第571話 月光の下で、ワルツを

 土曜日の朝。

 俺たちはしばらくロボとじゃれた。

 9時くらいに起きて、遅めの朝食を作る。

 ご飯は炊いてあるので、ベーコンエッグとサラダ、双子はそれにウインナー。


 俺は食べ終えて、ベンツに乗った。

 大使館へ行くのでスーツだ。

 病院の駐車場へ停めて、歩いて大使館へ行く。


 「タカトラ!」

 響子が俺の顔を見て抱き着いて来た。


 「迎えに来たぞ」

 「うん!」

 「六花、今日の朝は何を食べた?」

 「オムレツと野菜サラダでした。サラダは……」

 よく管理している。

 アビゲイルも来た。


 「イシガミ、大変だったね」

 「ああ。でも全部終わったぞ」

 「流石だ。ジェイにも会って行くか?」

 「いるのか!」

 「ああ。君に会いたがっている」

 「分かった」


 またマリーンに連絡していた。

 戦闘になるだろう場所は事前に伝えていた。

 前回と同じで、ターナー少将止まりということで、撮影も許可していた。


 「響子、ちょっと待っててな」

 「うん!」

 響子は笑って俺を送り出してくれた。


 アビゲイルの用意した部屋で、ジェイに会う。

 アビゲイルは出て行った。

 ソファに座り、ジェイがノートPCを俺に見せた。

 大使館前の戦闘だった。


 「RPGを撃った奴は、すぐに離脱したようだな」

 「ああ、恐らくはアダンの直属の部下だろう。いい動きだ」

 「対地雷装甲の特別車だった」

 「それを見込んでの攻撃だったな」

 次に御堂家だ。


 「これは分からん。説明してくれるか?」

 ジェイが俺に求めた。

 荷電粒子砲はいいだろう。

 問題は「オロチ」と「クロピョン」だ。


 「あそこには、皇紀システムと名付けた防衛システムがある。それは知っているな?」

 「ああ。今回使った荷電粒子砲と、あとはレールガンだな」

 「そして生物兵器ということだ」

 「あの大蛇か!」

 「そう捉えて欲しい。まあ、正確には「ガーディアン」だ」

 「神話かよ……」

 ジェイはため息をついた。


 「ジェイ、見たものを受け入れろ」

 「分かった。突然装甲車と歩兵が沈黙したのも、大蛇の力か?」

 「そう思っておいてくれ」

 「そうか。攻撃の内容がさっぱり分からんが」

 「神話だ。俺たちには理解できんよ」

 ジェイは不服そうだが、了解した。

 まだ100%味方になったわけではない。

 そのことは、ジェイも分かっている。


 「もう一か所、攻撃を受けたんだよな」

 「そうだ。お前たちには教えていない場所でな。そこも撃破した」

 「どういう方法かは教えてもらえるのか?」

 「皇紀システムだと思ってくれ」

 「分かった」

 ジェイはPCを操作して、最後の戦闘を出した。


 「これは、理解できるものも多い。特にM82のスナイパーは最高だな!」

 「アハハハ。あいつも喜ぶよ。実際、非常によくやってくれた」

 「「ハナオカ」のアーツも幾分かは分かる。タイガーたちは控えめだったということもな」

 「じゃあ、敵にも知れているだろうな」

 

 映像は最後の戦闘に差し掛かる。


 「問題はこれだな」

 「ああ。ジェイには分かるか?」

 「いや。でも、俺の勘ではアメリカのものだろう」

 「やはりそうか」

 「ここまで高度な人体改造と装備を考えれば、自ずとな」

 「アダンは「ヴァーミリオン」と言っていた」

 「分かった。そっちは俺も調べよう」

 「頼む。俺たちの戦闘を横合いから邪魔してきやがった」





 俺はジェイと別れ、響子と一緒に大使館を出た。

 響子を抱き上げて出る。


 「響子、今日は俺の家に来いよ」

 「いいの!」

 「ああ。今日は響子と一緒にいたいんだ」

 「嬉しい!」


 「あの、石神先生?」

 六花がもじもじしている。


 「お前はバイクで来てくれ」

 「は、はい!」

 「家でゆっくりしてからでいいぞ? 慣れない大使館で疲れただろう」

 「いいえ! 石神先生のお傍がいいです!」

 「そうかよ」

 俺は笑って六花を引き寄せた。

 病院の駐車場で響子をベンツに乗せ、六花は一度家に戻った。




 子どもたちが響子を歓迎し、昼食の準備をした。

 俺は響子のためにキノコのリゾットを作った。

 子どもたちは朝が軽かったので、唐揚げを大量に作っていた。

 響子にも一つもらう。


 六花が来て、ライダースーツで喰い始めた。

 好物の唐揚げを頬張って、ニコニコしている。

 みんながもっと食べろと勧めた。

 食い意地の張った連中だが、六花の笑顔は何よりも崇高だ。

 食べ終わったロボが六花の腿に前足を乗せる。

 六花は人気者だ。


 響子を寝かせ、俺は六花に戦闘の経緯を話した。

 地下室へ移っている。


 「その「ヴァーミリオン」ですか。次は私が撃破します」

 「頼むぞ。でも、あれはまだ完成形ではなかったようだ。今、蓮花の研究施設で調べている」

 「そうですか。ああ、またあそこへ行きましょうよ!」

 俺は笑って必ず行こうと言った。


 「ラビ、可愛かったなー」


 「それはそうとなー」

 「石神先生?」


 「ここは完全防音だ。鍵もかけた」

 六花はいきなり全裸になった。

 俺たちは思い切り愛し合った。





 「おい、子どもたちに見つかるなよ?」

 「はい!」

 俺たちはそっと風呂場へ向かった。

 全裸だ。

 二人でクスクスと笑い合う。


 リヴィングの戸は閉まっている。

 子どもたちは勉強中だ。


 ダッシュで通り過ぎたが、ガチャリと戸が開いた。

 二人とも硬直する。

 ロボだった。

 二人で笑って風呂場へ急ぐと、ロボもついてきた。


 一緒に風呂に入る。

 ロボは濡れていない床で伏せていた。


 また二人で全裸で俺の部屋まで行き、俺の部屋に備えてある六花の下着を出し、ジャージを着せた。

 ベッドで響子がスヤスヤと寝ている。

 六花を響子の隣に寝かせた。

 俺は地下へ行き、消臭剤を撒いて換気扇を最強にする。

 六花のライダースーツを持って部屋に戻る。


 俺も響子を挟んで寝た。




 少し経つと、響子がモゾモゾし始めた。

 六花も気付いて起きる。

 俺が耳元で「コショコショ」と言うと、響子が「エヘヘ」と笑った。

 六花が笑いを堪えている。


 「タカトラー」

 響子が俺に抱き着く。

 チュッチュしてやる。

 双子が起こしに来た。

 俺たちは顔を洗ってリヴィングに降りた。


 炊き込みご飯とサンマの焼き物とマメのサラダ。

 吸い物は頂き物の松茸だ。

 香りがいい。

 俺が響子にサンマをほぐしてご飯に乗せてやると、美味そうに食べた。

 六花がニコニコと見ている。


 夕飯後はみんなでまた人生ゲームをした。

 六花と響子と俺で風呂に入る。

 響子はずっと笑って俺たちを見ていた。


 俺は井上陽水の『とまどうペリカン』を歌った。

 六花が歌い始めたので湯船に沈めた。

 響子が笑った。





 響子を寝かせ、俺と六花はバイクで出掛けた。


 「どこへ行きますか?」

 「竹芝桟橋へ行こう!」

 俺と六花は誰もいない倉庫群にバイクを停めた。


 「ああ、綺麗ですね!」


 俺は六花を見つめた。

 本当に綺麗だ。




 俺は六花を呼び、向かい合って肩を寄せた。

 『ドナウ河の漣』を歌った。

 俺はゆっくりと動き出す。


 「石神先生?」

 「踊ろう六花」

 「え、でも私、ダンスはできません」

 「大丈夫だ」


 俺はゆっくりと歌い動いた。

 六花がステップを把握していく。

 すぐに覚えた。

 ニッコリと笑った。

 輝くような笑顔だった。

 俺も笑い、最初から歌った。


 月光の下で、俺たちはワルツを踊った。


 六花は楽しそうに笑って輝いた。


 「ワルツは独りじゃ踊れない」

 「はい」

 「お前が必要だ、六花」

 「はい」

 

 「お前を愛している」

 「私も愛しています」






 月光の下で、俺たちはワルツを踊った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る