第2249話 《デモノイド》戦 Ⅳ

 「やはりイソラは強いな」

 「ああ。最初から本気を出されていたら危なかった」

 「もうちょっとだったのに」


 白のハイエースの中。

 5人は寛いでいた。


 「でも、大体分かった。イソラの本気の技も、ちゃんと感知出来たからな」

 「セリョーガ、もうそろそろいいんじゃない?」


 2メートルを超える巨漢に、体格の良い女が言った。


 「ミーラ、慌てるな。まだ誰も殺し切れていない。あいつらも結構やる」

 「そうだけど」

 「まあ、最強と言われた二人の実力は分かったけどな」

 「そうだね」


 「しかし、情報に無い6人目もいた。まだ他にいるかもしれない」

 「あの足が速くて勘のいい奴だろ? 逃げるばかりだったじゃないか」

 「油断するな。我々は必ずあいつらを殺さなければならないのだ。日本の拠点の多くがイシガミに潰されたことで、どうも予定外のことが多い。もう少し情報を集めよう」

 「分かったよ」


 「太陽界」は潰され、外道会も重要拠点を石神に潰された。

 特に日本でのネットワークの一つになっていた医療機関の系列が潰されたことは痛かった。

 互いに連携のない広大なネットワークだったのだが、どういう手段でか石神は全てを把握し全滅させた。

 しかも、石神にしては大分苛烈な方法で、短期間でのことだった。


 「では、拠点に戻るぞ」

 

 セリョーガと呼ばれるリーダー格の男が言った。

 ミーラが外へ出てナンバープレートを替えた。

 架空のナンバーだった。

 だから陸運局で持ち主を確定することはない。


 「ねえ、少し食事をして行かない?」

 「またか」

 「いいじゃない。私、お腹が空いたわ」

 「セリョーガ、いいじゃないか。俺も腹が減ったよ」

 「分かったよ。じゃあ、少し「食材」を集めてみんなで食べるか」


 全員が嗤った。

 白いハイエースは、六本木方面へ走って行った。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 俺の中学校への襲撃により、また「アドヴェロス」のハンター全員が集められた。

 それと早乙女さんに副官の成瀬さんと、今度は早乙女さんの奥さんの雪野さんもいる。

 雪野さんが「アドヴェロス」の本部に来ることは珍しい。 

 

 「移動の車両は白のハイエースと判明しました。ナンバーは常に変えられていますが、これまでの5人のいた場所と付き合わせて、間違いないと思います」


 雪野さんが真剣な顔で言った。

 早乙女さんが言った。


 「先ほどの襲撃で、生徒31名と教師1名が亡くなった。負傷者は80名以上だ」

 

 全員の顔が歪んだ。


 「御堂総理から連絡があった。凶悪なテロリストを「業」の送り込んだ者と判断し、全面的に協力してくれると」

 「早乙女さん、「虎」の軍は必要ないぜ?」

 

 早霧さんが言った。


 「早霧、それは状況による。俺たちは凶悪なテロリストを無力化するだけだ」

 「チッ!」


 葛葉さんも言った。


 「早霧の言う通りだぜ。俺ら、何のための「アドヴェロス」なんだよ?」

 「葛葉、俺たちの目的は、日本を「業」の軍勢から護ることだ。「アドヴェロス」も「虎」の軍もない。互いに協力しながらやればいい」

 「じゃあ、全部「虎」の軍に任せろよ。俺たちは必要ねぇじゃんか」

 「それは違う!」


 早乙女さんが声を荒げた。

 滅多に無いことだ。


 「いや、済まん。でも、そういうことじゃないんだ。俺たちは警察だ。日本の治安を護る役目がある。その中で「業」の軍勢という途轍もない勢力に対抗するために生まれたのが「アドヴェロス」だ」


 全員黙って聞いている。

 反発した早霧さんも葛葉さんも分かっている。


 「真っ先にその戦いを始めたのが「虎」の軍だ。俺たちは彼らの要請によって警察内に設立された」

 「だから下に付いてるってか?」

 「そうじゃない。「虎」の軍は警察に協力を求めたんだ。警察だけじゃない。自衛隊の「対特」もそうだ。「虎の軍法」によって、徐々に希望者が「虎」の軍への加入も始まっている」


