第566話 聖、帰国

 翌朝。

 今日は金曜日だが、全員休みとする。

 俺の方は一江と大森が何とでもするし、子どもたちも問題ない。

 栞と鷹はちゃんと出勤するだろう。

 響子は六花が一緒だ。

 念のため、今日一日は大使館にいる。

 もちろん、無事に片付いたと連絡は入れてある。


 俺はやめておけと言ったが、双子が聖の寝込みを襲うと言った。


 「常在戦場!」

 「一度はボコっておかないとね!」


 そっと客室のドアを開け、中に忍び込んだ。

 いきなり、廊下へ吹っ飛ばされてきた。

 俺が受け止める。

 二人とも失神していた。


 「おう! よく眠れたか?」

 「おう! 最高だぜー!」

 俺は笑って朝食を用意すると言った。

 双子を抱えてリヴィングのソファに座らせると、目を覚まして悔しそうな顔をする。

 亜紀ちゃんが聖のためにハンバーガーを作っている。

 これもやめておけと言ったが、作りたいらしい。


 俺はロボのために、ひき肉をもらい、小さなハンバーグを3つ作った。

 少なめの油で炒める。

 ロボはガツガツと食べた。


 「タカさん、どうでしょうか?」

 亜紀ちゃんが出来たハンバーガーを持って来る。


 「あいつの好みじゃねぇなぁ」

 「そうですか」

 「ハンバーグが良すぎる。バンズとのバランスが悪い。俺が作ろうか?」

 「お願いしていいですか?」

 俺は亜紀ちゃんのものよりも薄く2枚作った。

 チリソースをかけ、アボガドと炒めたタマネギ、レタスを挟む。

 バンズを少し燻製にする。


 「聖を呼んできてくれ」

 「はい!」

 皇紀が起こしに行った。

 普通に連れてくる。


 「ハンバーガーを作ったんだ。味見してくれよ」

 「おう!」

 聖は亜紀ちゃんのから掴んだ。

 挟んだ側面を見ている。


 「なんだ、こりゃ」

 かぶりついた。


 「まっずいなぁ」

 「すいません!」


 俺の作ったものを掴んだ。

 かぶりつく。


 「こっちはうっめぇー! おい、なんだよこれは!」

 亜紀ちゃんが驚いている。

 聖は3口で全部食べた。

 亜紀ちゃんがコーラを持って行くと、ゴクゴクと飲んだ。


 「最高だな!」

 俺は笑ってもう三つほど作ってやる。


 「やっぱ、トラの作ったもんはうめぇな!」

 「そうかよ。もっと喰うなら言ってくれ」

 「お前! なんでそんなに優しいんだ?」

 「お前が大好きだからな」

 「そっか!」

 亜紀ちゃんと皇紀が笑っている。

 双子は睨んでいる。






 みんなも食事をし、コーヒーを飲んだ。


 「トラ」

 「なんだよ」

 「あの機械人形な」

 「ああ」

 「あれは気を付けろよ」

 「そうだな」


 「俺たちはどんな戦場でも戦える」

 「ああ、そうだな」

 「でも、あれは戦場のものじゃねぇ」

 「ああ」

 「掃除機みてぇなもんだ」

 「なるほどな」

 「次はフレシットでもダメかもしれねぇ。とにかくもっと強力な武器が必要だ」

 「用意しておく」

 聖の戦闘センスは最高だ。

 次は必ず撃破するだろう。


 「おし! じゃあ帰るか!」

 「おい、ちょっとはゆっくりしろよ。久しぶりにいろいろ話そう」

 「もう十分に話したよ。お前は相変わらず面白いことやってるしな。俺も楽しんだ」

 「そうか」






 「ああ、俺、結婚するかも」


 「「「「「なにぃ!」」」」」

 俺たちは驚いた。


 「こないだトラに呼ばれたじゃん」

 「ああ!」

 「ハワイでメイドを雇ってさ」

 「おう!」

 「そいつ」

 分からねぇ。


 「相手は何歳だよ?」

 「あ? 知らねぇけど30前後じゃね?」

 「お前、ババァ趣味だったじゃねぇか!」

 「そうだけどよ。あいつ、美味いハンバーガーを作るんだよ」

 「それで?」

 「あとセックスの相性がいいかな」


 「十分だな!」

 「おう!」


 写真を見せろと言うと、スマホの画面を開いた。


 「すっげぇ美人じゃねぇか!」

 「そうか? まあ女は顔じゃねぇけど」

 噛み合わない。

 しかし、アメリカ的な美人だ。

 プレイボーイのグラビアが飾れる。

 金髪で胸が大きい。

 子どもたちも見て驚いている。


 「一緒にいれば、いずれ俺好みにもなるしな」

 「そうだな」

 「お前も結婚しろよ」

 「俺はいいよ」

 「傍で世話焼いてくれるのっていいもんだぞ?」

 亜紀ちゃんが立ち上がった。

 自分を指さしている。

 笑った。


 「ああ、そうだな」

 亜紀ちゃんも笑った。

 聖はスマホでチケットを取った。

 俺は羽田まで送ることにした。





 「なんだよ、この車は!」

 アヴェンタドールだ。

 

 「カッチョイイだろう?」

 「バカみてぇ」

 「あんだと!」

 「お前もそろそろ落ち着けよ」

 「!」

 まあ、結婚祝いだ。

 今日は喧嘩しない。

 聖は小さなボストンバッグを抱えて乗り込んだ。


 「お前、そん中何が入ってんだよ?」

 「ああ、聖書とテンガとDVD」

 「聖書?」

 「そうだよ。お前も読めよな」

 「読んだよ」

 「まじか!」

 「おう」


 聖の変化に驚いた。


 「アンジーが勧めるから読んでるんだ」

 「へぇ」

 彼女はアンジェラか。


 「よく分かんねぇけどさ。毎日読んでる」

 「そ、そうか」

 夕べ、俺に教会へ行こうと言ったのは、そのせいか。

 大分アンジーに惚れているらしい。


 




 空港で、また出発ロビーで別れようとした。

 聖が手荷物検査を受けていた。

 俺は何げなく見ていた。

 最後の背中に声を掛けようと思っていた。


 「ウエェーー!」


 検査員が叫んだ。

 あのバカはガンとか入れてたか!

 俺は不測の事態に備えた。

 何かあれば全員ぶちのめして、聖と逃げ出すつもりだ。


 検査員が顔をしかめて「テンガ」を摘まみ出した。

 中からドロリと白いものが零れる。


 「あ、洗ってなかった!」

 「!」

 「おい、トラ! これ持ち帰ってくれよ!」

 聖が俺に向かって言った。


 「悪いけど、持ち帰って!」


 




 俺はダッシュで逃げた。 

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