第565話 ギュインギュインだぜぇー!
栞は家に帰り、鷹もそっちへ行った。
一江と大森は皇紀と少し話し合うようだ。
俺は他の三人の子どもたちと聖とでリヴィングにいた。
「このネコ本当にカワイイなぁ」
「お前が動物好きなんて初めて知ったぞ」
聖がロボを抱いて撫でている。
気持ちが悪い。
「お前、早く風呂に入って寝ろよ」
「ああ。じゃあテンガ貸して」
双子が不快な顔をし、亜紀ちゃんは笑っていた。
俺は部屋の金庫を開け、テンガを聖に渡した。
「風呂場では使うな」
「分かったよ!」
それでも持って行こうとするので、俺が取り上げた。
亜紀ちゃんがコーヒーを淹れてくれ、双子はミルクセーキを飲んだ。
「ルーとハーは大丈夫か?」
「「うん!」」
ハーは手術後だ。
まあ、院長の手で完全に治っているが。
ルーももう肉が盛り上がってきている。
大した奴らだ。
「亜紀ちゃんも大丈夫だよな」
「はい。でもとんでもない敵でしたね」
「ああ。「ヴァーミリオン」と言ってたな」
「朱色のこと?」
ルーが聞いた。
「そうだな。辰砂、硫化水銀の色のことだ。他にもあるのかもしれんがな」
「絵の具の色だよね」
「ああ。昔は本当に水銀を使ってたんだけどな。猛毒なんで今は別な化学配合で作ってる」
俺は皇紀たちを呼んだ。
「どうだ、何か出たか?」
「はい。「花岡」無効の件ですけど、やっぱり「闇月花」の波動解析じゃないかと。一江さんが量子コンピューターで解析したら、ちゃんと出ました」
「そうか」
「大型の弾頭の方が再現しやすいのも分かりました」
「じゃあ、対物ライフルの方が怖いわけだな」
「はい」
「対策は出来るか?」
「そうですね。機械的には、今日僕がやったことの延長なんですが。でももっと簡単に「花岡」で出来るんじゃないかと思います」
「分かった。蓮花の研究所ではもっと詳しい解析が出来るだろう。皇紀、必要ならまた行ってくれ」
「はい、喜んで! また蓮花さんやミユキさんにも会いたいですし」
俺は笑って皇紀の頭を撫でた。
「じゃあ一江と大森はもう帰れ。何かあったら知らせろ。すぐに行くからな」
「はい、部長。お疲れ様でした」
「ああ、お前らもな」
亜紀ちゃんがタクシーを呼んだ。
聖が風呂から上がった。
ニコニコ顔でテンガを俺にせがむ。
「よく他人が使ったの平気よね」
ハーが言う。
「ああ? だってトラとはよく同じパンツ履いてたもんな!」
「あれはお前がいつも間違えてたんだろう!」
「お前だって、俺が発射したパンツはいて「ベトベトだぁ」って言ってたじゃんか」
「てめぇが俺のカゴに入れたんだろう!」
「だって、お前よく洗濯してたからさ。一緒に洗ってもらおうかって」
「もういい! 寝ろハゲ!」
「あ、DVDもくれ」
俺は頭を抱えながら、寝室から聖好みのものを何枚か渡した。
「新しいテンガ買っときますね」
亜紀ちゃんが言った。
「い、いらねぇ」
なんなんだ、この家は。
皇紀と双子も風呂から上がり、俺は亜紀ちゃんと一緒に入った。
いつものようにお互いの背中と髪を洗い、湯船に浸かった。
「これでしばらくは平和ですかね」
「そうだといいな」
「タカさんはどう思います?」
「まあ、しばらくはないと思うけどな」
「そのココロは?」
「今回のデータ解析が必要だからだよ。俺たちの防御力と戦力を観測したわけだからな」
「それには時間がかかるってことですか」
「ああ。結果論だけど、俺たちは「花岡」をほとんど使わなかった。聖がまたいい仕事をしてくれたお陰が大きいけどな」
「じゃあまた観測に来るかもしれないじゃないですか」
