第2298話 ガンスリンガー Ⅱ

 5月の第三週。

 大森の弟・明紀の葬儀も終わり、故郷の大阪に行っていた大森が復帰した。

 心中ではいろいろあっただろうが、大森は努めて平静を装い、俺たちに不在で迷惑をかけたことを詫びた。

 みんなもそれに合わせた。

 最愛の弟を喪ったにもかかわらず、大森は明るく振る舞った。

 一江も大森を通常の勤務に戻し、オペを積極的に入れた。

 仕事をしていた方が、悲しみは思い出さなくて済む。


 休憩時間は一人でどこかへ行くこともあった。

 きっと、誰もいない場所で泣くのだろう。

 みんながそっとしておいた。

 

 子どもたちも学校へ通うようになり、一応は日常を取り戻した。

 聖から聞いた「ガン・ドック」の話は子どもたちにも話している。

 一応油断するなと言ってあったが、俺もそれほどは気にしていなかった。


 双子が襲撃されるまでは。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






「人生研究会」幹部会。

 月に二度ほど幹部だけで集まる。

 活動の打ち合わせの後で、みんなで食事をするのも恒例だ。

 小学校時代から、そのようにしている。

 いつものように小学校近くの中華料理屋「金園」にルーとハー、そして幹部15人で向かった。

 すぐに店主が明るく挨拶する。


 「ルーちゃん、ハーちゃん!」

 「「こんにちはー!」」

 「みんなも! さあ、2階にもう準備してるよー!」

 「「ありがとうございますー!」」


 以前にここで爆破事件があり、「金園」は新たに建物を建て直している。

 資金は「広域爆弾魔被害援助基金」が支援し、2階建てだった店が4階建てのビルになっていた。

 その基金は石神家が設立したものだが、「金園」の主人たちは何も知らない。

 3階と4階は住居になっている。

 以前は隣の駅の家から通っていたが、今は上の住居で暮らすようになった。

 通常の復興支援だけではなく、基金の方から以前よりも堅牢で豪華な建物を提供され、「金園」の主人たちは驚いた。

 それは計画的な爆破テロがあったにも関わらず、子どもたちに一人も犠牲が出なかったことを評価されたことにしていた。

 ルーとハーが、「金園」の店主たちが爆破の直後に子どもたちを避難誘導したと証言している。

 実際に「すぐに逃げろ」と言われたので、本当にその通りだった。

 もちろん、俺たちにしてみればとばっちりで店舗を破壊されてしまったことへの詫びだ。


 「人生研究会」の全員が2階に上がり、チャーシューメン、唐揚げ、チャーハン、手羽先、焼きそば等々が運ばれてくる。

 みんなで楽しく食事をし、店を出た。


 『ルーさん、ハーさん、御馳走さまでした!』

 「じゃあ、みんな気を付けて帰ってねー!」

 『はい!』


 それぞれが帰る方向へ向かい、ルーとハー、馬込と数人が一緒の方向へ歩き始めた。


 「馬込、お腹いっぱいになった?」

 「ああ、もう喰えねぇ。夕飯は入らねぇかもな」

 「そう!」


 ルーが嬉しそうに笑った。

 そしてしばらく歩いていた時。


 「ルー!」

 

 ハーが言い、すぐにルーも察知した。


 「あんたたちは来た道を戻って!」

 「どうしたんだ?」

 「早く!」


 ルーとハーは気配を感じた方向へ走り出した。

 前方の角から背の高い男が出てきた。

 長い金髪の外国人で痩せていて手足が長い。

 ルーとハーがすぐに構える。


 「「!」」


 突然男の手が掻き消え、次の瞬間に両手の拳銃が火を噴いた。

 自分たちの反応速度を超えていることに驚愕した。


 やけに大きなリボルバー。

 連射する。

 一瞬で数発の連射。

 それだけのことを、二人は捉えていた。


 「「!」」


 高速移動をして余裕を以て銃弾を回避したはずが、二人とも1発ずつ腿に喰らった。

 右の路地に飛び込む。


 「ハー! どういうこと!」

 「わかんない! なんで喰らったの!」


 走る足音が聞こえ、二人は路地の入口に注視した。

 腿の疵の痛みは「絶花」で殺している。

 敵の姿が見えたら即座に「槍雷」を放つつもりだった。

 得体の知れない相手に手加減は出来ない。


 そして相手の姿が見えない間に銃声がした。

 2発。

 今度は二人とも腹と胸を撃たれた。

 胸を撃たれたルーが特に重傷だ。

 銃口が見えなかったにも関わらず射撃されていた。

 二人だからこそ、ギリギリで致命傷を避けられたが、これ以上は不味い。


 「ルー! 逃げるよ!」


 ハーがルーの腕を肩に担ぎ、「飛行」で逃げた。






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 早乙女から連絡が来た。


 「石神! ルーちゃんとハーちゃんが攻撃された!」

 「なんだと!」

 「二人とも銃弾で撃たれている。命には別条はない」

 「銃弾だと?」

 「そうだ。ルーちゃんが胸部を、ハーちゃんは右腹部を。それと二人とも腿を撃たれている」

 「あいつらがか!」

 「ああ。今警察病院でオペをしている。二人で「飛行」で逃げて、中野の警察病院へ来たんだ。俺の名前を出した」

 「とにかく生きてるんだな!」

 「大丈夫だ」

 「特殊な銃弾なんじゃないのか?」

 「詳細は分からない。とにかくお前に最初に電話した」

 「分かった、すぐに行く!」

 「ああ。俺も待ってるよ」


 俺はすぐに院長に報告し、警察病院へ向かった。

 院長もすぐに後から来ると言うので止めた。

 まだ襲撃者のことが何も分かっていないためだ。


 俺たちに銃器は通用しないはずだ。

 「花岡」の様々な技で、銃弾は回避できる。

 まして二人は超感覚を持っている。

 不意打ちを喰らおうと、撃たれることはないはずだった。

 銃弾は回避出来るし、また「金剛花」を使えば跳ね返せるはずだ。

 それがどうして……

 様々な思考が錯綜しながら、俺はアヴェンタドールを走らせた。





 どう考えてもあり得ないことだった。

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