 愛鈴さんが手を挙げて話した。


 「だから、我々の手に余る場合には、「虎」の軍に協力を求めるということですよね?」

 「その通りだ。これまで何度かあったようにな」

 「早霧さん、葛葉さん。我々が弱いから、「虎」の軍に助けを求めるんじゃないんですか?」

 「愛鈴、てめぇ!」


 葛葉さんが席を立って愛鈴さんを睨んだ。


 「ワハハハハハハハ!」


 突然、早霧さんが笑った。


 「そうだな。愛鈴の言う通りだった。俺らが弱いから早乙女さんはいつも「虎」の軍に助けを求めるんだ」

 「それは違うぞ、早霧……」

 

 早霧さんが手で制した。


 「早乙女さん、悪かった! 自分らの不甲斐なさを棚に上げて、埒も無いことを言ってしまった。済まない!」

 「早霧……」

 「俺も悪かった。文句を言う前に、俺たちの手で何でも出来るようにならなきゃな」

 「葛葉……」


 十河さんが口を開いた。


 「早乙女さん。今度は私も出るよ」

 「十河さん!」

 

 全員が十河さんを見た。


 「みんなが頑張ってるんだ。そろそろ私の出番じゃないかな?」

 「……」


 その意味はみんな分かっている。

 十河さんの能力は寿命を縮める。

 それは高齢の十河さんにとっては死を意味している。


 「分かりました。もしもの場合はお願いします」

 「そのためにここにいるんだからね」


 「敵は対物ライフルも使うんですよね?」

 

 鏑木さんが言った。


 「ああ、そうだ」

 「じゃあ、俺の出番だ。射撃で俺より上の奴なんかいるわけはない」

 「頼むぞ」


 鏑木さんが嬉しそうに笑った。

 全員が笑った。


 「じゃあ、成瀬。今後の方針を説明してくれ」

 「はい」


 成瀬さんは、今後ハンターの外出は控えるようにと言った。

 俺もしばらくは学校へは行かない。

 まあ、数日は休校になるだろうが。


 「敵の狙いは「アドヴェロス」のハンターと見ていいでしょう。どういう意図かは分かりませんが、恐らくは5人組の戦力を試したいのではないかと」

 「軍勢ではないということか」

 「はい。「虎」の軍との戦闘の前に、「虎」の軍とは別な強力な組織を狙ったのではないかと考えます」

 「腕に自信ありってか」

 「そういうことです。敵は強力な兵士を生み出すことに成功した。だから、その戦闘力を試したいのではないかと」

 「ヘッ! 返り討ちにしてやるぜぇ」

 

 早霧さんが笑った。


 「是非! でも、敵は磯良の「無影刀」を防ぎました。愛鈴の腕も斬り裂いた。二人とも全力を出してはいませんが、相当な実力を持っているはずです」

 「スピードも速い。もしも私を襲った時がトップスピードでなかったとしたら、相応の準備が必要です」

 「俺も感じました。まだまだ底が知れない連中です。あの人間離れした戦闘力の他に、多分妖魔が埋め込まれている。それも相当強いはずです」

 「だろうな」

 「武装もそうです。ジャベリンまで使用して来るんですから、通常のテロリストの装備ではありません」

 

 全員が現状を認識した。


 「成瀬、早く話せよ」

 「はい。穴熊ですね」

 「なに?」

 「ここに引きこもります。敵は我々を何としても殺したい。だったら、ここに引きこもって、敵をおびき寄せます」

 「なるほどな!」


 早霧さんが大笑いし、葛葉さんも笑った。

 他のメンバーも笑う。


 「敵は我々のことは調べています。だから外で襲えないとなれば、ここに来るはずです」

 「じゃあ、待ってりゃいいか」

 「いいえ」

 「なんだ?」


 「私の性格の悪さを思う存分に味わってもらいますよ」

 「あ?」


 成瀬さんが、「アドヴェロス」本部の「準備計画」を話した。

 全員が爆笑した。






 「成瀬、お前のことを優しい女だと思ってたんだけどな」

 「そうですよ!」

 「これまで手を出さなくて良かったぜぇ!」

 「早霧さん、何言ってんですか!」


 全員でまた爆笑した。

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