第2241話 トラトラちゃん Ⅱ

 昼食は子どもたちはパスタで、ロボは刺身。

 俺はまた肉をもらった。

 亜紀ちゃんに、前足で冷蔵庫の前で5回床を叩いた。

 

 「あー! 5キロ!」

 「ガウ(そういうことだ)」

 「トラトラちゃん、あったまいいー!」

 「ガウ(照れるぜ)」


 亜紀ちゃんが頭に抱き着き、額にキスをしてくる。

 肉を5キロ切って焼いてくれた。


 「ガウ(宮のたれ)」


 「宮のたれ」を前足でツンツンした。


 「これですね!」


 亜紀ちゃんが肉に掛けてくれる。

 美味かった。


 みんなで食事をしながら話した。


 「このこと、誰かに知らせますかねー」

 「蓮花さん?」

 「鷹さんと栞さん」

 「麗星ちゃんもどうかなー」

 

 「ガウ!(必要ねぇ!)」


 俺はウェッジウッドの皿のてっぺんを叩いた。

 3時、6時、9時、そして10時の位置を二度叩く。

 

 「え! 今晩には戻るってことですか!」


 俺はうなずいた。


 「たいへんだぁー! 早くしないとみんな見れないよ!」

 「急ごう!」

 「蓮花さんには僕が」

 「皇紀ちゃん、その後でアラスカもお願い!」

 「鷹さんは栞ちゃんと一緒だよ!」

 「麗星ちゃんはあたしが電話する!」


 「……」


 俺がベッドで丸まって響子と寝ていると、ドアが乱暴に空いた。


 「あなた!」

 「石神先生!」


 揺り起こされた。

 栞と鷹だった。


 「ガウ!(お前ら! どうして!)」

 「ちびトラちゃんは私見れなかったからね!]

 「私は見ましたよ」

 「なによ!」


 二人が笑いながら俺に近づいて来る。


 「ほんとにトラになっちゃったんだー」

 「不思議ですね。でもちゃんと石神先生の感じがあるし」

 「そうだよねー!」

 

 二人に身体を触られる。


 「フサフサだね」

 「気持ちいいですね」

 「ガウ(お前ら、どうやって来たんだよ?)」

 

 まあ、服装を見れば分かる。

 「Ωスーツ」を着ているのだ。

 「飛行」で来たのだろう。

 わざわざ俺を見るために。


 「蓮花さんと麗星ちゃんは来れないって」

 「写真一杯撮っといてって」


 双子が入って来て、写真を撮られた。


 「ガウ(こっちからも撮れ)」


 段々ノッてきて、香箱座りをした。

 みんなが笑う。


 「ガウ(これな)」

 「ゴメン寝だぁ!」


 ますますノッてきて、写真集『のら猫拳』のポーズを決めた。


 爆笑された。

 一杯撮られた。

 ひとしきりみんなと話してから、二人は帰って行った。


 六花も上がって来た。


 「じゃあ、訓練に行きましょうか!」

 「ガウ?(なに?)」


 いつもの赤いフールトゥを持っている。

 

 「ガウ(おい)」

 「さあ!」


 「……」


 とにかく外へ出て、六花を背に乗せてみた。

 いける。


 「トラ! すごいです! あ! 振動が! あ!」


 段々背中が濡れてきた。

 訓練場に着いて、六花がブルーシートを敷いた。


 ちゃんと訓練出来た。

 帰りはいつも通り六花を背負って帰った。

 道具をフールトゥに仕舞うのが大変だった。

 フールトゥは口に咥えた。

 どうでもいいことだが。





 別荘に戻ると、子どもたちは3時のお茶にしていた。

 六花を背負った俺を見てみんなが驚く。


 「ガウ(ただいま-)」

 

 「トラトラちゃんはお肉にしますかー?」

 「ガウガウ(俺はいいよ)」

 

 六花を風呂場に放り込んで、上に上がって響子とロボと一緒に寝た。

 身体が大きいので、丸くなって寝る。

 柔軟性が高いので、苦にならない。

 しばらく寝ていると、六花がフラフラしながら上がって来るのを感じた。

 やはり、音と臭いが敏感だ。

 俺の上に倒れて眠った。

 俺は狭くなったので、床に降りて寝た。

 硬い床も大丈夫だ。

 筋肉が発達している。

 

