第2288話 「カタ研」無人島サバイバル Ⅶ

 私は亜紀ちゃんと前に出て、バリケード前まで走った。

 

 「ハーちゃん! さっきの話を解決して!」

 「分かった!」

 「ルーちゃんは全体の指揮を!」

 「はい!」


 曖昧な指示だったが、二人は私の意図を理解してくれた。

 私たちは勘違いしていた。

 結界で地球と切り離されたんじゃない。

 じゃあ、どういうこと?

 私には分からないけど、ルーちゃんとハーちゃんならば何とか出来るかもしれない。

 その時間を私と亜紀ちゃんで稼ぐ。


 「ジョナサン!」

 「はい!」


 ジョナサンがすぐに駆けて来た。


 「私たちが撃ち漏らした奴は、ジョナサンが対応して!」

 「はい! 分かりました!」


 本当にジョナサンが頼りだ。

 でも、ジョナサンの能力は未知だ。

 どこまで発揮できるのかは分からない。

 だから出来るだけ私と亜紀ちゃんが対応しないと。


 「柳さん! 来ます!」


 亜紀ちゃんが私に叫んだ。

 

 「うん!」


 段々目視出来るようになった。

 後ろに坂上さんと平君、壇之浦君が来た。

 ありったけの懐中電灯を持って、前方を照らす。


 「危ないですよ!」

 「ここは狭いよ。どこにいても同じだ。だったら君たちを手伝うよ!」


 「亜紀さん! お二人は私たちが護りますから!」

 「真夜! 真昼!」


 亜紀ちゃんが真夜ちゃんに振り返って嬉しそうに微笑んだ。

 本当にいい友達同士だ。

 真夜ちゃんは亜紀ちゃんを崇拝している。

 妹の真昼ちゃんもルーちゃんたちと仲良しで、みんなのために頑張ろうとしている。

 二人は「花岡」の特訓を受けて、そこそこ強くなっている。


 「花岡」は大技だけではない。

 暗殺拳として、膨大な年月を強力化と最適化に努めて来た。

 だから人間として限界の破壊力を秘めた技が沢山ある。

 もちろん、地球の自転などの力を利用した超絶の技は物凄い。

 しかしそれだけではなく、恐ろしい技の集大成なのだ。

 そういうものだからこそ、亜紀ちゃんは黒いトゲの森を走破し、トゲ人間とも互角以上に亘り合っていたのだ。


 坂上君たちのライトが前方を照らす。

 森の方から、膨大な数のトゲ人間がこちらへ向かってくる。


 「!」


 なんて数!

 多分、見えている範囲で数百はいる。

 その後からどれほどのトゲ人間が来るのかも分からない。


 「皆殺しダァァァァァァーーーーー!」


 亜紀ちゃんが獰猛な顔で叫び、「ディアブロモード」に入った。

 前方へ飛び出していく。


 「亜紀ちゃん! 突出しないで!」

 「ガハハハハハハハ!」


 亜紀ちゃんがトゲ人間の集団に「オロチストライク」を連発していく。

 左右の腕からどんどん発射し、トゲ人間が四散して行った。


 「もう!」


 私はバリケードから離れるわけにも行かず、亜紀ちゃんとの中間地点で戦った。

 数が多いので、亜紀ちゃんが凄まじい攻撃をしても、撃ち漏らしたトゲ人間がこちらへ向かってくる。

 亜紀ちゃんは私を信用して、とにかく数を減らすことに専念しているのだろう。

 ルーちゃんも観ているはずだから、何も言われないということはこの作戦でいいのだ。


 私の撃ち漏らしは、後ろのジョナサンが確実に仕留めてくれている。

 





 3時間経過し、まだ敵の攻撃は衰えなかった。

 一体、どれほどの数のトゲ人間がいるのだろうか。

 亜紀ちゃんは相変わらず「オロチストライク」を連発している。

 まだ衰えは見えないが、確実に体力を削っているのは確かだ。

 「オロチストライク」は量子を操って《霊素》の波動を撃ち出す技だ。

 主に思念の操作なので体力はそれほど使わない。

 しかし、両腕を動かさなければならない。

 亜紀ちゃんはそれを既に数千回は繰り返している。

 それに時折すり抜ける敵が亜紀ちゃんを襲うこともある。

 それは「花岡」の技で斃している。

 最前線の亜紀ちゃんの体力は、最初に力尽きるのは明らかだ。

 私が絶対に退却のタイミングを見逃さないようにしないと。

 亜紀ちゃんを後ろに下げ、ルーちゃんかハーちゃんに来て貰うのだ。


 後ろでルーちゃんが叫んだ。


 「ジョナサンさん! 1キロ先を吹っ飛ばして!」

 「はい!」

 「大穴を空けて!」

 「分かった!」


 次の瞬間、森が吹っ飛び直径200メートル、深さ30メートルのすり鉢状の大きな穴が空いた。

 衝撃波がこちらにも来た。

 声が聞こえていた亜紀ちゃんは地面に伏せていた。

 ジョナサンの原子融合の破壊力はみんな分かっている。

 敵が来るので私が前に出て亜紀ちゃんと一緒に攻撃していく。


 「続けて10キロ先にもっと大きな攻撃を!」

 「分かった!」


 森の奥で大爆発が起きた。

 前進していたトゲ人間を亜紀ちゃんと一掃すると、トゲ人間の進行が止んだ。


 「やったぁー!」


 私が喜んで飛び跳ねると、亜紀ちゃんが地面にへたり込んだ。


 「亜紀ちゃん!」

 「うん、大丈夫。ちょっと疲れちゃったかな」

 「!」


 やっぱり無理をしていたんだ。

 私は亜紀ちゃんを担いで後ろへ下げた。

 ルーちゃんが前に出て来てくれる。


 亜紀ちゃんに「Ω」「オロチ」の粉末を飲ませる。

 私も飲んだ。

 チョコレートも一枚食べさせた。


 「ちょっと休んでて。ルーちゃんが必要な場合は呼ぶから」

 「もう大丈夫ですよ」

 「ダメだよ! 亜紀ちゃんが攻撃の主体なんだからね! 今は体力を温存して!」

 「分かりました」


 亜紀ちゃんはすぐに横になって目を閉じた。

 判断が早い。

 どうなるのか分からない戦場で、一切の無駄を省いて最大の効率で動こうとしている。

 茜ちゃんと陽菜ちゃんに観ていてもらい、私はまた前に出た。

 ジョナサンにも「Ω」と「オロチ」の粉末を飲ませる。

 トゲ人間は近くにはいないが、またすり鉢状の穴を越えてこちらへ向かってくるのが分かった。

 先ほどまでよりもずっと数は少ないが。


 「ルーちゃん、どれだけいるのかな」

 「分からない。でも、相当な数がいると思う」

 「そう」

 「柳ちゃん、諦めないでね」

 「大丈夫だよ。絶対にみんなで帰るんだからね!」

 「うん!」


 ルーちゃんがいつもの明るい笑顔で笑った。

 みんなを元気にしてくれる、最高の笑顔だ。


 私たちは、また必死に戦った。






 明け方に、恐ろしい敵が来た。

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