第2276話 院長夫妻と蓮花研究所 Ⅲ

 夕飯はカレーで、幾つもの大寸胴で何種類かのカレーが作られた。

 ご飯も大量だ。


 大食堂でブランたちや研究所員も一緒に食べる。

 500人が収容できるように拡張されたが、一部の研究員はまだ仕事中だ。

 何人かが鍋や炊飯器などを持って行った。


 院長たちも一緒にカレーを召し上がった。

 

 「石神、これは美味いな!」

 「そうですか。うちの味なんですよ」

 「そうなのか」

 「石神さん、私もまた食べたいわ」

 「いつでも言って下さい!」


 普段はカレーなど召し上がらないだろう。

 刺激の強い食べ物だが、お二人は喜んで食べてくれた。

 俺も久しぶりに3杯食べられた。

 大満足。


 ロボはカレーが苦手なので、隅で蓮花が切ったマグロを食べている。

 響子はニコニコして大好物の「石神家カレー」を食べてお替りしていた。

 六花が猛然と全種類を夢中で食べているので、俺が吹雪を預かって食べさせた。

 吹雪のカレーは別に、辛さを押さえたものにしている。

 俺がスプーンを差し出すと、口に入れてニコニコする。

 本当にカワイイ。

 シャドウがスプーンを使えるようになっていて驚いた。


 「石神様! これはまた美味しいですね!」

 「そうか!」


 ブランや研究所員たちも夢中で食べていた。

 たちまち米が無くなり、ウドンや蕎麦が茹でられる。

 

 「石神様!」

 

 蓮花が興奮した顔で俺に言った。


 「ナンを今度は用意いたしましょう!」

 「ああ、なるほどな!」

 「わたくしとしたことが! どうしてこれまで思いつかなかったか!」

 「まあまあ」


 ジェシカが大笑いしていた。

 蓮花がジェシカにナンを焼く釜を用意するように言っていた。


 「私、結構忙しいんですけどぉー!」


 みんなが笑った。

 5時から食べ始め、6時半になると亜紀ちゃんがそろそろ食事は終わりだと言った。


 「みなさーん! 今日は何の日か分かってますねぇー!」


 みんなが笑って拍手した。


 「今日は『虎は孤高に』ダァァァァーーーー!」


 盛大な拍手が沸いた。


 「じゃあ、これからみなさんお風呂に入って! 7時30までにここに集合です!」

 

 全員がすぐに片付けに入り、散って行った。

 俺たちも交代で風呂に入り、俺は蓮花と六花と響子、吹雪と一緒に入った。


 「響子は何やってたんだ?」


 院長を案内してから響子の部屋を覗くと、響子はいなかった。


 「戦闘訓練を観てた」

 「そうなのか?」


 午睡から起きて、ラビとシャノアが迎えに来たようだ。

 六花が戦闘訓練をしていると聞き、観に行ったようだ。

 吹雪も一緒だ。


 「私もいつか、一緒に訓練するからね!」

 「お前はやめとけよ」

 「どうしてよ!」

 「腹筋が出来るようになってからな」

 「まかせろー!」


 六花が吹雪の脚を押さえ、腹筋運動をさせた。

 ひょいひょいと吹雪が回数を重ねる。


 「……」


 「まあ、がんばれ」

 「うん……」


 六花をコワイ顔で響子が睨んでいた。

 蓮花が大笑いしていた。






 風呂から上がると、ブランや研究所員たちがつまみの用意をしていた。

 うちの子どもたちも急いで風呂から上がり、手伝って行く。

 ロボは先に来ていた静子さんに甘えていた。

 俺たちはもう寝間着だ。

 響子はお気に入りの「RHU=HER」特製の虎パジャマを着ている。

 みんなからカワイイと褒められて上機嫌だった。


 唐揚げ(超大量)。

 厚揚げ(各種薬味)。

 雪野ナス。

 ハモンセラーノ+クッキー+チーズ等(超大量)。

 ポテチ(手作り超大量)。

 冷奴(主に院長たち)。

 生湯葉。

 各種漬物。


 飲み物はソフトドリンクだ。

 石神家では『虎は孤高に』を観る時に、酒は飲まない。

 研究所では酒はみんな滅多に飲まない。

 好きな人間はもちろんいて、仕事が終わってから好き者同士で飲むことはある。

 でも、全員で酒を飲んでの宴会はほとんどない。

 別に俺が止めているわけではないが、ここの防衛上大勢が酔っている状態は不味いと考えているのだろう。

 ブランたちがあまり酒が飲めないということも大きい。

 

