第2293話 《オペレーション・インヴィンシブル》 Ⅲ
バイオノイドの生産施設を破壊した時、俺の「皇紀通信」に連絡が入った。
「カタ研」のメンバーが行った無人島で妖魔が襲っているらしい。
既にデュールゲリエが飛んで、現地の状況を観測していた。
ターナー大将が救援チームを送ると言ったが、俺が状況を聞いて止めた。
「あいつらには丁度いい。自分たちで出来るだけやらせてくれ」
「いいのか?」
「ヤバいようなら救援チームを頼む。それほど強い妖魔ではないようだ」
「でも「花岡」が使えないようだぞ!」
「精神攻撃だよ。そう思わされてる。自分たちで突破させろ」
「分かった。でも危ないようならすぐに助けるからな!」
「手数を掛けて済まないな」
「何を言う! 大事な仲間だ!」
「そうだな」
俺は笑って通信を切った。
まあ、苦戦するだろうが、いい経験だ。
バイオノイドの設備フロアの下からは、様相が変わって行った。
フロアの天井高も様々で、部屋割りも少なくなり、設備フロアのように区画も無いだだっ広いものが多くなる。
置いてあるものも理解出来ないものがある。
襲ってくる連中も妖魔ばかりになっていく。
バイオノイドと思われる者も、大分人体からかけ離れて来た。
能力も「花岡」ばかりではなくなってくる。
そして徐々に、バイオノイドと妖魔の区別が付かなくなっていった。
「聖、そろそろ本気を出すぞ」
「おう!」
もうフロアの調査の必要性を感じなくなってきた。
理解出来ないと言うよりも、理解する必要が無いという感覚だ。
ここからは、調査よりも破壊に専念した方がいい。
敵の戦闘力も格段に高くなってきていた。
俺たちは階段を走りながら、敵を殲滅していった。
地下1キロも下った時、階段が無くなった。
「トラ、どうする?」
フロアの中心にでかい穴が空いているだけだ。
直径500メートルほどだ。
「下にでかい奴がいるんだよな」
「ああ、今は気配も無いけどな」
聖が「聖光」を構えた。
「おい、どうすんだよ?」
「取り敢えず、ぶっ放そうぜ」
「もうやんのか?」
「だってもうやることないんだろ?」
「うーん、まあそうだな」
「じゃあ、撃つぞ」
「おい!」
聖が「聖光」を下へ向かって撃った。
真っ暗な穴に弾丸が向かって行く。
急激に巨大な気配が昇って来た。
「おい、ヤバいぞ!」
「トラ、どうする!」
「もっと強めに撃て!」
「おう!」
聖がもう一発撃った。
今度は弾丸の軌跡が輝きながら下に向かって行く。
気配が弱まった。
「聖、下へ行くぞ!」
「飛ぶのか!」
「そうだ! 一気に下層まで行く。俺が先行するからお前は支援砲火を頼む!」
「おう!」
まあ、いつも通りだ。
穴は垂直に伸びており、俺たちはそのまま降りた。
時速30キロほどだ。
聖は俺の後方100メートルを付いて来る。
真っ暗な垂直孔なのだが、俺たちは気配感知で進んでいた。
20キロを降った時、急速に膨れ上がるプレッシャーがあった。
そのプレッシャーが近付いて来る。
やはり死んでいない。
俺は「虎王」を下に向けて撃ち込む。
《連山》
伸びて来た触手のようなものが千切れて吹っ飛んで行くのが分かる。
背中から急速にプレッシャーが来た。
咄嗟に避けると、聖の弾丸が通過した。
「てめぇ! 危ねぇだろうが!」
「トラに向かってヤバいのが来たんだよ!」
「俺ごと撃つな!」
「お前なら避けるだろう!」
「バカヤロウ!」
まあ、俺が避けるように、敢えて殺気を放ってくれたのだろうが。
下で真っ白の閃光が光った。
聖の「聖光」が撃破したものだ。
垂直孔の側面からも何かが次々に何かが来る。
俺は聖の所まで移動し、周囲から来る敵を撃破して行った。
「聖! 下に向かって強力な奴を撃て!」
「おう!」
聖が構えて「聖光」を撃った。
そして聖が連射する。
「トラ!」
「逃げるぞ!」
底からとんでもない波動が来た。
俺は「星魔」を撃ち込み、聖と急速上昇した。
垂直孔が崩壊していく。
俺は直上に「連山」を放ち、上の構造物を吹っ飛ばした。
聖と二人で上空へ逃れる。
眼下で《ハイヴ》が地下へ崩れ去り、周囲の地面も巻き込んで崩落していった。
「トラ、まだ生きてんな」
「そうだな。来るぞ」
崩落した数十キロ下から、何かが上がって来る。
恐ろしく巨大な奴だった。
「なんだ、こいつ!」
聖が叫んだ。
「「地獄の悪魔」だ! 強いぞ!」
《ハイヴ》から出て来たのは、長い触手を持つ黒い肉の塊のような奴だった。
ほぼ楕円形のような形で、中心がやや盛り上がっている。
ただ、とにかくでかい。
長辺が20キロ、短辺が10キロほど。
そこから数キロの触手が無数に伸びている。
