第2287話 「カタ研」無人島サバイバル Ⅵ

 私たちは暗くなるまでにやることが沢山あった。

 みんなで話し合った。

 この島で生き抜くためのことと、その中で生活するためのものだ。

 食糧の確認は済んだ。

 次にトイレ問題だ。

 ちゃんと生きるためには絶対に必要なことだ。

 お風呂は諦めることが出来ても、トイレはそうは行かない。

 トイレは崖上の岩の間に作った。

 丁度岩が隠してくれる場所だ。

 下は砂地なので、ウンコの場合は穴を掘って埋める。

 まー、そのうち掘り返しちゃうだろうなー。

 しょうがないよ。

 石神家、スゴイしなー。

 亜紀ちゃんたちとそういう相談をしてたら、ハーちゃんが物凄い発見をしてくれた。


 「ウンちゃんが全部浄化してくれるよ!」

 「綺麗な水になるから飲めるよ!」


 いえ、それは結構です。

 試したら、「ウンちゃん能力」が一部使えることが分かった。

 敵をウンコにする能力は無理で、ウンコを浄化する能力は出来た。

 ウンコ分身も出来た。

 ルーちゃんも同じことが出来る。

 ウンコ浄化が出来るだけでも、本当に有難い。


 それに火を焚くことに決めた。

 私と亜紀ちゃんで海岸の流木を集めた。

 森側の黒いトゲを注意しながら結構な量を持って帰れた。

 焚火を起こしながら、またみんなで話し合う。


 「「花岡」が使えないこの状況って、多分妖魔の結界だよね?」

 

 ハーちゃんが自分の解析で話した。


 「そうだよね。地球とかのエネルギーと切り離されたんだね。だから、そういう力を使う「花岡」が出来なくなった」

 「中には使える技もあるよね?」

 「身体強化をして、普通の武道よりも威力は高いけど。でも、あの黒いトゲは触らない方がいいと思う」

 「ジョナサンのPK(サイコキネシス)が一番強力かな」

 

 ジョナサンの能力はまだ使っていない。

 敵は対処出来ないだろうが、念のためだ。

 私たちの生命線になるかもしれない。


 「石神さんと威力の調整は検証してます。任せて下さい!」

 「うん、お願いね」


 「あと、「オロチストライク」だよ」

 「他にももっと試しておこう」


 威力は小さくても、「螺旋花」などは使えるかもしれない。


 「武器はどうかな?」

 「亜紀ちゃんが持って来た火掻き棒と鉈かぁ」

 「包丁も幾つか」

 

 茜と陽菜が暗くなっている。


 「茜、陽菜、あなたたちは絶対に護るからね!」

 「はい、お願いします」

 「私たちも何か手伝いますよ」

 「うん!」


 自分たちが気に掛けられていることが分かり、少し安心したようだ。


 「バリケードを作れないかな」

 

 坂上さんが言う。

 坂上さんはこの異常な状況でも、冷静にいろいろ考えてくれている。


 「それはいいですね! じゃあ、どういうものを作ろうか?」

 「内側に岩を並べたらどうかな?」

 「無いよりいいよね!」

 「うん、早速作ろう!」


 敵について。


 「黒いトゲはみんな見ているけど、私と亜紀ちゃんは森の中でトゲ人間とも戦ったんだ」

 

 みんなに説明する。

 体長は人間と同じくらい。

 160センチから180センチまで。

 全身にトゲが生えていて、顔はカメレオンに似ている。


 「他にもいるかもしれないけど、問題は島に結界を引いた妖魔だよね」

 「「花岡」が通じないんじゃ、ちょっと不安かな」

 

 亜紀ちゃんが立ち上がって言った。


 「やるしかない! 私たちは絶対に生きて帰るの! どんな敵でも必ず勝つ!」


 みんなが亜紀ちゃんを見た。


 「タカさんも聖さんも、こういう絶体絶命の状況を何度も乗り越えたの! 諦めないで! 必ず勝つんだよ!」

 

 みんなが笑って拍手した。


 「そうだよね! 石神さんだったら諦めないぞ!」

 「うん、必ず生きて帰ろうね!」

 「私、何でもします! 言って下さい!」

 「諦めちゃダメなんだよね! うん、分かりました!」


 ジョナサンも立ち上がった。


 「僕は必ずみなさんを護るよ! 絶対だ! 僕も絶対に諦めない!」


 また拍手が起きた。

 亜紀ちゃんのお陰で、いい雰囲気になった。

 みんなでバリケードを作った。

 「花岡」は使えないけど、身体強化の「金剛」は少し使えた。

 大きな岩を集めて、並べて行った。


 それが完成した頃、日が暮れて暗くなって来た。


 破れてシートになってしまったボートを地面に敷いて、寝床にした。

 交代で見張りを立てる。

 バリケードの内側で二人ずつ。

 最初は上坂さんと亜紀ちゃん。

 次はルーちゃんと坂上さん。

 ハーちゃんとジョササン。

 私とパレボレ。

 3時間ごとの交代だ。

 

 灯の無い暗闇の中。

 下で波の音が聴こえる。

 みんな不安だろうけど、いつの間にか眠っていた。

 私も眠った。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 「上坂さん、妖魔の狙いってなんだと思いますか?」

