第2243話 こんにちは、山の主 Ⅱ

 俺は何かの波動を感じた。

 大きく、強い。

 突然、「ヒーちゃん」の額が光った。


 「あ!」


 亜紀ちゃんが叫んだ。

 周囲に様々な動物が集まって来た。

 まだ、遠くからこちらへ走って来る音も聞こえる。


 「タカさん!」

 「落ち着け!」


 近い連中は30メートルほどしか離れていない。

 その向こうに、数百の動物、ムースなどの鹿、イノシシ、タヌキ、ウサギやリス、様々な鳥が猛禽類も小鳥もたくさんいる。

 こちらをジッと見ている。

 天敵もいるのだが、争う様子は無い。


 「ガォウゥゥゥゥーー!」


 「ヒーちゃん」が吠えた。

 動物たちが一斉に頭を下げて立ち去った。


 「おい……」

 「タカさん……」


 何が起きたのか分からなかった。

 「ヒーちゃん」が四つ足に戻り、亜紀ちゃんに顔をこすりつけていた。

 今の現象は、もしかして……


 「帰ろっか」

 「はい」


 二人で「ヒーちゃん」をポンポンして飛び去った。






 それから、亜紀ちゃんと時々「ヒーちゃん」の様子を見に行った。

 「ヒーちゃん」が縄張りにしていた山は、他のヒグマが姿を消し、動物たちが多くなっていった。

 木々の植生も豊富になっている気がする。

 「ヒーちゃん」は、会うたびに身体がでかくなっていった。

 今は4メートルも体長がある。

 でも、亜紀ちゃんには甘えモードでカワイイ。

 俺にも懐いている。

 「ヒーちゃん」と一緒に山を歩きながら、やはり以前とは違うのを確認した。

 山が確実に豊かになっている。


 「なんかいろいろ増えたなー」

 「そうですねー」



 ある日、「ヒーちゃん」を呼んで一緒に川で遊んでいると、鮭が「ヒーちゃん」の周りに群がって来た。


 ある日、「ヒーちゃん」と遊んだ後で見送っていると、「ヒーちゃん」の足跡に草が生えて行った。


 ある日、小鳥だらけになっている「ヒーちゃん」を見た。


 ある日、夜に行くと「ヒーちゃん」が光ってた。


 ある日、「ヒーちゃん」がナゾのダンスをしていた。


 「「……」」



 亜紀ちゃんと相談して、ソロンさんに来てもらうことにした。


 「ソロンさん。先日、額に白い「〇」のあるヒグマを見つけまして」

 「え、そうなの?」


 ソロンさんの反応が薄い。 

 やっぱ「〇」じゃだめかー。


 「時々行く山なんですけど、どうも動物が多くなった気がして」

 「そうなんだ」

 「反対に、その額に「〇」のヒグマ以外は、他の熊を見掛けないんですよ」

 「じゃあ、相当強い奴かな」

 

 うーん、ノリが悪い。


 「とにかく、ソロンさんに一度見てもらいたくて」

 「うん、いいよ。じゃあ、いつにしよう……」


 亜紀ちゃんがいきなりソロンさんを抱えてハンヴィに乗せた。

 俺らも結構忙しいのだ。


 「ちょ、ちょっと!」

 

 ブーン。


 山の麓でまた亜紀ちゃんがソロンさんを抱えて上った。

 「ヒーちゃん」の居場所は大体分かる。

 巣穴の近くでソロンさんを降ろし、中を覗いてみた。

 いた。


 呼ばなくても、亜紀ちゃんの臭いを捉えて、「ヒーちゃん」が巣穴から出てきた。


 「ガウ!」


 嬉しそうに走って来る。


 「危ないぞ!」


 ソロンさんが叫ぶが、もちろん大丈夫だ。

 「ヒーちゃん」が俺たちの前に来て、亜紀ちゃんに頭を撫でられる。


 「おい! 大丈夫なのか?」

 「結構私たちに慣れてるんですよ」

 「そうなの?」


 ソロンさんも落ち着いて「ヒーちゃん」を見た。


 「おお! これは!」


 ソロンさんがそっと近づいて、「ヒーちゃん」の額のマークを見た。


 「サークルかぁ!」

 「そうですね」


 俺が描いたのだが。


 「多分、凄い山の主だよ!」

 「そうなんですか!」

 「うん。俺は星のマークしか見たことなかったけどな。でも、この貫録は間違いないだろう」

 「はい!」


 亜紀ちゃんと戯れているのだが。

 どこの貫禄指しているのか。

 そのうち、「ヒーちゃん」が亜紀ちゃんを連れて林の中へ入って行った。


 「ヒーちゃん、どこ行くの?」


 俺たちも後を追った。


 「ヒーちゃん?」

 「ガウ!」

 

 「ヒーちゃん」が後ろを振り向きながら亜紀ちゃんに追わせる。

 亜紀ちゃんも笑いながら追いかけた。

 俺とソロンさんも後ろを歩く。


 「ガウ」

 「なーに? おしまい?」


 「ヒーちゃん」が止まった。

 俺たちも追いついた。


 「こ、これは!」


 ソロンさんが「ヒーちゃん」の後ろの地面を指さす。


 「キングボレテじゃねぇか!」

 「なんです?」

 「一番美味いキノコだよぉ! それもこんなに群生してるなんてよぉ!」

 

 俺たちも見た。

 相当な量がありそうだ。


 「香りが高くてな、それで味も濃厚なんだよ」

 「そうなんですか」


 俺も亜紀ちゃんも知らない。

 俺はハマーから70リットルのゴミ袋を何枚か持ってきた。

 みんなでキングボレテを集める。


 「採る前に必ずキャップをはたいて胞子を落としてからな!」

 「「はい!」」


 そうすることで、また豊かに生えてくるのだと言う。

 5袋も採れて、俺たちは帰ることにした。


 「優しい山の主だな!」

 「そうですか」

 「人間に山の恵みを分けてくれるなんてよ。ああいうのは滅多にいないよ」

 「へぇー」

 「お嬢さんに随分と懐いてんなぁ」

 「「アハハハハハハハ!」」


 笑って誤魔化した。

 人工山の主なのだが。


 キングボテレは凄まじい美味さだった。

 栞の家でみんなで食べてみたが、栞も桜花たちも感動していた。

 ポルチーニ茸に似ていると聞いていたが、遙かに香りも旨味も濃い。

 天ぷらにすると絶品の美味さだ。

 もちろん素焼きにしたりシチューにも入れた。

 士王も興奮して食べていた。

 なかなか舌が肥えて来た。


 「ヒーちゃんのお陰ですね!」

 「そうだな!」


 「ヒーちゃんって、誰?」


 栞に聞かれた。

 俺たちが作った山の主だと話すと、栞や桜花たちが爆笑した。


 「あなたたちって、本当に何をやってるの!」

 「そりゃ詫びのつもりだったんだけどよ。思わぬ方向になぁ」

 「いつもそうだよね!」

 「お前だってなぁ!」


 楽しく食事をして帰った。





 「タカさん」

 「あんだ?」

 「ブリーチって、どれくらいもつんですかね」

 「あ、しらねー」

 

 時々様子を見に行っているが、「ヒーちゃん」の額には、しっかりと「〇」がある。


 後日、ワキンが来て、俺と亜紀ちゃんに「山の主を育成せし者」という称号があると言われた。

 「山の主殺し」の方は消えてないそうだ。

 へぇー。

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