第2292話 《オペレーション・インヴィンシブル》 Ⅱ

 「飛行」で《ハイヴ》から20キロ離れたボリビアの山中に俺たちは降り立った。

 もう、敵の警戒線の中に入っている。

 全ての敵を殲滅するつもりだった。


 プレッシャーがどんどんこちらへ来る。


 「早いな」

 「こんなもんだろう」


 すぐに警備兵たちが動き出し、同時に妖魔の気配も集まって来たようだ。

 山中であるために、警備兵は徒歩だ。

 俺と聖はXM250で警備兵を撃ち、俺は「虎王」、聖は「黒笛」で妖魔を斬り裂いた。

 まったく俺たちの敵ではない。

 俺たちは戦いながら森林を走破していく。

 妖魔はともかく、警備兵たちは俺たちのスピードについて来れない。

 どうせ警備兵は多くはない。

 警備兵を集めるために、途中からゆっくりと進んだ。

 射的の的を撃つ感覚で警備兵を斃し、妖魔も容易く斬っていく。

 まるで障害にならない。


 全ての周辺の敵を潰し、俺と聖は30分後に《ハイヴ》の建物に取りついた。

 幅10キロの八角形の構造だ。

 地上部分は高さ50メートルのベトン。

 恐らく妖魔を練り込んだ、「対花岡」のものだろう。


 俺たちは回り込んで、巨大な扉の前に立った。

 防衛のためにピラータイプがいるはずだ。


 「聖、ぶち込めよ」

 「おう!」


 もうXM250は捨て、聖が背負っていた「聖光」を構えた。

 轟音と共に扉が吹っ飛び、そのまま建物の後方まで破壊しながら建物は半壊した。

 

 「おい、あの弾ってどこまで行くんだよ?」

 「あ、知らね」


 通常の弾頭であれば、数キロも進めばエネルギーが虚空に消える。

 しかし「聖光」がどれほどエネルギーを保持しながら進むのか分からない。

 しょうがねぇ。


 俺たちは抉れた建物の中へ入った。


 予想通り、巨大な扉の内側には8体のピラータイプの妖魔がいた。

 聖の「聖光」ですべて死に絶え、既に巨体が崩壊している。

 抉られた建物はほとんどがベトンであり、下層で妖魔の待機部屋になっていたようだが、すべて死んだようだ。

 やはり「聖光」の威力は大きい。

 ピラータイプは巨体なので俺たちが入った時にもまだ崩壊を続けていたが、他の妖魔は一瞬で塵になって消えたのだろう。

 黒い堆積物が床にあるだけだった。

 俺たちは衝撃で崩壊した中を中央に進んだ。


 前回ブラジルのジャングルでは特殊超高熱爆弾「シャンゴ」によって《ハイヴ》を破壊した。

 その時の解析データにより、中央部近くに下へ降りる階段のようなものがあることが分かっている。

 激しい高熱のクロマトグラフィなどの解析によるものだ。

 もう地上の建物の中には妖魔も人間もいなかった。

 僅かに森林で生き残った妖魔が来たが、俺たちはどんどん瞬殺していく。

 やがて誰も来なくなった。

 地上部の「対花岡」のベトンはピラータイプを除けばただの強固な蓋に過ぎない。

 「シャンゴ」以外に攻略法があるとは、「業」も考えていなかったかもしれない。


 中央付近に行くと、下へ続く階段が口を開けていた。


 「上手い具合に吹っ飛んだな」

 「日頃の行ないだよ」

 「お前、ぶっ殺しばっかじゃん」

 「ワハハハハハハ!」






 階段の前に立った。


 「妙な雰囲気だな」


 聖も感じている。

 ブラジルの《ハイヴ》の調査では、上層部は30メートルごとのフロアになっているはずだ。

 とにかく階段を下って行った。

 途中でバイオノイドたちが襲ってきたが、俺たちの敵ではない。

 俺たちは一応フロアを回りながら下へ降りた。

 上層階は、バイオノイドたちの生育場と防衛任務を与えているようだった。

 バイオノイドは特殊なポッドに入れられているのが分かった。

 見つけるとそれも破壊しながら他の部屋を探って行った。

 恐らく、バイオノイドは常に活動させられないのだろう。

 アメリカが作ったバーミリオンもそうだった。

 あれは相当人体をいじっていたせいだが、バイオノイドも活動制限があるのだろう。

 普段はポッドの中で休ませておかなければならないのだ。

 つまり、事前に準備をしなければ兵士として出撃させられないということだ。

 予想はしていたが、ポッドの存在により確信となった。

 

 バイオノイドとの戦闘を繰り返しながら更に下って行くと、広大な設備がある部屋に出た。


 「ここがバイノイドの改造をしている部屋だな」

 「トラ、気持ち悪いな」

 「ああ」


 巨大な解剖台のようなもの、大小の真空ポンプ、薬品棚、レントゲン装置などの検査機器、そして他に魔法陣のようなものや祭壇のようなものがあった。

 俺と聖は肩に小型のカメラを乗せているので、一通りの映像を記録していった。


 「聖、その魔法陣にはあんまり近づくなよな」

 「ああ」

 

 聖は意外と興味深そうに魔法陣などを眺めていた。

 俺は薬品棚の薬品名を一つ一つ確認していく。

 重要な資料になるだろう。

 聖は祭壇の方へ行き、見掛けない道具を手に取って見ている。


 「おい、触らないようにしろよ!」

 「お、おお」


 聖が手にしていた、白い細長い何かを落とした。

 陶器のものだったようで、床で割れる。


 「おい!」

 「悪い!」


 祭壇が揺れ始めた。


 「聖! 来い!」


 聖が慌てて俺の方へ駆けて来る。

 その時、部屋全体に何かの声が聞こえ始めた。


 

 うぅぅ……うぅぅぅぅ……



 呻き声が聞こえた。

 場所は分からない。

 部屋全体に漂うように聞こえる。


 「トラ!」

 「お前、まためんどくさいことを!」


 このままにしておいていいものか分からない。


 「トラ、どうする?」

 「うーん」


 今は声だけだ。

 俺は聖がいた祭壇に近づいた。

 「虎王」で祭壇の上のものを全て斬った。

 そして祭壇自体も斬り裂いて行く。



 ギギュェェェギャウォォォ

 ギャニギャニギャニギャニ

 グウゥゥゥゥゥゥゥギャオゥ



 様々な悲鳴のような呻き声のようなものが部屋中に鳴り響き、俺と聖は耳を塞いだ。


 「ウルセェー!」


 俺は「虎王」で《煉獄》を放った。

 フロアの備品が全て破壊されて行く。

 声が止まった。


 「おし!」

 「トラ、これでいいの?」

 「おう! 任せろ!」


 



 下のフロアへ向かった。

 貴重な資料だったかなー。 

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