「いや。あれが俺たちの実力だと思うよ。対「花岡」が有効だって思わせたからな。その改良にかかるだろう」
「なるほど!」
「それと、今回は御堂の家でも蓮花の研究所でも、荷電粒子砲しか使ってない」
「はい」
「レールガンの情報は得ていると思うが、それが実現しなかったと判断する」
「そうなるんですか?」
「ああ。レールガンを使うべき場面で使わなかったからな。荷電粒子砲は射程が短い。接近させてから撃たなければならないのは、レールガンが使えないという結論になる」
「なるほど」
「あとは「クロピョン」だ」
「あれは分かりませんよね!」
「そうだ。解析のしようがねぇ。だから一生懸命考えなきゃならん」
「オロチは?」
「あれはもう驚天動地だろうよ! 怪獣が守ってるなんて想定外どころじゃねぇ」
「アハハハハ」
「まあ、目に見える分対策も考えるだろうけどな。もっと重火器での集中攻撃とかなぁ」
「そんな! オロチがカワイソウですよ!」
「そうだな。あいつも守ってやらんとな」
「はい!」
「最大の問題は」
「ヴァーミリオンですよね」
亜紀ちゃんが響子のアヒルを胸に乗せて俺に見せようとした。
ちょっと動いたら滑り落ちたので残念がる。
「あれは俺たちにとっても大問題だ。蓮花がどこまで聞き出せるかにかかってるな」
俺がオチンチンにアヒルを乗せて見せると、引っぱたかれた。
オチンチンへの攻撃は辞めろと言った。
すいませんと謝られた。
「ヴァーミリオンはどこかの先進国が作っているのは確かだ。膨大な開発費と無慈悲な研究者が集まっている」
「蓮華の兵士と同じってことですか」
「そうだな。それ以上かもしれん」
「敵が増えましたね」
俺は亜紀ちゃんを抱き締めた。
「でも良かった」
亜紀ちゃんが言った。
「何がだ?」
「もしかして、タカさんが落ち込んでるんじゃいかって」
「ああ」
「ハーが大怪我して、ルーも傷だらけでしょ? だからタカさんがまた「俺のせいでー」って泣いちゃうかって」
「そうだよな」
「泣いてませんよね」
「お前たちは俺と一心同体だからな」
「はい!」
「それにな、あいつらはもっと負ける経験が必要なんだよ」
「負けですか」
「ああ、自分がまだまだダメだって思ってねぇとな」
「なるほど」
「亜紀ちゃんも今回はやばかったよな」
「はい。「花岡」を使いそうになっちゃいました」
「よく我慢したな」
「タカさんは私たちのために「使え」って言ってくれましたけど。でもギリギリまではって」
「そうか」
「それにしても聖さんは凄いですよ!」
「ああ」
俺は笑った。
あのバカを手放しで褒める人間は非常に少ない。
俺も嬉しかった。
「なんなんですか、あの戦闘センス! 何の打ち合わせもなくて、ちゃんとフォローも攻撃もこなしてて。「花岡」を知らないのに、私たちが苦労する敵とちゃんと渡り合って」
「まあ、元々が打ち合わせの出来ねぇバカだけどな」
二人で笑った。
「でも、バカだから強いってこともあるんだよ」
「はい」
「今回だって、皇紀の言うことを信じ込んでたら大変なことになってた」
「タカさんも賛成してましたけど」
俺はオッパイを揉んだ。
滑り落ちる真似をすると怒られた。
「聖にはまた世話になったよなぁ」
「はい。聖さんがいなければ、私が着く前に双子がやられてたかもしれません」
「十分に礼をしないとな」
「はい!」
俺と亜紀ちゃんが風呂から上がって寝室へ行くと
「ふはわぁーーー! ギュインギュインだぜぇ! ホッホッホ、フッワァーーーーー!!!」
もう礼は十分だろうと二人で話した。
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