 響子が目を覚ました。


 「あ! レイがトラトラちゃんの隣にいるよ」

 「ガウ?(そうなのか?)」


 何かが俺の身体に触れている気がした。

 頭を舐められている。


 「ガウ!(レイか!)」


 見えなかったが、嬉しかった。



 響子を背に乗せて首に捕まらせた。

 下に降りると、子どもたちが夕飯の支度をしていた。

 

 「トラトラちゃん!」


 亜紀ちゃんが駆け寄って来た。

 頭を撫でられる。


 「ちょっと待ってるんでちゅよー」

 「ガウ!(普通に話せ!)」


 ロボの皿が用意され、マグロと他の刺身が盛られた。

 

 「ハンバーグはトラトラちゃんも食べれまちゅかねー」

 「ガウ(うん)」


 大丈夫だろう。

 まだ時間が掛かりそうなので、俺は外に出た。

 自分で窓を開けて出る。

 後ろで子どもたちが拍手する。

 こそばゆい。

 俺は人間だ。


 道を疾走すると、結構速く走れる。

 時速で200キロくらいは出せるか。

 道を走っていると、対向車が来た。

 狭い道なので、脇に避ける。

 

 「がう(おっと)」


 「ギャァァァァァーーー!」


 運転手が物凄い叫び声を挙げて走り去った。


 「ガウ(あ)」


 まあ、いっか。

 飛行も試してみた。


 出来た。


 思いついて蓮花の研究所へ行った。

 

 「ガウ(あ)」


 認証カードを持ってない。

 門の前で降りて、インターホンを押そうとした。



 とことことこ  ぽち



 警報が鳴り、防衛システムが起動し、デュールゲリエとブランたちが集結してくる。


 「ガウ(よう!)」


 「妖魔だ!」

 「途轍もなく強いぞ!」

 「取り囲め! デュールゲリエは……」


 指揮を執っている大黒の頭をはたいた。


 「大黒が攻撃された!」

 「速いぞ!」

 「大黒、大丈夫か!」

 「あ、ああ」


 ミユキたちは蓮花の護衛に回っているか。

 羅刹が「黒笛」を抜いて襲ってくる。

 クロピョン剣なので、俺には通じない。

 アナイアレイターたちが「花岡」を使ってくるが、当然無効。


 「「黒笛」が通じない!」

 「羅刹、「カサンドラ」を使え!」


 俺は「威圧」を使った。

 アナイアレイターたちはもちろん、デュールゲリエも停止する。

 

 「これは……」


 「ヒモダンス」を踊った。


 『!』


 「全員、そこまでぇー!」

 

 蓮花の声がスピーカーから響いた。


 「石神様ですね!」

 「ガウ(そうだよ)」


 全員が驚いている。

 防衛システムが解除され、蓮花がジェシカやミユキたちと一緒に出てきた。


 「来て下さったのですか!」

 「ガウ!(おう!)」


 蓮花が俺を抱き締めた。


 「なんてフワフワなんでしょう!」

 「ガウ(だろ?)」


 蓮花が満足するまで触らせてやった。

 ミユキや他のブランたちも集まって、俺に触りに来る。

 みんな笑顔で俺を撫でて行った。


 「申し訳ありませんでした。最初に気付かずに」

 「ガウ(いいよ)」


 俺は右前足で左の前足の手首を叩いた。


 「ああ、時間がございませんのですね! わざわざお越しくださってありがとうございました!」

 「ガウ(じゃーな)」


 京都に飛んだ。

 結界のことを考え、道間家の10キロ手前で降りた。

 道間家に向かって、林の中を疾走した。

 気持ちがいい。

 1キロ手前で止まった。

 もう結界に触れている。

 俺のことは感知したはずだ。

 しばらく待っていると、五平所が車で来た。


 「石神さまぁ!」

 

 俺の姿が見えないので、大声で叫んでいた。

 俺は笑って林から姿を現わした。

 やはり、蓮花が連絡してくれたのだ。

 何も言わなかったが、蓮花の所へ行ったので、次が麗星の所へも行くと考えたのだろう。

 出来る女だ。


 「ああ! ここまで来てくださったんですか!」

 「ガウ(そうだよ)」

 「どうぞ、お乗りください!」

 

