第2300話 ガンスリンガー Ⅳ
トラに頼まれて、俺は「ガンドッグ」のことを調べ始めた。
「付き合い」のある連中に情報を頼んだ。
CIA、NSA、FBI、傭兵業界の連中、情報屋たち、それにジャンニーニだ。
恐らく幾つかの組織は「ガンドッグ」に依頼をしたこともあるだろう。
表の人間には漏らさないが、俺にならば話してくれることもあると思う。
但し、俺もこの稼業は長いが「ガンドッグ」のことは聞いたことが無かった。
相当な秘密保持をしている組織だとは思う。
CIAやNSA、FBIには「ハーマン狙撃事件」のことを改めて洗ってもらい、同時に「ガンドッグ」についての情報を求めた。
情報屋たちは、まったく耳にしたことも無かった。
最も情報を握っていたのは俺とトラとで潰したロレンツォ・ファミリーだったが、もう全員くたばってやがる。
しょうがねーじゃん。
ジャンニーニには、特に物流の流れを追ってもらった。
あいつの得意分野だ。
火薬の材料の流れだ。
「ガンドッグ」は多分、とんでもない量の弾丸を消費する。
だから弾丸は購入するのではなく、自分たちでリローディングしているはずだ。
それに、もしかしたら特殊な配合をしている可能性もある。
そして、情報が集まって来た。
裏社会の中でも、「ガンドッグ」は特殊な連中のようだった。
暗殺組織はどこも単純には辿れないようになっているが、「ガンドッグ」はその中でも異常に見えない組織だった。
接触は一部の人間しか知らず、マフィアの一部がそれを担っていた。
俺とトラが潰したロレンツォ・ファミリーが潰れたので、その後別なファミリーが窓口になったようだ。
ジャンニーニがそれに選ばれなかったのは、マリアを救うために他のファミリーを潰したためだ。
つまり、ファミリーの仁義よりも強い何かを持っている男として、契約を絶対に重視する「ガンドッグ」が敬遠した。
それに、俺とトラのことだ。
別なファミリーを潰すのを、俺とトラがジャンニーニに替わってやった。
俺たちにかかれば、マフィアの連中などなんのこともない。
それなりに武闘派のファミリーと評判だったが、わけもなく潰した。
数千人もの戦闘員も、俺たちが一方的に殺した。
そのことが「ガンドッグ」の連中を遠ざけた。
俺とトラを恐れたわけではないのかもしれないが、ぶつかりたくはないと思われたのだろう。
だからジャンニーニのファミリーは「ガンドッグ」の窓口にはならなかった。
外の連中はそれを知らない。
だから、以前のファミリーを潰し呑み込んだジャンニーニに「ガンドッグ」との繋ぎを今回頼んできたということだ。
それが俺の耳に入った。
「虎」の軍と敵対する連中だ。
ジャンニーニが「虎」の軍と繋がっていることは知られていない。
ジャンニーニが火薬の原料であるニトロセルロースの流れを追った。
多くは通常の銃弾を作る工場だったが、一部で異常に多い取引先を発見した。
もちろん「ガンドッグ」に直接は繋がっていなかったが、そこからの流れをたどって、ついにジャンニーニが突き止めた。
NSAやCIAはその存在は知っていたが、「仕事」の依頼法も知らなかった。
恐らく、「ガンドッグ」の恐ろしさを知れば、必ず国家として潰しにかかるか自分たちの管理下に置こうとされる。
だから「ガンドッグ」は国との取引はしなかった。
いい判断だ。
今回「ハーマン狙撃事件」を改めて洗い直し、背後で事件を操っていた連中を見つけた。
既に「反「虎」同盟」に関わる連中で粛清されている人間も多かった。
まあ、予想していたことだが。
今回動いたのは、その「反「虎」同盟」であることは分かっていた。
生き残った連中の一人をNSAが捕まえ、「ガンドッグ」のことが少し分かった。
そこから現在の窓口となっているマフィアのファミリーが判明した。
イタリア系ではなかった。
中国の三合会系の組織だった。
同時にジャンニーニは「ガンドッグ」の拠点がテキサス州にあることを突き止めていた。
ある工事用爆発物の工場に偽装していた。
ニトロセルロースを仕入れてもおかしくはない。
しかし、その量がどうにも多すぎだ。
俺はその工場に当たる前に、三合会に連絡し、「ガンドッグ」に接触を試みた。
「ブラドールPMCのコスタという者だ」
「ブラドールPMC」というのは、俺が時々使うダミーの会社だ。
ヤバそうな依頼の場合、そこを紹介する態で背後関係を洗ったりもする。
傭兵派遣会社として実際に活動しているが、小規模なものだ。
会社組織として一応は体裁は整っている。
「何の用だ?」
「「ガンドッグ」に仕事を依頼したい」
「そんな連中は知らない」
「いいから繋ぎを付けてくれ。連絡先は今お前に話している番号だ」
「なんなんだ、お前は?」
「本当に頼みたいんだよ。今回が初めてだが、「ガンドッグ」の仕事はよく分かってる」
「なんのことか分からないな」
「じゃあな」
俺は電話を切った。
相手はこちらのことを調べてから連絡を寄越すだろう。
今は証拠を残さないために、一切をとぼけている。
それでいい。
リンダという女から連絡が入ったのは、一週間後だった。
「ブラドールPMC」を一応洗ったのだろう。
俺が先日使ったスマホに来た。
「あなたはコスタ?」
「そうだ。俺が待っていた相手か?」
「そうよ。どんな依頼なの?」
「電話では話せない」
「そう。どこへ行けばいい?」
「セイフハウスがある。ニューヨークだ」
「遠いわね。そこまでは行けないわ」
「なら俺が行く。そっちの場所は?」
リンダという女がアリゾナ州の住所を告げた。
ジャンニーニが掴んだ工場の場所はテキサスだったが、接触場所は違った。
流石にすぐに直接の交渉は出来ないようだった。
俺は翌日に行くと伝え、すぐに飛行機の手配をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます