第771話 大森明紀

 土曜日の朝。

 朝食を食べ、亜紀ちゃんはCBRで流しに行った。

 俺はベッドに戻り、ロボと少し遊んでから論文を読んだ。

 レイは皇紀や双子たちと話し合いと勉強をしている。

 レイは漢字も覚え始め、皇紀たちとのコミュニケーションはスムーズになってきている。

 柳も大学のレポートや予習に追われている。


 論文を読み終え、俺はロボを連れて庭に出た。

 増築部分は大分出来て来た。

 ゆっくりやれと言っているが、何しろ造作が多い。

 夏まではかかるだろう。


 諸見がいた。

 また壁を見ている。

 俺とロボは後ろから静かに近づき、諸見を抱き締めた。

 ロボは足にタックルする。


 「もろみー! 捕まえたぞ!」

 「石神さん!」

 「もう離さないからな! 一緒に昼飯を喰え!」

 「そんな! 石神さん、離して下さい!」


 俺は笑って諸見の肩を叩く。

 

 「また見てたのか」

 「すいません。日の当たりを確認したくて」

 「なんだ?」

 「光の当たり具合で、壁の表情が変わりますから」

 「お前、変態かよ!」

 「へ?」


 俺は笑って昼は必ず喰いに来いと言った。




 家の外に出て、ロボと近所を散歩した。

 一回りして戻ると、亜紀ちゃんが帰って来た。


 「タカさーん!」


 目の前でバイクを降り、ロボの頭を撫でた。


 「散歩ですか?」

 「ああ、今帰る所だ」

 「じゃあ、一緒に!」


 亜紀ちゃんはロボをバイクに乗せて、押し始めた。

 何のこともない。


 「吉祥寺まで行ってきました」

 「そうか。楽しそうな街だろ?」

 「はい! オシャレな喫茶店があって、寄ってきました」

 

 亜紀ちゃんの話を聞きながら帰った。

 みんなで昼食の準備をする。

 今日はボンゴレ・ビアンコと鶏肉のハニーマスタードだ。

 諸見の分も作る。

 庭の諸見をハーが呼んで来た。


 「諸見、スパゲッティっていうんだ」

 「はい、知ってます」

 「こう、フォークでな、クルクルってやって食べるんだ」

 「あの、石神さん」

 「あ、ああ! やっぱ箸を出すよ」


 「大丈夫ですから!」


 みんなで笑った。




 昼食を終え、各自また自由にする。

 皇紀たちはテーブルで図面を拡げて話し合っている。

 柳はまた自室で。

 亜紀ちゃんは俺の傍に来た。


 「午前中はさびしかったでちゅねー」

 「いや、全然」

 「さて、何しましょうかー」

 「少し寝るかな」

 「あ、じゃあ一緒に」

 「……」


 「私と一緒は嫌ですかぁー」

 「はぁ。じゃあ、ケーキを買いに行くか」

 「はい!」


 後で誰かに買いに行かせるつもりだったが、亜紀ちゃんと出掛けた。

 「ドーカン」で大量に予約してある。

 昼のお茶の分と、夕飯後のデザートだ。

 今日は大森と弟が来る。


 途中で公園に寄った。

 缶コーヒーを買ってベンチで飲んだ。


 「大森さんって、弟さんを可愛がってるんですよね」

 「ああ。あいつの最大の心の支えだな」

 「そうなんですか」

 「だから明紀のことは絶対に悪く言うなよな」

 「分かりました」


 「大森は本当に優しい奴なんだ。あれだけ弟を思い遣るってことだけでも分かるけどな」

 「そうですね」

 「以前に一江とはよく衝突してたけどな。絶対に暴力は振るわなかった。自分がどんなに嘲られてもな。一江は結構きつい性格だからなぁ」

 「アハハハハ!」


 「一江も大森のそういう優しさに気付いたんだな。だから今じゃ大森とは大親友になった」

 「一江さんも優しいですよね」

 「ちょっとヒネてるけどな」

 「ウフフフ」


 二人で、駅前のソフトクリーム屋へ行く。


 「分かってます! 根性!」


 いつもの店員が大盛りにしてくれた。

 俺たちが美味い美味いと言って食べていると、また行列が出来た。

 暑くなってきたので、みんな嬉しそうだ。


 帰りに東中野の「ドーカン」に寄る。

 頼んでおいたケーキとジェラートを受け取った。

 亜紀ちゃんと二人で大きな手提げを持って帰った。


 家に戻り、ケーキやジェラートを仕舞っていると、大森たちが来た。


 「部長、お休みの時にすいません」

 「いいよ! 大森も泊まるのは久しぶりだよな」

 「はい!」

 「石神先生、お世話になります」

 「おう! さあ、入ってくれ」


 明紀はうちの大きさに驚いていた。

 二階に上がり、リヴィングに通す。

 お茶にした。


 大森と明紀はケーキが美味しいと言った。


 「明紀、身体は最近どうなんだ?」

 「はい、相変わらずで。無理をするとすぐに熱が出ます」

 「そうか。まあ、そういう身体なんだから、上手く付き合って行くんだぞ」

 「はい!」


 お茶を飲んで、俺は大森たちに少し寝ろと言った。


 「いえ、部長、それは」

 「明紀も疲れてるだろう。少し休め。それに今晩は「すき焼き」だ」

 「ヒィ!」

 「体力を温存しろ」

 「はい!」


 俺は二人を部屋に案内した。


 「夕飯の準備が出来たら起こすからな」

 「部長、すみません」

 「遠慮するな、お前は大事な部下だ」

 「はい」


 俺は柳の部屋へ入った。


 「石神さん!」

 「どうだ、勉強は」

 「はい、ちょっと苦労してます」

 「どこだ?」

 

 俺は幾つかアドバイスをした。


 「実験はいい相手が見つかったか?」

 「はい。生物学の専攻の女の子ですが、いい感じでやってますよ」

 「シケタイはどうだ?」

 「私も一つ受け持ちました。自分の勉強よりも大変ですね」

 「責任はな。でもちゃんと資料はもらってるだろ?」

 「はい」


 東大には「試験対策員(シケタイ)」制度がある。

 学生たちの中から選抜され、試験ごとに傾向と対策をみんなに配る役目だ。

 この制度によって、試験の成績が良くなる。

 合理的な制度だ。


 「勉強に浸れる最後の期間だ。楽しめよ」

 「はい!」






 俺はロボを連れて自分の部屋へ入った。

 亜紀ちゃんがベッドにいた。

 布団をポンポンやっている。


 俺は笑って着替えて寝た。


 「後で起こしに来ますね」

 「ああ」


 俺はすぐに眠り、いい夢を見た。 

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