 「うん、あまり考えたくはないけど、私たちかな」

 「殺すつもりですよね?」

 「そうだね。しかも知能が高いよ。最初は簡単に島に入れて、すぐに通信機を壊した。あれが何なのか分かっていたということだよね?」


 その通りだ。

 でも、妖魔が通信機の存在をどうして知ったのか。


 「通信機だって、会話はしましたか?」

 「あ、うん! したよ! だから分かったのか!」

 「そうでしょうね。敵は私たちの言葉が分かる」

 「そうか!」

 「それだけじゃないですよ。私たちの「花岡」も理解した。海で放った技と、私が「飛行」で飛んで建物で撃った技で、地球の自転などのエネルギーを使っていることが分かったんです。だから結界で隔離した」

 「相当な知能だね」

 「はい」


 さっき、この話はみんなともしている。

 でも、私は不安でつい上坂さんとまた話していた。


 「亜紀ちゃん、あんまり気負わないでね」

 「え?」


 上坂さんが微笑んでいた。


 「亜紀ちゃんが強いのはよく知ってる。責任感が強いことも」

 「いえ、そんな」

 「でもね、みんな頑張るよ。亜紀ちゃん一人が背負わなくてもいいの。状況は良くないかもしれないけど、きっと大丈夫」

 「上坂さん……」

 「ね、みんなで帰ろう? 私たちは「カタ研」の仲間じゃない。みんなで力を合わせてさ」

 「はい!」


 上坂さんは私の不安を分かっていてくれた。

 

 「あの、私一つ考えていたことがあるの」

 「え、なんですか?」

 「「花岡」って、自分の外のエネルギーを借りて発揮するのよね?」

 「まあ、そんな感じです。地球の自転エネルギーを使うのが基本ですが、それ以外にも」

 「じゃあさ、この結界の中のエネルギーも使えないのかなって」

 「え!」


 とんでもなく驚いた。

 そんな発想は無かった。


 「だって、ここにも重力はあるし、光も温度もあるじゃない。あの黒いトゲや見て無いけどトゲ人間? それも動いているでしょ?」

 「そっか!」

 「「花岡」で使ってたエネルギーは遮断されたけど、それ以外のものはあるんだよ」

 「そうですよね!」


 確かにその通りだ。

  

 「上坂さん! やりましょう!」

 「え?」

 

 私は双子を起こした。

 柳さんも起こす。

 他のみんなを起こさないように、上坂さんの所へ連れて行った。


 「今ね、上坂さんからスゴイ話を聞いたの!」

 

 私は結界内のエネルギーで「花岡」が出来ないかを話した。


 「なるほどね!」

 「確かに理論的にはあるよね!」


 ルーとハーがノッって来た。


 「「オロチストライク」は「花岡」とは違う体系のエネルギーだからね」

 「柳さん、妖魔の存在エネルギーを使うことを思いついたもんね!」

 「スゴイよね!」

 「もう! みんなすぐに出来ちゃったじゃない!」

 「「「ワハハハハハハハハ!」」」


 「オロチストライク」は妖魔がこの世に存在するエネルギーを使った技だった。

 だからこそ、今この島でも使える。

 

 「確かに重力はあるんだよね」

 「でもそれは量子の平衡の崩れで……」


 ハーが押し黙った。

 みんな気にしないで話していく。


 「「オロチストライク」の利用で派生技が出来ないかな」

 「私も今思った! 「大オロチストライク」や「オロチブレイカー」もあるけどね」

 「妖魔の存在エネルギーは解析出来てるから、それを「花岡」に変換出来そうなんだけど」

 「どうやるの?」

 「例えば「螺旋花」。あれは地球の自転エネルギーを使うじゃない」

 「うん」

 「だから「オロチストライク」のさ……」


 みんなで意見を出し合う。

 上坂さんは「花岡」が分からないので参加できないが。

 その上坂さんが言った。


 「あのさ、「結界」ってそもそもどういうものなのかな?」

 「え?」


 ルーが説明した。


 「あのね、強力な力場を構成して、異次元空間を作るの」

 「そうなんだ」

 「だから地球の物理法則から外れちゃったんだよ」

 「うーん」

 「前にね、京都の道間家でクロピョンが作ったの。恐ろしく巨大な大妖魔がいてね、それを周辺に被害が出ないように討伐するために」

 「なるほどね」

 

 ハーが叫んだ。


 「それだぁー!」


 みんなが驚いてハーを見る。


 「なんか引っ掛かってたんだ! あの時のクロピョンの異次元空間と、今の状況は違うよ!」

 「なに、どういうこと?」

 「あの時、重力も違ってた。クロピョンが私たちが戦いやすいように疑似的に作ってたんだよ! 「花岡」は使えるように必要なエネルギーは遮断しなかったよ!」

 「?」

 「ねぇ、ルーも感じてたでしょ?」

 「うん。そっか!」


 二人には分かったらしい。


 「どういうことか説明して!」

 「あのね、結界を作ったらいろいろと遮断するんだよ!」

 「分かるよ、だから「花岡」が利用するエネルギーを遮断したんでしょ?」

 「そうなんだけど! 亜紀ちゃん、あの時の空とかどうだった?」

 「えーと、なんか薄暗い……そういうことかぁ!」

 

 私にも分かった。


 「ここは同じ世界だよ!」

 「だったら、遮断されてないんだよ!」


 上坂さんと柳さんが私たちを見ている。


 「ここは結界の中じゃない!」

 「そう思わされてた!」






 その時、離れた場所に巨大なプレッシャーが生じた。


 「「敵だ!」」


 双子が叫んだ。

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