 センチュリーで来やがったので、中に入れなかった。


 「……申し訳ありません……」

 「ガウ(しょうがねぇなぁ)」


 ルーフに飛び乗った。

 

 ガリ


 ちょっと滑りそうで爪で掴んだ。

 ルーフが削れた。


 「……」


 五平所は何も言わずに車を出した。


 「あなたさまー!」


 麗星が奈々を抱いて玄関に立っていた。

 隣に天狼もいる。


 「ガウ!(よう!)」

 「まあ、なんと美しい! 最高でございます!」

 「ガウ?(そうかぁ?)」

 

 麗星が近づいて俺の首を抱いた。

 天狼も呼んで触らせる。

 奈々も俺の首を一生懸命に撫でた。


 「ガウ(乗れよ)」


 尾で背を叩いた。


 「え?」


 天狼を尾で撫でて、背中を叩く。


 「大丈夫なのですか?」

 「ガウ(おう)」


 麗星がそっと天狼を俺の背に跨らせた。

 天狼は落ち着いている。

 ゆっくりと歩いた。

 天狼が喜んだ。

 前足で首を叩く。


 「ガウ(首に捕まれ)」

 「はい!」


 天狼が上体を倒して首に腕を回した。

 少しスピードを上げ、天狼が大丈夫そうなのを見て、もっと速く走る。

 天狼が大笑いしながら喜んだ。


 玄関に戻り、麗星を向いて尾で背を叩いた。


 「え! わたくしもですか!」

 「ガウ(乗れよ)」


 麗星が着物の裾を割ってそっと跨る。

 少し着崩させて申し訳ない。

 ゆっくりと歩いた。


 「あなたさま!」


 奈々はまだ無理なので、頭をペロペロ舐めてやる。

 いつのまにか、ハイファが姿を見せていた。


 「なんと神々しい……よもや、ここまでのお方とは。「神獣の王」はこれほどの……」

 「ガウ(まあ、今後も宜しくな)」

 「はい、かしこまりましてございます」

 

 空を向いて吠えた。


 「ガウ!(じゃあ、行くな!)」

 「はい! ありがとうございました!」

 

 別荘に戻った。






 「トラトラちゃん、どこ行ってたんでちゅかー」


 亜紀ちゃんが俺の首を抱いて言う。


 「ガウ(蓮花と麗星んとこ)」

 「そうなんでちゅかー」


 このやろう。


 夕飯を食べ、またロボと遊び、響子を転がして遊んだ。

 柳がはたきを持って来て、俺の前で揺らした。

 ぶっ飛ばしてやった。


 「なんでぇー!」


 なんとなく、ロボが柳をぶっ飛ばすのが分かった。

 

 みんなで風呂に入り、俺の身体を響子と子どもたちが洗った。

 オチンチンは六花だ。


 幻想空間に上がり、俺とロボは床で日本酒を飲んだ。

 そして10時。


 「ガウ!(来たかぁ!)」


 俺の身体が戻った。


 「タマ!」

 「なんだ、主」

 「これで戻ったんだな」

 「ああ。ん?」


 タマが怪訝な顔をする。


 「なんだよ?」

 「主、長距離を移動したか?」

 「あ? ああ、蓮花の研究所と京都の麗星に会いにな」

 「なんだと! あまり動き回るなと言ってあっただろう!」

 「聞いてねぇよ!」

 「ロボが伝えたはずだ!」

 「だからロボの言葉は分からねぇんだって!」

 

 タマがロボに聞いた。


 「ロボ、言ってなかったのか?」

 「にゃー」

 「ロボは言ったと言ってるぞ」

 「だからぁ!」


 タマが黙り込んで俺を見ている。


 「おい、長距離を移動したらどうなんだよ!」


 段々不安になって来た。


 「ああ、そうか。分かった」

 「なんだよ!」


 「主、これから自由に虎の姿になれる」

 「え?」

 「試してみろ」


 俺は全裸だったので、そのまま念じてみた。


 「「「「「「「アァァァァァ!」」」」」」


 みんなが叫んだ。

 虎になった。


 「まさか、こんな能力が身に着くとはな」

 「ガウ!(おい!)」


 念じると、元に戻った。


 「あー! 戻ったぁ!」


 みんなが拍手をする。


 「良かったな」

 「うーん」






 この能力、使えんの?

 取り敢えず、チンコを仕舞いに下に降りた。

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