第2247話 《デモノイド》戦 Ⅱ

 早乙女から連絡が来た。


 「石神! 愛鈴が襲われた!」

 「どういう状況だ!」

 

 早乙女は、愛鈴が獅子丸のマンションの駐車場で襲われたと話した。

 5人の白人の若い男女だったと。


 「対物ライフルで腹部を撃たれた。下半身が千切れかけるほどの攻撃だ」

 

 恐らく弾頭に工夫があるのだろう。

 人間を破壊するために、軟金属を使っている。

 愛鈴だからこそ助かったに違いない。


 「愛鈴の状態は?」

 「なんとか。治療と愛鈴自身の再生能力で持ちこたえた。しばらくは動けないだろうけどな」

 「そうか」

 「愛鈴の話では、最初は普通の人間に見えたそうだ。ただ、カマロのボディを簡単にナイフで切り裂いたことで、尋常な相手では無いと気付いた。向かって行くと、愛鈴のメタモルフォーゼした腕も斬ったようだ」

 「なんだと?」

 

 愛鈴のメタモルフォーゼした腕は、銃弾ですら跳ね返す。

 普通のナイフなどで斬れるわけもないのだが。


 「特殊なナイフか?」

 「分からない。でも愛鈴には普通のナイフに見えたようだ。大型のクックリナイフのようだったと言っている」

 「そうか」


 ならば扱う人間の技量とパワーが凄まじいということだ。

 もちろんナイフ自体も相当なものなのだろう。


 「愛鈴はすぐに逃げた。得体の知れない連中だったからな。まともにぶつかるよりも、情報を持ち帰ることを考えた」

 「ああ」

 「追手は無いと思っていた。しかし、長距離から対物ライフルで攻撃された」

 「そうか」

 「愛鈴も気付けなかった。腹を撃たれたんだ。獅子丸が救出した」

 「分かった」


 早乙女はまだ俺たちに救援を求めたわけではない。

 第一報として、事件を知らせただけだ。


 「連中を調べる。今、成瀬が入国管理局に問い合わせている」

 「何か分かったら、また連絡してくれ」

 「ああ。念のため、そっちも警戒しておいてくれ」

 「ありがとうな」


 電話を切った。

 今の話だけでも、相当な手練れと分かる。

 愛鈴も「アドヴェロス」のハンターだ。

 戦闘経験もそれなりに積んでいる。

 獅子丸のマンションであったので、多少の油断はあったかもしれないが、相手の力量を見て瞬時に対応した。

 それを突破された。

 愛鈴のメタモルフォーゼした腕を見て、ビビらなかった。

 ということは、愛鈴のことを知っている連中だ。


 嫌な予感がした。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 「愛鈴さん!」

 「磯良?」


 目を覚ますと、ベッドの脇に磯良がいた。

 すぐに自分の状況を思い出す。


 「獅子丸は?」

 「無事です。愛鈴さんを抱えて逃げてくれて。俺たちが到着して、一緒に収容しました」

 「そっか」

 「今は自分のマンションに戻りました。愛鈴さんが助かったのを見届けて」

 「え! 獅子丸のマンションは敵に知られてるんだよ!」

 

 磯良が微笑んで言った。


 「早乙女さんが、大丈夫だと言っていました。俺にもよくは分かりませんが、あそこには相当な防衛システムがあるそうです」

 「でも……」

 

 磯良は私の手を取って言った。


 「早乙女さんがあそこまで自信を持って言うということは、絶対に安全なんですよ。大丈夫です」

 「そうなのかな」


 確かに早乙女さんは私たちの安全を第一に考えてくれる。

 不安な要素があれば、必ず対処する人だ。


 「分かったよ。でも獅子丸にも注意するように言ってね」

 「はい」


 獅子丸は私の危機を察知してすぐに来てくれた。

 それも、防衛システムのお陰だったのだろうか。

 礼を言うことが出来なかったが、今は御互いの安全を優先すべきだろう。


 「愛鈴さんの傷はすべて塞がってます」

 「タフなことが取り柄だからね」

 「良かったです。一時はどうなることかと」

 「うん、強敵だった。ワニの妖魔とはまた違う強さだ。あいつらはヤバい」

 「俺がやりますよ」


 磯良であれば勝てるとは思う。

 しかし、何か底知れない不安があった。


 「磯良、油断しないで」

 「はい」

 「あいつらの強さは、何か恐ろしいものがあるよ。私の勘だけどね」

 「はい。油断はしません。それに、愛鈴さんをこんな目に遭わせたことは忘れません」

 「磯良……」


 こんな場合だが、嬉しかった。

 磯良は私が絶対に護る。

 まともにぶつかれば、磯良に敵う者は少ないだろう。

 あの連中もそうだ。

 しかし、あの5人の男女は磯良の強さを回避しながら襲ってくる。

 私にはそれが分かった。





 夕方に「アドヴェロス」の作戦室に集合した。

 私の身体は、もう何の問題も無い。

 あれほどの負傷も、私は短時間で治癒してしまう。

 敵はそのことも知っているのだろうか。

 

