第2302話 ガンスリンガー Ⅵ
リンダと名乗った女を抱え、ギリギリのタイミングで逃げた。
空中に上がった俺を、4人の「ガンスリンガー」が狙って撃って来た。
俺はすぐに高速で飛び去ったので当たることも無かったが、少しでももたついていればやられただろう。
トラの話を聞いていなければ危なかった。
人間のガンマンの域じゃない。
女を抱えていたので、時速300キロくらいで飛行していた。
それでも生身の人間には辛い速度だ。
しかし、俺はトラからトラを襲った「ガンスリンガー」が亜音速の無人機に掴まって逃げた話を聞いていた。
だから、この女も耐えるだろうと考えた。
実際、女は意識をしっかり保っている。
「おい、身体は辛くねぇか?」
女はスーパーブラックホークを俺に取り上げられ、俺の手足で完全に拘束されている。
「フン、私たちは高速で飛翔する銃弾を操るのよ? こんな生ぬるい速度なんて」
「そうか! 良かった!」
「え?」
俺は喜んだ。
そうか、こいつ大丈夫なのか!
「俺、早く帰りたかったんだよ!」
「なによ?」
「じゃー飛ばすかんな!」
「え、ちょっと……」
マッハ3で飛行する。
俺は最初から「Ωコンバットスーツ」を着ているので大丈夫だが、女の衣服は全部千切れ飛んだ。
「おい、大丈夫か?」
「……」
女がグッタリしている。
そのうち、尻と前から漏らしやがった。
「おい!」
俺は速度を落とし、一度地上へ降りた。
ケンタッキー州のレキシントン南方の森林だ。
確認すると女の心臓が止まっていた。
「お前! 大丈夫だって言っただろう!」
仕方なく蘇生措置をする。
心臓マッサージをして、口で肺に酸素を送った。
10分程で女が意識を取り戻した。
酷く咳き込んで俺を睨む。
「おま、え……ゴホッゴホゴホゴホ!」
「口ほどにもねぇ。無駄な時間を使ったぜ! ウンコ女!」
女は自分が漏らしたことを自覚した。
俺を物凄い顔で睨む。
俺はまた女を後ろから抱きかかえ、空中へ飛んだ。
今度は時速600キロ程度で飛ぶ。
「辛かったら言え」
「……」
答えないので、女の後頭部に噛みついた。
「イタイ!」
「返事しろ! ブス!」
「分かったわよ!」
30分後、セイフハウスの一つの屋上に降り立った。
5階建ての小さなビルの一室に入り、女の身体検査をした上で椅子に拘束した。
トラに連絡した。
「トラ、「ガンスリンガー」の女を一人捕まえて来た」
「そうなのか!」
俺はトラに、先ほどの状況を話した。
「待ち合わせ場所には5人の「ガンスリンガー」がいたよ」
「全員そうだったのか?」
「ああ。みんなスーパーブラックホークを持ってた。腕前もお前を襲った奴と同じくらいだろう」
トラに状況を説明した。
「武装解除されそうになって、女が俺の「散華」に触ったんだ」
「ほう」
「すぐに気付かれた。女が「崋山だ」と叫んだ。だから咄嗟に女を抱えて逃げた」
「おい!」
トラも驚いていた。
トラも敵が「崋山」の銃を知っているとは思わなかった。
「ホルスターから抜こうとして分かったんだな」
「主以外には持ち上がらないからな」
そのことで、俺の銃が「崋山」製の特別なものだと判断した。
どうしてそのことを知っているのか。
トラが言った。
「銃に関しては恐ろしいほどのものがあるな」
「ああ」
「お前、これからどうする?」
「女を尋問するよ」
トラが一瞬の間を空けて言った。
「いや、待て。その連中は意識の方も相当やってるぞ。俺が行ってタマを呼ぶ」
「あいつか!」
「タマに探らせた方がいいだろう」
「あいつ、苦手なんだよなー」
トラが笑っていた。
「我慢しろ。じゃあ、すぐに行くからな」
「分かったよ」
まあ、どんな状況でもトラに会えるのは嬉しい。
俺はトラを待った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
聖が「ガンスリンガー」の女を捕えたと聞いて、すぐに飛んだ。
セイフハウスの場所は聞いた。
俺が行くと、女の前で聖が待っていた。
「よう!」
「ごくろうさん!」
聖が嬉しそうな顔をする。
女は全裸だった。
「飛行」で衣服が無くなったことはすぐに分かった。
着せてやるほど、聖は優しくねぇ。
無駄なことはしない奴だ。
「気持ち悪い奴だな」
「そうだな」
50ミリほどの短髪。
浅黒い肌は、黒人の混血か。
身長は175センチほどで痩せていて手足が長い。
30代の後半に見えるが、顔は老成している感じもある。
何よりも雰囲気が違う。
恐ろしく深い奴だ。
この状況をまったく恐れてもいなかった。
「お前は誰だ」
女が俺に聞く。
「俺の顔を知らないのか」
「知らない。有名なのか?」
「大統領よりもな」
「なんだ?」
聖が話す。
「こいつ、ウンコと小便を漏らしやがってよ」
「マジか!」
「自分は高速に慣れてるって言うからさ。マッハで飛んだらもう」
「ダッセぇー!」
「な!」
女が物凄い顔で睨む。
普通に感情はあるようだ。
俺は女を観察した。
「掌が硬いな。相当撃ってるな」
「ああ。銃も調べたよ。バレルが微妙に歪んでいるようだ」
「あの長いバレルは、技を施すのに都合がいいんだろう」
「そうだな」
女は手足にでかい拘束の金具を嵌められ、椅子に縛られている。
女の腕に触れた。
「なるほど、鍛え上げた筋肉だな」
「パワーもあるが、細かな筋肉がよく発達している」
「自決の措置は?」
「ああ、歯に仕込んであった。ちょっと前に抜いたよ」
「そうか」
流石は聖だ。
これほどの組織が、自決用の毒などを用意していないわけがない。
俺が来る前に、手早く調べてくれたのだろう。
だが女は余裕があった。
ここから生還出来るつもりだ。
タマを呼んだ。
「タマ!」
「なんだ、主」
突然俺の横に現われた着物姿のタマを見て、女が初めて驚愕した。
「お前はなんなんだ!」
「ゲゲゲの鬼太郎だ」
「げげげ?」
流石に日本のギャグは通じない。
「タマ、こいつの記憶を探れ。「ガンドッグ」についてと、銃を使った不思議な技のことだ」
「分かった」
タマが話し始めた。
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