第572話 それぞれの明日

 日曜日の朝。

 響子に鼻をつままれて起きる。


 「俺の鼻をつまむってことは、パンツを脱がされたいってことだな!」

 女はいつでもパンツを脱がされたがっていると、エロ小説の大家・川上某が言っていた。 


 「いやー!」

 女が嫌だと言うのは、「もっとやれ」という意味だと、縄師・某紫光が言っていた。

 俺が先人の言葉に従おうとすると、六花が響子の向こうでパンツを脱いでいた。

 俺にここを触れと指さしている。


 俺は響子の額にキスをして起きた。

 六花が指さしている。

 ニコニコしている。


 「顔を洗って来い!」

 俺は二人を追い出した。

 ロボの頭を撫でて、ゴロゴロさせた。

 




 顔を洗い、ロボと下に降りると、子どもたちが待っていた。


 「おはよう」

 「「「「おはようございます!」」」」

 「今日は二人多いが、うちの食費にダメージはないな!」

 「「「「はい!」」」」


 「では、いただきます」

 「「「「いただきます!」」」」


 今日は卵かけご飯の日だ。

 子どもたちは厚切りベーコンを好きなだけ取り、卵かけご飯を満喫している。

 六花も同様だ。

 響子は六花に卵を割ってもらい、黄身だけ納豆の上にかけた。

 美味そうに食べている。

 俺はコーヒーだけを飲み、響子にスフレを作ってやろうとした。

 子どもたちがじっと見ているので、子どもたちの分も作る。

 六花もじっと見ているので、頷く。

 六花がニコニコした。


 ロボには、亜紀ちゃんがササミを焼いたものとカリカリを出している。

 ロボはそれに夢中だ。


 「おいしー!」

 食後にみんなが喜んでくれた。

 

 六花が響子をタクシーに乗せ、バイクで並走して一緒に帰った。

 俺は栞に電話し、家に遊びに行った。






 「待ってたよー!」

 栞は玄関で抱き着いて来た。

 俺は苦笑して抱き締めてやり、組み手をしようと誘った。

 道着に着替えて道場でやる。


 続いて木刀でやり合った。

 栞は一通りの武器に精通している。

 銃火器も含めてだ。


 「あー、石神くんについに剣でも勝てなくなったー」

 「やっと刃渡りの長いものの感覚が掴めたよ」

 「なんでそんなに強いの?」

 「戦うのが好きだからだろうな」

 栞は上がった息を息吹で鎮める。

 シャワーを浴びて着替えた。

 リヴィングでコーヒーを飲む。


 「石神くんはスポーツ万能だよね?」

 「いや。球技とかは全然だよ」

 「そうなの!」

 「ああ。バレーとかもう全然ダメ。バスケットとかもな。野球も打つのと投げるスピードだけだな」

 「意外ね?」

 「そうか? 俺ば別に運動神経がいいわけじゃないよ。相手をぶちのめすことだけよな」

 「ふーん」


 栞が昼食を食べて行って欲しいというので、甘えた。

 家に電話して、俺の分はいらないと言う。


 「何が食べたい?」

 「今朝は喰わなかったから、重ためのものがいいな」

 「カツ丼とか!」

 「いいな!」

 俺が手伝おうとすると、座っててくれと言われた。

 栞が上機嫌で作る。

 俺が脂身が好きではないのを知っているので、ヒレ肉を使ってくれる。

 その代わり、揚げるのはラードだ。

 

 「お替りするよね?」

 「ああ、頼む」

 その分のカツを用意する。

 食べながら、俺は栞に聞いた。


 「最近鷹と仲がいいじゃないか」

 「うん」

 「悪いことじゃないけど、何かあったのか?」

 「うん、まあね」


 「なんだよ」

 俺は笑った。

 恥ずかしがることでもないだろうに。


 「まあ、あったと言えばそうなんだけど。ちょっと鷹の悩みを聞いてるって感じかな」

 「悩み?」

 「うん。もっと強くなりたいって」

 「なってるだろう」

 「そうなんだけど。まあ、人によって悩みは違うよ」

 「そうだなぁ」


 栞が二杯目のカツ丼を作り始めた。

 俺は茶を飲みながらしばし待った。


 「じゃあ、今度鷹に聞いてみるか」

 「待って! 今私がいろいろ聞いているから」

 「そうか?」

 「うん。女同士がいいこともあるよ」

 「そういうものかな。じゃあ宜しく頼む」

 「うん!」


 俺はこの時にもっと突っ込むべきだった。

 後になって、俺は激しく後悔することになる。

 俺は鷹の深い悩みと決意を推し量ることができなかった。


 コーヒーを飲んで、俺は栞の家を出た。

 久しぶりに、と思っていたが、栞はその気はないようだった。

 最初の玄関での情熱との変化に、俺は思い至れなかった。

 栞も悩んでいたのだと、後に俺にも分かった。







 

 月曜日。

 一江の報告を聞きながら、俺は終始ニコニコしていた。


 「以上です、気味が悪い上司」

 「え? ああ、終わったか。今日も一江はカワイイな!」

 「は?」

 「今日は道端の石ころにも声をかけたい気分だ」

 「ちょっと、ひどくないですか?」


 「ああ、もちろんお前は石ころ以上だ。自信を持っていいぞ!」

 「……」


 俺は部下たちに向かって言った。


 「みなさーん! 御堂は大好きですかぁー!」

 「はーい!」


 全員が右手を上げて返事した。

 俺は大満足だった。

 やっぱ、みんな御堂が好きなんだ。

 そりゃそうだ。


 「部長、上機嫌の理由は分かりましたけど、御堂さんがいらっしゃるんですか?」

 「どうして分かった! お前はやっぱり天才か!」

 「褒めなくていいです。いつです?」

 「来週の金曜からだ。二日も泊まってくんだぞ!」

 「おめでとうございます」


 「ああ、ここにも来るからな。響子とか六花、まあ院長にも紹介しよう。お前も会いたい?」

 「はい、お願いします」

 「しょーがねぇーなー! よし、俺に任せろ!」

 「……」


 一江が部下たちに、何か失敗の報告やお願い事は今だと言っている。

 聞こえているが、気にしない。

 その通りだからだ。

 一江が「山里」で食事がしたいと言うので、大森と一緒に行った。

 大森が美味い美味いと感動して食べた。


 「大森、お前はそろそろ斬の所へ行くか」

 「はい?」

 「大分仕上がって来ただろう。一江を守れるようにはなってきたよな」

 「そうですか!」

 「だから、斬の所で基本を学んで来い。それにあいつなら、お前に合った鍛え方を教えてくれるだろう」

 「分かりました!」


 「一江、お前も一度蓮花の研究所へ行って来い」

 「はい。よろしいんですか?」

 「お前もいろいろ知っておいた方がいいだろう」

 「是非!」

 「AIが本格稼働しているからな。そっち方面で話を詰めて来い」

 「分かりました!」

 「二人とも、来週は休暇をとってもいいからな。何泊か行って来い」

 「「はい!」」


 帰り道で、俺は歌いながら坂を下った。



 ♪ もーいくつねーるーとー みどうくんー ♪






 一江と大森がじとっとした目で俺を見ていた。  

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