 7時半に全員が集まり、つまみや飲み物が配られる。

 みんなワイワイと楽しそうに話していた。

 院長と俺たちは、最前列に座らされた。

 投射型の大スクリーンだ。

 一番後ろの人間たちもちゃんと観られる。

 俺の右に響子、六花、吹雪、院長、ルー、静子さん、ハー。

 左側に蓮花、シャドウ(二人分)、ジェシカ、柳、皇紀。

 亜紀ちゃんはテーブルの向こう側。

 どこからか腰の低いソファを用意していた。


 配置は、興奮した亜紀ちゃんを、俺と六花が響子と吹雪を、院長夫妻を双子がガードするためだ。

 蓮花とジェシカは俺とシャドウ、柳、皇紀が護る。


 7時45分になり、亜紀ちゃんの波動が変わった。

 後ろに座っている連中も、徐々に会話が少なくなる。

 先週の予告では、今日は御堂と柴葉典子との話になるはずだった。


 ドラマが始まり、亜紀ちゃんが大興奮で立ち上がる。

 俺が邪魔だと脇に移動させた。

 テーマソングが始まると、いつものように亜紀ちゃんが歌い出し、右手を掲げてみんなにも歌うように叫ぶ。

 みんな笑いながら、一緒に歌った。

 院長と静子さんが笑っていた。


 「騒がしくてすいませんね」

 「いや、楽しいよ。うちでも毎週観ているけど、こんな楽しい鑑賞はないな」

 「そうですかぁ?」


 まあ、そう言って下さるのなら助かるが。

 居酒屋で青が登場し、響子が泣いて叫んだ。


 「オニオニィー!」


 俺は響子の肩を抱き寄せた。


 「もうすぐ帰って来るからな」

 「うん!」


 当然だが、青役の俳優は眼帯はしているが、顔は潰れていない。

 少々三枚目という感じだが。

 俺と青との遣り取りでみんなが笑った。


 御堂と柴葉典子との淡い交際。

 御堂役の冬野の演技は良かった。

 御堂のどこまでも優しい心が滲み出ていた。

 最後の柴葉典子の死。

 嗚咽を漏らす御堂。


 「今回も最高だぁーーーー!」


 亜紀ちゃんが立ち上がり、号泣して両手を掲げて叫び、俺たちの感動は吹っ飛んだ。


 「どうもすいません」

 「いいよ」


 院長に謝った。






 ドラマが終わり、子どもたちがつまみの追加をしていく。

 新たに刺身や煮物などが出されて行く。

 これから、宴会の予定だ。

 今日は俺たちが酒を飲まないので、ブランたちや研究所員たちに好きなように飲ませたい。

 亜紀ちゃんが作業しながらまだ泣いていた。

 優しい柳が宥めている。


 「御堂さん、可哀想!」

 「そうだね」

 「私、本当に辛いよー!」

 「亜紀ちゃん、そろそろ切り替えてよ」


 忙しく動いているハーが亜紀ちゃんに言った。


 「何よ! あんたたち何でもないの!」

 「感動してるよ!」

 「亜紀ちゃんのせいで半減してるよ!」

 「ん?」


 亜紀ちゃんがキョトンとしていた。


 「柳さん?」

 「あれ、私のお父さんだけどね」

 「!」

 「またちゃんと観直すわ」

 「ごめんなさい……」


 蓮花が俺のリクエストで、あの隠し芸をしてくれることになっている。


 楽しみだぜぇー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る