」
「知らない。だが、数十人だろう」
「どうしてそう言えるんだ?」
「私が育った施設で、「ガンスリンガー」になれたのは私一人だ。最初は50人近くいた。それ以前や以降にも、その程度だろう。15年間に一人。他の施設があったとしても、せいぜいが数十人だろうよ」
「なるほどな」
頭の悪い女ではない。
「今、日本へ行っている奴を知っているか?」
「分からない」
「指令はどのように来るんだ?」
「一日に一度、あるサイトにアクセスする。そこであるテーブルを見て、自分の名前があれば……」
全て電子メールで送られるようだ。
それはサーバー内でのことであり、サイトもメールアドレスも定期的に変わる。
実に防御の硬い組織だった。
「お前の名前は?」
「リリー。ただ、これも3つ目だ」
「お前はこれまで幾つの仕事をこなした?」
「8回」
「どんな仕事だ?」
リリーは最初から話した。
詳しく言えと命じれば、詳細も話す。
俺が驚いたのは、銃乱射事件に見せかけての暗殺だった。
「サイキックがいた」
「なんだ?」
「幼い少女だ。その子どもを殺すことが仕事だった。薬物中毒の人間を暴れさせ、私がその少女を陰で殺した。身の細い男が覆いかぶさっていたが、その男の身体を貫通させ、心臓を破壊した」
「まさか、テキサスのショッピングモールか!」
「そうだ」
リリーは感情も無いままに応えていく。
「トラ、何か知っているのか?」
「ジョナサンだ! あいつは小さな女の子に覆いかぶさって守ろうとした!」
「あいつか」
聖もジョナサンは知っている。
リリーの話から、状況的に間違いなくジョナサンの関わった事件だろう。
もしかしたらジョナサンのPK能力は、そのサイキックの少女と関わっているのかもしれない。
だが、今はそのことは後だ。
リリーは他にも全ての「仕事」を話した。
俺たちの知らないものばかりだが、「ガンスリンガー」は方々で活動しているようだ。
国内も海外での活動もある。
狙撃の場合もあれば、拳銃での暗殺もある。
銃の腕前はもちろんだが、逃走方法も優れていた。
警察もFBIも、「ガンスリンガー」の犯行だとはなかなか判断しないだろう。
何よりも、その組織が徹底して隠されているのだ。
銃弾の軌道を曲げる方法についても聞いたが、俺たちには上手く伝わらなかった。
多分に感覚的なものがあるようで、言語化出来ない。
「お前は余裕があったが、ここから逃げ出す方法があるのか?」
「仲間が来る。お前たちは皆殺しだ」
「どうやってここに来る?」
リリーがニヤリと笑った。
「トレーサーが埋め込んである。拉致された場合、必ず助けが来る」
「自決用の毒はいつ使うんだ?」
「仲間が来ない場合、また私の救出が困難な場合」
「これまでも仲間が助けに来たことがあるのか?」
「私が行った。二人の仲間とだ。中国国内の軍事施設だった。全て破壊し皆殺しにして救出した」
中国の状況までは俺たちには分からない。
恐らくは仲間の救出と言うよりも、「ガンスリンガー」や「ガンドッグ」の詳細が漏れないような措置なのだろう。
それに、裏切りや攻撃を許さないという攻性の組織の方針だ。
一体どんな人間たちが「ガンドッグ」を稼働させているのか。
リリーから聞くことも無くなったので、俺がタマに言って元に戻させた。
「おい、ウンコ女。全部終わったぞ」
「なに?」
俺たちは録音した一部をリリーに聞かせた。
「!」
その時、プレッシャーを感じた。
「おい、随分と早いな」
「こいつ、ウンコ臭ぇからな」
セイフハウスの窓からミサイルが飛び込んで来る。
容赦ない初撃だ。
「おい! 街中でヤルつもりだぞ!」
「おう!」
聖が「散華」でミサイルを破壊する。
俺はリリーを抱えて別な窓から飛び出す。
聖も追ってくる。
3人の「ガンスリンガー」が路上に点在していた。
俺はビルの前にリリーを置いて走る。
俺に向かって無数の弾丸が向かってくる。
様々な方向から弾丸が来る。
俺は高速機動で一人にとりつき、「螺旋花」で粉砕した。
続けてもう一人に向かう。
スーパーブラックホークの弾丸は俺の未来位置を予測して来るのは分かっている。
だから俺と「ガンスリンガー」との読み合いの勝負だ。
しかし、実際には人間相手にしか想定して来なかった「ガンスリンガー」とは最初から差が開いている。
俺と聖が人間の兵士であれば、こいつらには勝てなかっただろう。
そして俺たちも、相手が人間と考えていればやられていただろう。
俺は難なくもう一人の「ガンスリンガー」を斃し、聖も一人を撃ち殺していた。
強力な妖魔相手に戦うつもりで撃破した。
リリーが俺たちを驚愕の眼で見ていた。
まさか3人ものガンスリンガーが来て、俺たちを殺せないとは思っていなかったに違いない。
実際には違うが、判断はよく分かる。
「こいつ、どうする?」
「二穴やるか!」
「ウンコ穴はトラな」
「げぇ」
聖にリリーの拘束を解かせた。
リリーが驚いている。
「じゃあ、終わりだ」
「!」
「迎えに来た奴に言っとけ。これ以上ヤルつもりなら、「ガンドッグ」を壊滅する」
「トラ、それでいいのか?」
聖が不安そうに言った。
まあ、演技だ。
俺たちは既にガンスリンガー相手の攻略法を学んでいた。
「いいさ。こいつらも俺たちを敵に回していいことなんかねぇことは分かっただろうよ」
「そっか」
「ああ、日本にいる奴。あいつはこれから俺たちで始末するからな。それも伝えろ」
「……」
リリーは黙って俺たちを見ていた。
俺と聖はそのまま歩き出した。
少し歩いて振り返ると、既にリリーの姿は無かった。
「あいつ、素っ裸だったよなぁ」
「なんとかすんだろ」
多分、3人の「ガンスリンガー」の回収部隊がいたはずだ。
そいつらがリリーを連れて行っただろう。
リリーがこれからどうなるのかは分からん。
「聖、じゃあ俺は帰るな」
「もうかよ」
「また来るよ。今回も世話になった」
「いいって」
世の中にはまたくとんでもない連中がいる。
石神家もそうだが、一つのことで傑出した能力を持つような連中。
まあ、ピアニストやアスリートと同じだが、その濃度が違う。
俺は日本へ戻った。
さて、ルーとハーを襲った奴はどう始末するか。
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