第2299話 ガンスリンガー Ⅲ

 中野の警察病院に着き、受付に聞いてすぐに病室へ向かった。

 早乙女が待っており、既にオペを終えた二人がベッドに眠っていた。

 麻酔が入っているが、安らかな寝顔だ。

 オペが完璧だったことを示している。


 「石神」

 「ああ、世話になった」

 「いや、俺も驚いたよ」

 「そうだな。もう俺たちは通常兵器ではやられることは無いと思っていたからな」


 摘出した弾頭は拳銃弾のものだった。

 44口径。

 今は9ミリ弾が多いので、随分と珍しい。

 それでも数多くあるが、最近のものであれば、結構絞られる。

 

 1時間ほどして、二人が麻酔から覚めた。

 同時に目を覚ますのだから、この二人の絆は微笑ましい。

 早乙女は先に帰している。


 「よう、やられたな」

 「「タカさん!」」


 二人が微笑んだ。

 二人が一気に俺に話し出す。

 長い金髪の背の高い痩せた外人で、手足が異常に長い。

 顔は面長で無表情だったと。

 裾の長い深緑のジャケットに、下はグレーのパンツを履いていたとのことだ。

 そして二人が感知出来ないスピードで、バカみたいにバレルの長いリボルバーを抜いて数発撃った。


 「本当に見えなかったの!」

 「銃弾の軌道は分かってたの! ちゃんと避けたのよ?」

 「でも喰らってた!」

 「分かんないよ!」


 言っていることは分かる。

 いつものように銃口の向きとプレッシャーで銃弾を避けた。

 しかし喰らってしまった。


 「銃はリボルバーだった! しかも物凄く長いバレル。12インチかな」

 「弾倉は殆ど滑らか。今時リボルバーなんて信じられない!」


 確かにそうだ。

 弾丸の数は多い方がいいのだから、多くの弾が備えられるオートマチックの方が断然主流だ。

 しかもリボルバーは構造上どうしても重くなる。

 弾倉となるシリンダーが大きくなるせいだ。

 44マグナム強装弾を使うのであれば一層だ。

 反動も、オートマチックに比べて逃がし難い。

 ショートリコイルの機構が組めないためだ。

 

 更に、形状を聞いていると恐らくルガーのスーパーブラックホークだ。

 あれはシングルアクションで、毎回撃鉄を上げる必要がある。

 幾ら何でも旧式過ぎる。


 

 二人は更に、路地の入口で決着をつけるつもりが思いもよらない高さから攻撃されたと言った。


 「移動の気配も無かったの!」

 「まさか姿も銃口も見せないで上から撃たれるなんて!」


 ルーもハーも、俺や聖ほどではなくても戦場を経験している。

 戦いの空気はある程度は読めるはずだ。

 ベテランの兵士以上にだ。

 要するに、敵はもっと戦いを経験しているプロということだ。

 聖が弾道を変えられるのだと言っていたが、俺はそれも脅威ではないと思い上がっていた。


 「早乙女が近辺の監視カメラの映像を探している。詳しい特徴が分かるだろう」

 

 二人が気になることを言った。


 「波動がね、ちょっとヘンだったの」

 「凄く静かだったのね」

 「戦闘をしているのに、あんな人がいるのかな」

 「まるで死人みたい。あ、もちろん生きてるんだけどね」


 俺は心に留めておくべきことと思った。

 二人は「Ω」と「オロチ」は呑んでいるようだったので、そのまま連れ帰るつもりだった。

 もう傷口は塞がっている。

 病院にも、早乙女から上手く話してもらっているので、退院は問題ない。


 「え、ご飯は?」

 「家で食えよ」

 「病院でも食べたいよ」

 「あ?」


 滅多に食べられない病院食を食べてみたいらしい。

 そういうものか。


 俺がナースセンターに夕飯の用意があるかを確認すると、無いということだった。


 「胸部と腹部の銃創でしたので、今日はお食事は無理かと」

 「だよね」


 二人に無いと言うと、即刻帰ると言われた。


 「「早くかえろー!」」

 「おう」

 





 病院の外に出ると、俺は異常なプレッシャーを感じた。

 ヤバい奴だ。

 戦場でも強い奴は幾らでもいる。

 しかし、本当に強い奴はプレッシャーが違う。

 人の形ではなく、世界の形で迫って来る。

 今いる奴も、そういう奴だった。


 「おい、早速また来たようだぞ」

 「「!」」


 双子も捉えたようだ。

 俺は二人に中へ戻るように言った。


 正門だ。


 俺は走りながら相手の気配を探った。

 まだ塀の向こう側にいる。

 しかし、そのまますぐに撃って来た。

 姿がまだ見えないうちにだ。


 2メートルの外壁を超えて、銃弾が俺に向かってくる。

 銃口は見えなかった。

 本来は見えないということは、弾は俺たちに届かないということだ。

 しかし、プレッシャーは俺に撃ち込まれると告げていた。


 (曲射か! 弾道が変わる!)


 俺は瞬時に移動し、射撃地点に飛んだ。

 姿が見えた。

 背の高い男で、ルガー・スーパーブラックホークの12インチバレルを両手に持っている。

 スーパーブラックホークは通常7.5インチのバレルなので、特別なモデルか。

 しかし、どうしてあんなに使いづらいバカげた長さにしているのか。


 男が俺に連射した。

 計10発。

 残弾を一瞬で撃って来た。

 シングルアクションの銃であり、毎回コックを起こさなければならないはずだ。

 その動きが俺にも見えなかった。

 しかし、ダブルアクションに改造しているわけではないことも分かった。

 見えない動作でコックを起こし、トリガーを引いている。

 驚異的な奴だ。


 俺は高速機動で避け、更に男は12発を撃って来た。


 「!」


 まったくもってあり得ない。

 リボルバーはシリンダーの薬莢を輩出し、6個の弾倉に弾を詰め替えなければならない。

 スピードローダーを使ったとしても、無理な時間だった。

 しかし実際に弾は俺に向かって来ている。

 高速機動の位置も予測されて。

 魔法使いのような敵だった。

 俺は迫りくる弾丸を回避することで精いっぱいだった。

 この俺が!


 接近するものがあった。

 無人機だ。

 恐ろしく高速で飛翔している。

 一瞬で男の頭上に来て、男が下がったフックを握る。

 音速に近い速さのはずだが、男は難なくフックに掴まり逃げ去った。


 その間にも片手で俺を攻撃して来る。

 俺は弾丸を弾きながら、同時に高速機動をする。

 それでも確実に俺の身体を追って弾が迫って来た。

 

 今度は別な集団が迫って来て、携帯ミサイルの「ジャベリン」を発射して来る。

 

 「バイオノイドか!」


 20体。

 俺や病院へジャベリンのミサイルを発射し、背中からAK74を取り出して連射する。

 その対処の間に、男は逃げた。



 「ガンスリンガーか……」



 聖が言っていた敵だと確信した。

 恐ろしい使い手だ。

 この俺が全く対応出来なかった。

 「人間」相手に、ここまで手をこまねいたことがショックですらあった。

 もちろん、「人間」相手の対応を考えていたことが失敗だった。

 双子もそうだった。

 考えを改めねばならない。

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