第2242話 こんにちは、山の主
人間に戻ったので、パジャマを着て屋上に戻った。
亜紀ちゃんとワイルドターキーを飲む。
「タカさん、大変でしたねー」
「まあ、びっくりしたけど、結構楽しかったな」
みんなが笑う。
「タカトラ、かわいかった」
「そうか」
「トラは虎になっても良かったです」
「おい!」
六花の頭を小突く。
亜紀ちゃんが残念がる。
「あー、私も背中に乗っておけばよかった!」
「そうか?」
「あ、また出来ますよね?」
「うーん、まあ、そのうちにな」
気楽にやっていいものか分からん。
「さて、じゃあタカさん」
「ん?」
「今日のお話ですよー!」
「おい、今日は勘弁しろよ!」
「決まりですから」
「決まってねぇ!」
みんなが笑いながら俺を見ている。
「じゃあ、今日は軽い話をな」
みんなが拍手する。
「まあ、うちの石神一家というのは、ぶっ殺しまくりの暴力団のどうしようもねぇ集団だ」
爆笑。
「でも別に殺人鬼の集団じゃねぇ。ぶっ殺すのは平気だが、相手によっちゃ手加減するし、間違えてぶっ殺すこともある。まあ、謝らねぇけどな」
爆笑。
「ちょっと気になってたのは、うちに「山の主殺し」の称号を持ってる奴がいることだ」
「タカさんもですよ!」
亜紀ちゃんが叫ぶ。
「あー、まあ二人もいるわけだな」
みんなが笑う。
間違えて殺してしまったことは分かっている。
「そこでだ。お前らに秘密にしていたわけじゃないんだが、亜紀ちゃんとアラスカへ時々行ってたんだよな?」
「はい!」
まあ、子どもたちも時々は俺たち二人でアラスカへ出かけていたのは知っていた。
隠しているわけだはなかったし、短時間で戻って来るので、誰も気にしていなかっただけだ。
「それでな。今日は俺たちが何とかしたというか、まあ、山の主の話だ」
亜紀ちゃんが拍手し、他の全員もニコニコして拍手した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
亜紀ちゃんがアラスカのハンティングに行って「山の主」のヒグマをぶっ殺した。
ハンターのソロンさんが楽しみにしてた「山の主」だったので、俺が謝りに行った。
一応、ワキンが基地周辺の広範囲で「大山の主」的な存在になっているので、問題はないのだが。
ワキン、ミミクン、そしてクロピョンがアラスカ全体を守り、更に麗星が様々な結界や浄化をしてくれた。
しかし、その後に俺も六花を助けようとして、誤って次の「山の主」を死なせてしまった。
申し訳ないが、事故だ。
そうなのだが、石神家で二人が「山の主」を二柱もぶっ殺したとあっては、面目ない。
そこで、亜紀ちゃんと相談して「山の主?」を育てることにした。
「おい、どの熊にするかな」
「あ!」
「どうした?」
「ヒーちゃんがいますよ!」
「誰?」
「ほら、アラスカのハンティング・マラソンで私が担いでた!」
「ああ、あいつか!」
ハンティング・マラソン大会で、亜紀ちゃんはヒグマを生きたまま担いで走った。
そのまま優勝したのだが、ヒグマは殺さずに山に帰した。
随分と亜紀ちゃんに懐いていた。
「ヒーちゃんにしましょうよ!」
「まあ、見つかればな」
「見つかりますよ!」
それは分からんが。
俺たちは、亜紀ちゃんが「ヒーちゃん」を逃がした山へ向かった。
「ヒーちゃーん!」
亜紀ちゃんが叫びながら山を歩いて行く。
俺も後ろから付いて行った。
「ヒーちゃーん!」
「ガフッ!」
林の中からでかいヒグマが出てきた。
「ヒーちゃん!」
「ガオガオ!]
まさか、本当に呼ばれて出てきた。
なんなんだ、こいつら。
亜紀ちゃんは嬉しそうに「ヒーちゃん」を抱き締め、ヒグマも亜紀ちゃんの顔をベロベロ舐めた。
亜紀ちゃんは持ってきた鹿の肉を「ヒーちゃん」に食わせる。
「ヒーちゃん」は嬉しそうに食べた。
「おい、大会の時よりもでかくなったんじゃないのか?」
「そうですね」
体長は3メートル近い。
体重も400キロ近いだろう。
きっとヒグマとしても強い個体なのだ。
丁度いい。
「じゃあ、こいつにするか」
「はい!」
俺は持ってきたベルトポーチからブリーチを取り出した。
俺たちは、熊に「山の主マーク」を付けようとしていたのだ。
それでどうにかなるわけではないが、ソロンさんたちにせめて希望のようなものを持って欲しいというか。
まあ、軽い気持ちでやろうとしていた。
ワキンにも確認したが、自分たちがいるので「山の主」は必要ないらしい。
それに、そのうちに自然発生するということだったので、本当に軽い気持ちだった。
「よし、亜紀ちゃん、押さえろ!」
「はい! ヒーちゃん、ちょっと大人しくしててね」
「ガウ」
亜紀ちゃんが後ろから両足で腕を挟み、動かないようにする。
顔は両手で押さえた。
「うごくなよー」
「ガウ」
俺がブリーチ剤を取り出すと、臭いが苦手か暴れた。
「こら! ヒーちゃん! め!」
「がう」
亜紀ちゃんが叱るとヒグマは大人しくなるが、俺が筆でブリーチ剤を塗ろうとすると、また嫌がる。
「おい、ちょっとだけ大人しくしてくれ」
「ヒーちゃん!」
でもどうしても暴れるので、星のマークは諦めた。
額に「〇」を描いて終わった。
「もう、これでいいや」
亜紀ちゃんが「ヒーちゃん」にまた肉を食わせ、一緒にしばらく遊んでやる。
45分経過した。
「亜紀ちゃん、そろそろだ」
「はい!」
ブリーチが浸透したはずだ。
亜紀ちゃんが「ヒーちゃん」を担いで川に移動した。
優しく宥めながら、ブリーチをシャンプーで落とし、トリートメントも使ってやる。
「ヒーちゃん、ごめんね」
「ガウ」
嫌な臭いが薄れたか、「ヒーちゃん」は落ち着いていた。
亜紀ちゃんが濡れた頭を拭いてやり、ポンポンと撫でてやった。
「ヒーちゃん、カワイイ「〇」ができたねー」
「ヒーちゃん」が亜紀ちゃんに撫でられながら最初は気持ちよさそうにしていたが、そのうちに黙り込んだ。
「ヒーちゃん、どうした?」
「ガウ!」
「ヒーちゃん」が立ち上がった。
二本足だ。
「!」
異常な事態が始まることを感じた。
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