第2277話 院長夫妻と蓮花研究所 Ⅳ
宴会が始まった。
俺が簡単な挨拶をし、蓮花が乾杯の音頭を取った。
うちの子どもたちが各テーブルにつまみと飲み物を置いて行く。
亜紀ちゃんが今日の『虎は孤高に』が良かったと話して行き、他の子どもたちは亜紀ちゃんがうるさくて申し訳なかったと謝っていた。
蓮花が演芸の準備で席を立つ。
前に忘年会で蓮花が十八番の「赤道小町」を披露したと聞いて、是非俺も観たかった。
蓮花は最初は渋っていたが、俺が頼み込むので今日見せてくれるということになった。
「覚悟して下さいね!」
「おう!」
他の子どもたちにも手配している。
前回以上に盛り上げたい。
折角蓮花がやってくれるのだから。
ミユキが俺たちのテーブルに来た。
「そろそろ始めます」
「おし!」
「石神、なんだ?」
「蓮花が必殺の宴会芸をやるんですよ」
「そうなのか!」
「あの蓮花さんが?」
院長と静子さんが驚いている。
およそ宴会芸をやる人間には見えないだろう。
会場が暗くなる。
前回観ているブランや研究所員たちが笑いながら拍手する。
通路の端にスポットライトが当たる。
黒い布を被った蓮花が登場した。
会場がザワザワしている。
「この前と違うぞ!」
「横に長いよ!」
どうも蓮花が何か変えているようだ。
俺には分からん。
蓮花がゆっくりと歩き出す。
シャン、シャンと鈴の音が聴こえる。
もうそれで大笑いしている人間も多い。
前に設置したステージに向かって行く。
前は布を被っている上に暗いので途中で転んだらしい。
今日は横に黒子の格好の羅刹がそっとついている。
どうやら転ばずにステージへ上がってこちらを向いた。
垂れた布を踏んづけて転びそうになったが、羅刹がギリギリで支えた。
羅刹が黒布を取った。
『ワハハハハハハハハ!』
全員が爆笑した。
蓮花は真っ赤なドレスに身を包んでいる。
そして肩から横に伸ばした棒に、3体ずつの人形がぶら下がっていた。
♪ ドキッ! ドキッ! ドキッ! ドキ! ♪
音楽が鳴り、蓮花が歌い出す。
全員が一緒に歌う。
♪ 赤いお陽様が ジリジリ焦げてる ♪
蓮花が踊るたびに、両脇の人形が揺れて踊り出す。
全員大爆笑だ。
俺も大笑いし、院長と静子さんも爆笑していた。
響子は腹を抱えて苦しそうに六花に抱き着いていた。
うちの子どもたちが後ろでバックダンサーをしている。
背後を薄暗くして、オタ芸のダンスをしている。
盛り上げるための演出だったのだが、必要無かったかもしれない。
♪ 君は赤道小町 恋はアツアツ亜熱帯 ♪
蓮花がピアノ線のようなものを引っ張る。
ただ揺れていた人形が一斉に両手を挙げる。
また大爆笑が巻き起こった。
まったくもって、最高の舞台だった。
蓮花が人形たちを外して俺のテーブルに来た。
「いかがでございますか!」
ドヤ顔で息を切らせながら言う。
「最高だったぜ! 今度一緒にライブやろうな!」
「タカさん! 是非!」
亜紀ちゃんが興奮している。
テーブルのみんなが笑った。
「はぁー、でもこれで目一杯です」
「御苦労!」
柳が蓮花に冷たいウーロン茶を渡した。
蓮花がコップの半分ほどを一気に飲んだ。
蓮花を座らせ、俺がステージに行った。
亜紀ちゃんがすぐにギターを持って来る。
今日はフライングVにしている。
盛り上がる演奏をしていく。
ディープパープル『ハイウェイスター』『バーン』。
レインボー『キル・ザ・キング』。
レッドツェッペリン『ブラックドッグ』。
そして先ほどの『赤道小町ドキッ』を編曲して演奏した。
大いに盛り上がってステージを降りてテーブルに戻った。
みんなが次々に蓮花と俺のステージを褒めに来る。
蓮花が嬉しそうに笑っていた。
俺たちのテーブルでも、みんな蓮花を褒め称えている。
「わたくしのOL時代のバカ受け確定の芸ですので」
「そうだったよな!」
「前回と違ってるんですよね!」
「オホホホホホ! まだあと3つのパターンがありますの」
「ほんとかよ!」
「まあ、いつかお見せしましょう」
「よろしくな!」
みんなで笑った。
「タカさん! 今日だけは負けましたね!」
亜紀ちゃんが笑いながら言う。
「そうだな! 完敗だ!」
「オホホホホホ!」
亜紀ちゃんが大笑いしている響子を観た。
「ん?」
何か考えている。
「タカさん!」
「あんだよ?」
「ほら、アレ!」
響子を指差している。
響子も気付いて亜紀ちゃんを見た。
「なに?」
俺も響子も意味が分からないでいる。
「タカさん! アレがあるじゃないですか!」
「あんだよ?」
「トラトラちゃんですよ!」
「ああぁ! 亜紀ちゃん、いいこと言ったぁー!」
俺はすぐに全裸になる。
院長と静子さんが驚いている。
そのままステージに上がった。
亜紀ちゃんも付いて来る。
いらないんだが。
「みなさーん! トラトラちゃんですよー!」
蓮花と一部の人間しか知らない。
何事かと全裸の俺を見ている。
「おし!」
俺は虎の身体を念じた。
身体が輝き、一匹の大きな虎になった。
ロボが嬉しそうに駆け寄って来る。
「トラトラちゃんでーす!」
全員が驚き、立ち上がって大喝采した。
俺は響子の前に行き、尾で背中を叩いた。
「また乗っていいの!」
「ガウ!」
響子が寝そべった俺の背に乗る。
六花が支えてやった。
六花に向いて、吹雪を見た。
すぐに分かって吹雪を響子の前に乗せた。
ゆっくりとステージに戻って歩いた。
響子が吹雪の手を取って振ってやる。
また大喝采が起きる。
ドレスの蓮花を乗せ、双子に曲芸乗りをさせた。
シャドウを呼んで、俺がシャドウの背に乗って走らせた。
蓮花がその上に乗りたいと言い、ジェシカに必死に止められていた。
各テーブルを回り、みんなに撫でられた。
一回りしてステージで元に戻った。
大喝采。
「タカさん、良かったですね!」
「おう!」
「石神様、次は負けませんから!」
蓮花が言い、みんなが笑った。
しかし、この能力ってこんなことに使っていいの?
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