 作戦室には早乙女さんと成瀬さん、そしてハンターの十河さん、早霧さん、葛葉さん、磯良、鏑木、獅子丸そして私。

 今日はいつもお世話になっている便利屋さんもいた。


 「みんなもう知っているだろうが、今日の午前中に愛鈴が5人の男女に襲撃された。敵がどういう連中かは全く分からない。今後の対応を話し合うために集まってもらった」


 成瀬さんが、全員に私から聞いた特徴で似顔絵と全身の姿絵を配った。


 「獅子丸のマンションには監視カメラがあっただろう?」


 早霧さんが聞いて、成瀬さんが応えた。


 「破壊されていました。他の駐車中のドライブレコーダーも確認しましたが、駐車監視機能があるものはありませんでした。周辺の監視カメラは今探っています」


 目立つ5人組だ。

 似顔絵も大分近いものが出来たと思っている。


 「全員白人だな」

 「はい。コーカソイド系のようですね」

 「ということは、ロシア人か」

 「まだ確定は出来ませんが、可能性は高いと思われます」

 「「業」が送り込んだか」

 「そうだとすれば、精鋭でしょうね」

 「だな」


 全員が真剣に似顔絵と姿絵を見ている。

 

 「今、早乙女さんのお宅の「ぴーぽん」がこの似顔絵と姿絵から全身のCG、それに変装のパターンなどを作成しています。今後もっと情報が集まれば、より精確なものが出来るでしょう」

 

 「外国人ならば入国の記録があるんじゃないか?」

 「該当はありませんでした。多分密入国です」

 「そうなるかぁ」

 「対物ライフルも用意されていたことから、敵は武器も豊富に持っていると考えた方がいいでしょう」

 「俺たちにライフルで来るのかよ?」

 「実際に愛鈴が負傷しています」

 

 私の気配察知は、早霧さん、葛葉さん、磯良には劣る。

 でも、それなりのレベルであるはずだった。

 私が狙撃されたということは、他のハンターも危うい可能性がある。


 「便利屋さん。愛鈴が襲撃された時に、何か感じましたか?」

 「申し訳ありやせん。特には。あっしは妖魔などを探るにはそこそこなんですが、人間の殺意は感じはしてもそれがこの連中かどうかまでは」

 

 早乙女さんが言った。


 「恐らく、この5人は妖魔も埋め込まれているだろう。相当隠蔽が上手いようだが、その力を使えば便利屋さんにも分かると思う」

 「へい、お任せくだせぇ!」

 「注意すべきは、妖魔の力を使わずとも相当な能力を持っているということだ。それに俺たちの情報も掴んでいるようだ。その前提で今後の対応を決めたい」

 

 全員が早乙女さんに向いている。


 「磯良。お前にはデュールゲリエを3体護衛に付ける。他の全員にも1体ずつ付ける。磯良以外は出来るだけ不要な外出は控えてくれ」

 「磯良もここにいた方がいいんじゃないですか?」


 私が聞いた。


 「愛鈴さん、必要ありませんよ。俺はいつも通りに動きます」

 「磯良!」


 分かっていた。

 「アドヴェロス」最強のハンターである磯良は、自分が囮になるつもりだった。


 「俺たちは全員で待機する」

 「あの、せめて獅子丸もここに!」

 「獅子丸は大丈夫だ。でも、外出は最低限でな」

 「はい、分かってます」


 また獅子丸の護衛を断られた。

 一体どのような防衛システムがあるのだろうか。

 私はあのマンションで襲われたのだが。


 「早乙女さん。俺もちょっとは外に出させてくれ」

 

 早霧さんが言った。

 磯良だけに囮を任せたくないのだろう。


 「ここの飯も悪くはないが、やっぱ外でも喰いたいよ」

 「分かった。でも一人では動くな」

 「じゃあ、葛葉とか誘ってもいいか?」

 「そうしてくれ」

 「早霧さん! 私も一緒に!」

 「分かったよ」


 早霧さんが笑って私の同行も認めてくれた。

 私の強い要望で、磯良はしばらくここから学校へ通うことになった。


 「じゃあ、私の部屋に来なよ!」

 「いや、それは……」

 「いいじゃない!」


 早乙女さんが笑って言った。


 「愛鈴、磯良には別に部屋を用意するよ」

 「えぇ!」


 みんなが笑った。


 「じゃあ、部屋に遊びに行くね!」

 「分かりましたよ!」


 磯良も笑った。






 私は磯良を絶対に護る。

 どんな敵が来ても。

 私がどうなっても。

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