俺がさっき撃った「星魔」と聖の「聖光」のせいか、上の部分が崩壊している。
だが、動きに鈍さはまったく感じられなかった。
「聖! お前は短辺から攻撃しろ!」
「タンペン?」
「短い方だ!」
「おう!」
俺は長辺から攻撃を始める。
触手から黒い稲妻のようなものが拡がる。
それが触れた木々が地面が腐敗したように黒く崩れていく。
あの攻撃はヤバい。
俺は迷わずに奥義を使った。
《流転魔震》
同時に聖も大出力で「聖光」を撃っていた。
俺の《流転魔震》は「地獄の悪魔」を真直ぐに破壊して行ったが、横からぶち込んだ聖の「聖光」が向こう側の身体をへし折った。
《流転魔震》の破壊波動が手前を破壊し、その向こうの何も無い虚空に消えた。
「バカ! 逃げろ!」
千切れた部分が聖に襲い掛かった。
聖が触手を「散華」で吹き飛ばしながら上空へギリギリで飛んだ。
《流転魔震》
俺は千切れた胴体にもう一度放った。
残った胴体が崩壊していく。
黒い粉塵に変わって行き、やがて地面に吸い込まれるように消えて行った。
聖が俺の隣に降りて来た。
「トラ! 終わりか?」
「お、おう」
一休みして、二人でもう
「地獄の悪魔」が空けた穴が大きく拡がっていた。
俺は「虎王」で妖魔の気配を探知しながら進んだ。
あれほどいた妖魔は全ていなくなっていた。
恐らく「地獄の悪魔」に吸い取られたか摺り潰されたのだろう。
何事もなく、最下層まで降りた。
もうライトを点けている。
「何もねぇな」
「いや、あれを観ろよ」
俺が一角を示した。
そこには金属製の巨大なレリーフのようなものだった。
幅500メートル、高さ20メートル。
ただ、何が描かれているのかは分からなかった。
クラゲのような生物にも見えるが、どうにも歪な形だった。
他にもよく分からないものが刻まれている。
「ぶっ壊しておくか」
聖が「散華」を構えた。
「おい、待て!」
間に合わずに、聖が撃った。
レリーフのようなものが一斉に崩れた。
そこの背面から黒い皺のようなものが拡がって行く。
「聖! 飛べ!」
「おう!」
最大速度で脱出した。
足元で《ハイヴ》の巨大な穴が崩れて行った。
強烈な腐敗臭がして俺たちは一気に離れた。
あの腐敗は攻撃だ。
先ほどの「地獄の悪魔」の攻撃に似ている。
あのレリーフにも同様のエネルギーがあったのだろうか。
聖がぶっ壊したのでもう分からないが。
このバカ!
俺たちは数10キロ先の森林の中に降りた。
聖の頭を引っぱたいた。
「てめぇ! 余計なことばっかしやがって!」
「悪い!」
「途中の祭壇でもやってくれたな!」
「だからゴメンって」
「さっきのは相当ヤバかったぞ!」
「悪かったって言ってるだろう!」
殴り合った。
久し振りだった。
30分も遣り合って、いつもの通り笑って地面に座って終わった。
アラスカへ戻って、ターナー大将や参謀たちに画像データを渡し、報告会をした。
「タイガー、セイント! よく無事に! それに本当にたった二人で《ハイブ》を攻略するとは!」
「まあなー。俺と聖が揃えば楽勝だよ! な、聖!」
「おう」
《ハイヴ》の攻略の推移を簡単に説明し、今後の作戦立案へ提案などもしていった。
その後で一緒に俺たちの映像をみんなで観ながら、俺が補足していく。
バイオノイドとの戦闘の俺たちの手際よさをみんなが褒め称え、俺たちも気分よく補足していく。
バイオノイドの生産施設の場面になった。
「これは貴重な資料だ! タイガー、よくやってくれた!」
「おう!」
俺が薬品棚の薬瓶のラベルを映していく。
「これはスゴイぞ!」
聖が祭壇の物を壊した。
次の瞬間、設備の全てがぶっ飛ぶ。
「おい、タイガー……」
「「……」」
設備の映像はほとんど無かった。
その後の聖が俺を撃ちかけたり、巨大な「地獄の悪魔」をやり損ねた映像が出る。
「ま、まあ、俺たちは全然平気だし!」
全員が俺たちを睨んでいる。
最後の穴の底のレリーフが出た。
「これは! 「地獄の悪魔」の召喚陣なんじゃないか!」
「これを研究すれば、相当なことが解明するぞ!」
ガシャン
「「「「「「……」」」」」」
「「……」」
全員が押し黙った。
「なんかよ、急に崩れちゃってさ」
「そうだったよな」
みんなが睨んでいる。
「タイガー、セイントが確かに「散華」を撃ったよな?」
「え、聖、そうだった?」
「よ、よく覚えてねぇ」
「お前ら、いい加減にしろよ!」
「「ごめんなさい」」
めっちゃ怒られた。
ただ、相当役に立つ映像も多く、一応役には立った。
子どもたちが大分酷い目に遭っていたことを知って、聖と大笑いした。
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